2018年05月15日 20:12 弁護士ドットコム
新潟市の小学2年生の女児が殺害された事件で、新潟県警は5月14日夜、近所に住む会社員の20代男性を死体遺棄・損壊の疑いで逮捕した。
【関連記事:猫20匹「飼育放棄」ケージ野ざらし、ミイラ化死骸も…「ネグレクト」の現場】
逮捕された男性は14日朝、任意同行を求められ、捜査本部から事情を聴かれていた。朝日新聞(5月14日)によれば、男性のものとみられる黒い軽自動車を、別の3台の車が取り囲み、乗っていた警察官が軽自動車を囲んで声をかけていたという。
ネットでは、テレビで放映された任意同行時のイメージ画像が出回り、「任意同行なのに車で車を取り囲むっていいのか」「任意ではない」「抵抗する気もなくなる」といった意見もみられた。
任意同行とはどのような場合に行われるのだろうか。今回の事案のように、取り囲んだ場合、実質的な逮捕にあたるとの声もある。今回の任意同行に法的な問題はなかったのか。高橋裕樹弁護士に聞いた。
今回の事件への対応をどう評価しますか。
「報道によれば、軽自動車を3台の車で囲んだうえ、その後、5~6人の警察官が自動車を取り囲んでいるという状況であり、およそ任意同行を拒否してその場を去ることができない状況だったようです。これは、実質的な逮捕であったと評価される方向の事情であると思います。
また、任意同行を求めた午前7時ごろから逮捕した午後9時50分まで、12時間以上も任意の事情聴取が行われていることも同様だと思います。
一方で、(1)事案が重大であること、(2)職務質問開始後の現場での説得時間が10分程度であること、(3)任意同行を求めた場所が道の駅という公共の場所であること、(4)暴力などを用いていないことなどの事情は、適法な任意同行であったと評価される方向の事情でしょう。
当然、報道に出ていない同行時の事情や、同行後の取調べの態様など不明な点も多いため、断定的な判断は不可能ですが、今ある事情を踏まえると、個人的判断としては、法的には実質的な逮捕との結論にはなりにくいのかなと考えています。
そして、判例などを踏まえると、裁判所はそんなに簡単に任意同行を『違法』と判断しないのが実情ではないかと思います」
過去の判例などでは、どのように判断されていますか。
「実質的な逮捕かどうかのポイントを簡単にまとめますと以下のようなものがあります。
(1)同行を求めた時間が日中か早朝・夜間などの日常活動外の時間帯か、
(2)同行場所までの移動距離、
(3)同行を求める警察官の人数や態様、暴力が用いられたか、
(4)同行時や同行後の監視体制、
(5)同行後の取調べが長時間に及んでいたり深夜にまでわたっていないか。
これらと事案の内容や犯罪の特殊性などの点を考慮して判断されることになります」
そもそも、任意同行はどのような場合に行われるのでしょうか。
「任意同行は、大きく2つの場合に認められます。一つ目は、被疑者の取調べなど犯罪捜査のために警察署等に出頭を求める任意同行(刑事訴訟法198条)と、職務質問の便宜のために近くの警察署などに同行を求める任意同行(警察官職務執行法2条)があります。
今回のケースは、新潟県西区の道の駅で被疑者を発見し、事件との関係性等についての取調べを行うために警察署への出頭を求めたのでしょうから、前者の任意同行にあたるものと思われます」
任意同行は実質的な逮捕なのでしょうか。
「法律論に踏み込むと非常に難しい話になってしまいますので、簡単に説明しますと、捜査の方法には大きく任意処分(任意捜査)と強制処分(強制捜査)があります。
強制処分を行うためには、法律の手続きに従って、裁判所から令状(逮捕状)をもらうなどの手続きを踏まなければならないのが原則です。
一方、任意出頭は、その名のとおり任意処分ですので、令状などをもらう必要はありません。任意ですので、警察官からの話しかけを無視することも、出頭を拒否することもできますし、一度出頭した後に好きなタイミングで帰ることもできます。
しかし、逮捕には最大72時間以内に検察庁に送らなければならないという時間制限があります。逮捕をする前にできる限り取調べ時間を確保したいという警察側の思惑や、令状をとる時間的な余裕がない、令状の発布を裁判所に求めるだけの証拠がない、さらには単に令状をとるのが面倒などの理由から、本人が拒否をしているのに、強引に警察署に連れて行くようなケースも現実に起きています。
このように、本人の意思に反して強制的に警察署に連行する行為は、実質的には強制処分である逮捕にあたります。そしてこの場合、令状を取ることなく逮捕しているので違法な逮捕ということになります」
具体的にはどのような場合だと、実質的な逮捕にあたるのでしょうか。
「意思に反して強制的に身体を拘束したといえるのどうかがポイントになりますが、任意同行なのか、実質的な逮捕なのかは、非常に複雑な議論になりますし、本当にケースバイケースです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
髙橋 裕樹(たかはし・ゆうき)弁護士
無罪判決多数獲得の戦う弁護士。依頼者の立場に立って、徹底的に親切に、誰よりも親切でスピーディな、最高品質の法的サービスの提供をお約束! でも休日は魚と戦う釣りバカ弁護士!
事務所名:アトム市川船橋法律事務所
事務所URL:http://www.ichifuna-law.com/