「レース終盤はもう(フロントの)タイヤが完全に終わってしまっていた。タイヤの表面のゴムがほとんどなくなってしまうと、温度が下がってしまって、グリップを失い、ブレーキングで簡単にロックアップする」
「だから、リスキーだったけど、とにかくゴムを動かし続けて、温度が下がらないようにした。(高速コーナーの)ターン3やターン9でね。ゴムがなくなって、ベルトが表面に出始めていたから、高速コーナーで負荷をかけるとタイヤを傷めてしまうリスク可能性もあった。パンクする危険性があった。でもとにかくやるしかないと思って動かし続けたよ」
これはスペインGPで2位でフィニッシュしたバルテリ・ボッタスのレース後のコメントだ。この日、多くのドライバーが1ストップにチャレンジして成功させたが、その中で最も長い47周のスティントを走ったのがボッタスだった。
今回のスペインGPにはピレリはブリスターの抑制させる目的で、トレッド面のゴムを0.4mm薄くしたタイヤを投入していた。結果、ブリスターに悩まされるドライバーは出なかったが、摩耗に苦しむドライバーが少なくなかった。
それにしても、なぜメルセデスは47周も走らせる作戦を採ったのか。メルセデスのチーフ・レース・ストラテジストのジェームス・バレスに真意を尋ねてみた。
「われわれもそんなに長いスティントを走らせる予定はなかった。通常であれば、ルイス(・ハミルトン)がピットインした25周目ぐらいまでは走らせる予定だった」
そんな中、2番手を走るフェラーリのセバスチャン・ベッテルが17周目にピットインした。
「フェラーリが2ストップで来ることは予想していたから、われわれはルイスをプランA(1ストップ)のままでレースを続けさせ、3番手のバルテリの作戦をプランAからプランB(2ストップ)に切り替えて、ベッテルをオーバーカットして確実に2番手を取りにいく戦略を採った」
バレスによれば、ミディアムのウォームアップに苦しんでいるベッテルのアウトラップを見て、オーバーカットが可能だと判断し、2周後にピットインの指示を出す。
だが、オーバーカットは成功しなかった。
「右リヤタイヤ交換作業で1.3秒ロスした」(バレス)というボッタスは、ピットアウト直後の1コーナーでベッテルに先行を許してしまう。
この時点でメルセデス陣営はボッタスにもう一度ピットインさせるつもりだったが、再び3番手に後退したたため、1回ストップも視野に入れたプランB(2ストップ)でレースを続行させていた。
果たして、ボッタスのペースは後半に入っても落ちないため、1ストップを敢行。ミディアムで47周を走ることは、バレスも予想してなかった快走だった。
「本当に、ギリギリだった。今日のレースはもちろん勝ったルイスも完璧だったが、バルテリもそれに負けないくらい素晴らしかった」
メルセデスの層の厚さを感じる見事な1-2フィニッシュだった。