FIA F2もヨーロッパラウンドに入り、いよいよ本格的な争いへと突入してきた。シーズン序盤戦は開幕前からのエンジンやクラッチなどのトラブルが解消されないままの実戦だったが、ここにきてこうしたトラブルも落ち着いてきた感がある。
そんな中でロシアンタイムの牧野任祐は着実に一歩前進を果たしたが、アーデンの福住仁嶺は一歩後退で泥沼にはまってしまった。
牧野は予選で7番手を獲得したが、最終アタックを前走車に三度にわたって妨害された上での結果であり、本人は「3位か4位にはいけた」と悔しがるほどの速さがあった。
「前にいたジャック(・エイトケン)がターン4でミスをしてバックオフしたんで、それで僕も煽りを喰らってアタックできなくなってしまったんで、仕方ないからそのラップは捨ててクールダウンして次の周にもう1回アタックしたんですけどまたジャックがターン2でミスをしてまた煽りを喰らって、最終的にやっと僕がタイムを出せたのは3周目だったんです。だからタイヤの美味しいところは終わってしまっていたし、このラップもターン1の飛び込みの手前でセルジオ(・セッテ・カマラ)がピットアウトしてきて交錯するし、このタイムしか出せませんでした。余裕で3位か4位にはいけたはずだし、本当に悔しい……」
しかし牧野の課題はレースでのロングランだった。予選でも使用したオプションタイヤ(ソフト)では悪くなかったが、プライムタイヤ(ミディアム)でのペースは今回も伸び悩んでしまった。
チームメイトのアルテム・マルケロフをもってしてもそれほど速くはなかったため、今回のロシアンタイムは苦戦を強いられていたようだ。とはいえ、ロングランを速くするためのマシンセットアップと走らせ方には改善の余地が見えてきた。
「オプションのペースは悪くなかったし本当はもう少しオプションで引っ張りたかったんですけど、(13周目の)VSC明けにターン1で大きくロックしてしまって、それでピットインしなければならなかったんですけど、プライムではマシンバランス的にオーバーステアが強くて苦戦しました。VSCでフロントの温度が下がるとバランスが良くなって、そこからフロントが温まってくるとまたオーバーステアになるっていうことが起きていました」
最後は予定よりも長く走ったプライムタイヤでフレッシュなオプションタイヤに換えたばかりのマルケロフと戦うことになり、スタートから60分が経過しチームから最終ラップだと聞かされた35周目はなんとか抑え切って8位を守ったものの、実際にはもう1周ありレース2のポールを獲ることはできなかった。
それができていれば日曜のレース2は全く違った展開になっていたはずだが、9番グリッドからスタートした牧野はダンプとラインドライが混在する難しい路面コンディションの中でタイヤに熱が入らず苦戦し、5周目にあろうことか福住と接触して2台リタイアという結果に終わってしまった。
「最初の方は結構濡れてましたね、特にターン5~6あたりは濡れていて、ターン4のイン側も濡れていたんでおそらくそれで仁嶺は止まりきれなかったんだと思います。あそこではいるのはちょっと無理ですよね、さすがに」
「(福住のクルマは)一瞬見えましたけど、その時には僕はもうコーナーに入っていってましたからね。向こうのクルマが乗り上げてくるのは見えなくて気付いたら刺さってましたけど、ハロが役立った第1号が僕だと思います。ハロがなかったら頭に当たっていたと思いますよ」
牧野にとってはユーロF3のテスト以来2回目の走行でしかなかったバルセロナだが、予選一発で上位を争う速さが確認できたことは収穫だった。しかしF2はレースペースが全てのカテゴリーであり、特にプライムタイヤでのペースとタイヤマネージメント向上が必要という課題が改めてハッキリと見えたレースでもあった。
「オプションが良かった割には、ちょっとプライムのスティントに苦戦していますね。一発はかなり良くなってきましたけど、ロングランはまだまだ課題が多いですね。アルテムのデータを見ても、どんな走らせ方が良いのかはまだ掴み切れていません」
一方の福住はフリー走行から速さがなく、予選でも速さを発揮することができなかった。マシンとしてのフィーリングは良いがタイムは出ないという不思議な状態だった。
「どうしてこんなに遅いのか、全く分からないんです。チームメイトも全く同じフィードバックで、マシンバランスは良いしグリップ感が無いという感覚も全然無くて、クルマのフィーリングは良いんです。自分としてはかなり攻めてすごく良いラップが決められたと思ってタイムを見ると、全然出ていないという状態です」
「アウトラップのプッシュが足りなくてタイヤにしっかり熱が入れられていないのかもしれないとチームは『もっとプッシュしろ』って言うんですけど、僕も(僚友マキシミリアン・)ギュンターもこれ以上ないくらいプッシュしてますからね。何が悪いのか全く分かりませんけど、チームのタイヤの使い方が根本的に何か間違っていると僕は思っています」
レースペースはやや持ち直したものの、1周目のターン4でコースオフしてしまったこともあり17番グリッドから入賞圏内まで追い上げるには充分ではなかった。
「前がいなくなって11位になったというだけです。ペースは悪くなかったかもしれないですけど、結果は結果だから僕は全然満足できていないし、気持ちは晴れていないです。もし1周目に飛び出していなければ(レース2の上位グリッドとなる)トップ8に入っていたかもしれませんけど、トライした結果飛び出したので僕は全く後悔はしていません」
そしてレース2では牧野とクラッシュしてリタイア。福住にとってはGP3初年度で初表彰台、昨年は優勝した相性の良いバルセロナだったが、今年は散々なレース週末となってしまった。
しかし問題はそれ以前にチームとの信頼関係が構築できていないことだ。昨年まで下位に低迷していたアーデンは今季新たなエンジニアをカーリンから獲得して臨んでいるとはいえ、福住の担当は従来からアーデンにいるエンジニア。
福住本人が語っているとおり開幕前のテストから今に至るまでずっとタイヤの扱いやドライビングに関しても相互理解や価値観の共有ができておらず、不振の理由をお互いになすりつけ合っている状態だ。これでは不振の真の理由を究明することはできず、今後に向けて何らかの手を打たなければ泥沼は深まるばかりだろう。
一歩前進でき課題が明確になった牧野と、一歩後退し泥沼にはまった福住。次はモナコという特殊なサーキットに2人とも初挑戦することになるだけに、2人ともにここで一度立ち止まってしっかりとした次の一歩を見つめ直さなければならないだろう。