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Fear,and Loathing in Las Vegasは独立独歩で突き進む 前例なしの音楽性&活動スタンスを考察

2018年05月15日 17:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 前例がない。お手本がない。比較すべきアーティストが見つからない。これは控えめに言っても、驚きに値する出来事だ。国内や海外を見渡しても、Fear,and Loathing in Las Vegas(以下、ラスベガス)ほど確固たるオリジナリティとメディア露出を極端に絞った活動スタンスを貫いているバンドはいないのではないか。そう、2008年結成時から、ふと気付くと10年間に渡り、サウンドとプロモーションにおいて独立独歩の道を突き進んでいる。まさに「ラスベガスの前にラスベガスなく、ラスベガスの後にラスベガスなし」という10年間だった。


 振り返ると、2011年以降に発表した作品すべてがオリコンチャート10位以内に入り、2016年1月7日に初の日本武道館公演を完売させ、そして、先月4月14日に行われた、アルバム『New Sunrise』に伴う47都道府県を制覇したロングツアー(全公演ソールドアウト!)のファイナルとなった幕張メッセ公演においても、キラッキラにして超ド級のラウドパーティーをブチ上げた。デビュー時からライブを観続けてきた一人として、今回の幕張メッセは全国津々浦々回っただけあり、磨き抜かれた楽曲と鍛え抜かれた技量を総動員した凄まじい爆発力を見せつけてくれた。その幕張メッセ公演で5月2日発売のニューシングル『Greedy』から「Keep the Heat and Fire Yourself Up」を初めてプレイ。これはTVアニメ『覇穹 封神演義(はきゅう ほうしんえんぎ)』(TOKYO MXほか)第1期オープニング曲に起用され、もともと中国の怪奇古典小説『封神演義を原作にしていることもあり、楽曲はそれを踏まえたものになっている。イントロからオリエンタルな旋律が聴こえ、それから銅鑼を叩く音色が響き、それ以降はラスベガスらしいめくるめく曲展開で聴く者をグッと引き込んでいく。また、幕張メッセ公演終了後、最新MVとなる「Treasure in Your Hands」の映像が流れ、これも同作品の第2期オープニング曲に使用される形となり、中盤に落差の激しいブレイクダウンパートを設けたりとフック十分の曲調だ。表題曲の「Greedy」はゲーム音を配しつつ、ゴリゴリの演奏で畳み掛け、ほかに効果音やラップパートを盛り込んだりと、今作の全2曲どれも、クオリティが非常に高い。


 ラスベガスの音楽性を語る上でハズさせないのは、「ラウド」と「エレクトロ」の両要素である。2010年に発表された記念すべき1stアルバムである『Dance & Scream』という表題は、このバンドの音楽的アイデンティティを象徴している気がしてならない。ダンスミュージックとスクリーモの融合を掲げたサウンドは、当時衝撃的だった。今この1stアルバムを聴いても全く古臭さを感じないし、リアルタイムで聴いた時にはこのテンションとクオリティを次回作以降も維持できるのか、と余計な心配をしたくなるほどだった。結果的にはそのテンションとクオリティを維持するどころか、楽曲のアレンジはより緻密になり、曲展開はさらにスピードとカオスを求めて、モンスターのごとく逞しく成長を遂げていった。


 ラウドとエレクトロの融合で真っ先に思い浮かぶのは、イギリス発のエンター・シカリが2007年に出した1stアルバム『Take to the Skies』だ。”レイヴ・メタル”という呼称で激しい音楽にアンテナを張っているファンの心をとらえ、僕自身も大きな衝撃を受けた。また、日本のCrossfaithもメタルコアにエレクトロの要素を加えたりと、同時期にその手の音楽が出てきた。海外のメタルコア系バンドでもピコピコ音が標準装備となり、シーンを席巻するようになった。ただ、ラスベガスの場合は誰とも似ていない。突如舞い降りて来た異端児だった。彼らの音楽をヘタにフォローしようとすれば、それは「ラスベガスっぽいね」としか言われかねないほど、オリジナリティの高い音楽を作り上げていたのだ。


 ラスベガスがシャウトやブレイクダウンを積極的に盛り込んでいるのはスクリーモの影響が大きいと思われるが、そこにエレクトロ/ダンスミュージックの享楽性やパーティー感を飾りではなく、己の肉体の中に取り込んで手足をごとく操るアウトプットの仕方が他とは一線を画している要因だろう。生演奏と電子音を差別化せず、ライブハウスで暴れて騒げる最大級のサウンドとして表現することに全身全霊を注いでいる。そこに尽きるのではないか。


 そして、アーティスト写真やMVなどのクリエイティブ面にも触れておきたい。一度目にすれば、「あ~、ラスベガスだ!」とわかる鮮烈なイメージがある。ライブでも使用しているレーザー光線のごとく、蛍光色のギラギラしたエネルギーに満ちたMVが多いのが特徴だ。青空の下で撮影された一風変わったMVもあるものの、基本はメンバー6人の演奏シーンと極彩色のスペーシーな映像が多い。そのイメージ戦略もラスベガスの音楽性と見事にマッチしている。多くのMVは、YouTubeでの再生回数が1000万回を超えており、この数字は日本のバンドシーンの中でも特筆すべき点だろう。さらに今作もそうだが、音源にまつわる本人による取材稼働もこの10年間に渡ってほぼ行われていない。にもかかわらず、ラスベガスの名は、とどまることなく広がり続けている。


 音楽性、イメージ戦略、インタビューの本人稼働がない状態で、幕張メッセ公演まで辿り着いたアーティストがほかにいるだろうか。それを考えても、ラスベガスがいかに独自な活動スタンスを掲げながら、多くのファンを獲得し続けていることに驚かざるを得ない。ライブでタガが外れたように観客が大熱狂するのは、こういう様々な要因が折り重なっていることと無関係ではないだろう。(文=荒金良介)