今シーズンはこれまでの1000kmから300kmへとレース距離が短くなり、スプリント勝負となる5月19~20日開催のスーパーGT第3戦鈴鹿。第1戦、第2戦の結果を踏まえて、勢力図が大きく変わりつつある今季のスーパーGT500クラスを中心に第3戦鈴鹿の勝負のポイントを絞った。
第1戦の岡山では予選でホンダNSX-GTがフロントロウを独占し、レースでもKEIHIN NSX-GTが優勝、今季話題のジェンソン・バトンが山本尚貴とコンビを組むRAYBRIG NSX-GTが2位に入り、ホンダNSX-GTがワンツー・フィニッシュを飾った。
開幕戦でのホンダNSXの強さが印象的だったのは、そのレース内容だ。正攻法作戦のKEIHIN NSX-GT、そしてタイヤ無交換作戦を選んだRAYBRIG NSX-GTと、戦略を分けた2台が共にトップを争ってワンツー・フィニッシュしたことで、「今年のホンダは違う」の印象を強く残すことになった。
今季のホンダNSX-GTは、昨年型から大きな改良が施されている。車体面ではインタークーラーの搭載位置変更が行われ、エンジンルーム内のコンポーネントの配置が大きく変わったことで、重心高を下げることができたのだ。
エンジン面ではF1エンジンで行われている最新技術を投入。点火を副室と呼ばれるシリンダーヘッドの別燃焼室で行って燃焼効率を上げるプレチャンバー技術が効果を発揮しており、大幅な出力アップが実現したとも言われている。
開幕戦での結果と、マシンとエンジンの技術的なアップデートが施された2018年型NSX-GTは一目、今シーズンのGT500クラスの大本命になったと思われたが、その期待が大きく裏切られたのが第2戦富士だった。
予選ではMOTUL MUGEN NSX-GTが6番手に入るのがやっとで、決勝ではARTA NSX-GTの8位がホンダ陣営の最高位。開幕戦とは打って変わって、ホンダNSX-GTはニッサンGT-R、レクサスLC500の後塵を拝すことになってしまった。
もちろん、この第2戦におけるホンダ陣営の低迷には理由がある。予選日の午前中に行われる公式練習が雨と濃霧の影響で1時間35分の走行時間から30分に短縮されてしまったのが最大の原因だった。
鈴鹿サーキットでのテスト機会の多いNSX-GTはレクサス、ニッサンに比べて富士スピードウェイの走行データ量が少なく、公式練習でセットアップを合わせ込む時間が確保できないと、それだけでライバルに比べて大きなハンデになってしまう。
ましてや今季型のNSX-GTは車体にもエンジンにも大幅な改良を施している分、これまでのデータとの参照が難しく、走行機会は1周でも多ければ多いほど、コンディションとセットアップの合わせ込みを最適化させることができる。その走行時間が短縮されたことで、ライバルに比べ、マシンの仕上がりで大きな差ができてしまったのだ。
実際、レースではブリヂストンユーザーのNSX-GTにピックアップと呼ばれる、タイヤかすが飛んでいかずに自分の走行中のタイヤに付いたままになってしまう現象が発生。振動の原因やグリップダウンにドライバーが悩まされ、レースが進むにつれて順位を下げてしまう結果となった。
一方のレクサスLC500、ニッサンGT-Rも、第2戦は単純に天候に恵まれたという訳ではない。レクサスLC500は開幕前テストで壊れたエンジンの原因を究明して、第2戦では出力を上げることに成功。
ニッサンGT-Rも優勝したMOTUL AUTECH GT-Rはミシュランタイヤのウォームアップ性能を活かしてオープニングラップ、そして2回のピットのアウトトラップでタイムを稼ぎ、ニスモのピット作業の速さ、そしてエンジンの燃費の良さで逆転優勝を飾った。
3メーカーのマシンそれぞれが、得意なエリアに磨きを掛けて臨んでいる今シーズンのGT500クラス。予選では全15台が1.1秒差内に収まるなど、かつてない僅差の戦いが繰り広げられており、スプリント色が強まる第3戦の鈴鹿300kmでは、その予選順位がますます重要になり勝負のポイントになる。
事前の鈴鹿公式テストではRAYBRIG NSX-GTが総合トップに立つなど、第3戦の本命はホンダNSX-GTと見て間違いはない。話題のバトンも第2戦終了後には「鈴鹿の事前テストでは速やかったし、次の鈴鹿ではとにかく、レースで速さを見せていく以外にない。今回のような問題(ピックアップ)が出ないといいね。鈴鹿はハイスピードコーナーが多くてダウンフォースが必要なサーキットだから、僕たちの方がコンペティティブだと思う」と、第3戦への抱負を語っている。
今のGT500クラスは当日の天候や気温のわずかな変化が順位変化に大きく影響するだけに、予選だけでなく、決勝レースでも直前のウォームアップ走行でのセットアップの確認が重要になり、そしてタイヤ選択が大きく勝敗を左右する。
第1戦、第2戦を見ても分かるように、今シーズンのGT500の戦いはレースのファイナルラップまで緊迫した戦いが行われることは間違いなく、スプリントとなる第3戦鈴鹿線は特にその確率が高まるだろう。
一方、GT300クラスも第1戦岡山では強かったJAF-GT、マザーシャシー勢が、第2戦ではウエイトハンデ差以上に低迷。代わってGT3マシンがトップ10のうち9台を締めることになった。
中高速コーナーが多い鈴鹿サーキットでは例年、JAF-GT、特にマザーシャシー勢がコーナリング性能を活かして本命に挙げられる。また事前の鈴鹿公式テストではブリヂストンユーザーのK-tunes RC F GT3が2日間総合で2番手、LEON CVSTOS AMGが3番手に入っており、GT300のタイヤ戦争はブリヂストンが鈴鹿との相性が良さそうな気配だ。
1000kmから300kmへ、そして真夏の8月開催から初夏の5月へと環境が変わって開催される今シーズンの鈴鹿のスーパーGT。GT500、そしてGT300とも現在は拮抗した勢力図、ランキングとなっているが、果たしてどのメーカー、どのチームに流れが傾くのか。前半シーズンの分岐点になる戦いになりそうだ。