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坂口健太郎、“静”の演技で共演者を際立たせる 『シグナル』で見せる主役としての重み

2018年05月15日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 坂口健太郎がNHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、『重版出来!』(TBS系)と、同時期放送の2作品に出演を果たし、注目されたのは2016年のこと。翌2017年には、『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)、『ごめん、愛してる』(TBS系)、そして『コウノドリ』(TBS系)と間髪を入れずに話題作に出演。そんな坂口が連続ドラマ初主演を飾ったのが、現在放送中の『シグナル 長期未解決事件捜査班』(関西テレビ・フジテレビ系)だ。


参考:坂口健太郎主演『シグナル』、物語は後半戦に突入 キャバクラシーンでBTSのサプライズも


 ドラマの原作は、韓国で数々の賞を受賞し、大ヒットしたヒューマンサスペンスの傑作ドラマ『シグナル』。“現在”を生きる刑事・三枝健人(坂口健太郎)と“過去”を生きる刑事・大山剛志(北村一輝)が、謎の無線機を通じて未解決事件を解き明かそうとする。


 坂口が演じる三枝は、幼い頃に目の当たりにした女児誘拐殺人事件や、兄が自ら命を絶つ原因となった事件で心に傷を負っている。そのことから警察はもちろん、基本的に他人を信用していない。警視庁長期未解決事件捜査班の刑事として過去の事件を再捜査しているが、いつも問題を1人で抱え込むタイプなのだ。同じ事件を追う仲間の刑事、桜井美咲(吉瀬美智子)にも肝心なことを打ち明けようともしていない、胸の奥底に情熱を秘めている屈折した役柄だ。


 一方、なぜか23時23分になると無線機で三枝とつながる大山刑事は猪突猛進。2人は過去と現在で同じ事件を追うことになるのだが、まさに体当たりで捜査に挑む。刑事ドラマのバディものは数多くあれど、正反対の立場の2人が、時空を超えて事件の真相に迫る作品というのが新しい。


 自分のカラーや個性を押し出すことなく、自然な演技をすることで相手役の個性、その人の持ち味といったものを際立つものにする坂口の魅力が、この作品ではより生かされている。今まで立て続けに高評価の作品に出演し、ヒロインの相手役、もしくは2番手3番手で輝いてきた坂口だが、繊細な「静」の演技により深みが増してきたのは主役としての重みが加わったからかもしれない。


 たとえば、『重版出来!』では、望まない部署で3年間異動願いを出し続けてくすぶっていた営業部員の小泉純を演じた坂口。主人公で漫画雑誌『週刊バイブス』の新人編集者、黒沢心(黒木華)を応援しているうちに影響を受け、仕事の楽しさややりがいを見つける役を好演した。


 『東京タラレバ娘』では、恋に仕事にもがき、悪戦苦闘するアラサー鎌田倫子(吉高由里子)に毒舌を吐く金髪イケメンモデルのKEYを演じたが、ドS金髪キャラには予想以上の反響があった。というのも、東村アキコの同名人気漫画のドラマ化作品であるが、K-POPグループSHNeeのKEYがそのまま実在モデルだとSNS上でも話題になり、KEYを演じた坂口も日本のみならず韓国はもちろん、アジア各国での知名度もアップしたのだ。


 韓国で「好きな日本人俳優」と聞くと「坂口健太郎」の名前を挙げる人が多くなっているという。奇しくも、韓国ドラマをリメイクした『ごめん、愛してる』、そして本作『シグナル 長期未解決事件捜査班』も韓国をうまく現代の日本に置き換えることに成功しているが、その要因の一つとして坂口の好演があることは間違いないだろう。


 『シグナル』の三枝は、独学でプロファイリングを学び、内に秘めた情熱を持っている。しかし、目の前にいる相手を心から信用することができず、クールに振る舞いモヤモヤした感情から逃れることができない。自分を表現する手段がたくさんあるにも関わらず、目の前にいる相手に心から打ち解けることができない、三枝と同じように不完全燃焼な自分を感じている人がいかに多いことか。その多くの人が、坂口健太郎が役柄を通して成長していく姿に自分を投影し、心揺さぶられるのではないだろうか。(池沢奈々見)