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BTS(防弾少年団)の人気高めるブースターに? RM、SUGA、J-HOPEのミックステープ聴き比べ

2018年05月14日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2013年にヒップホップ系アイドルとしてデビューしたBTS(防弾少年団)。しかし、成功への道は決して平坦ではなかった。


 当初は韓国のヒップホップブームに乗り、ヒップホップスタイルやラップを前面に押し出した曲が多かったが、実際にブレイク地点とも言える音楽番組で初めて1位を獲った曲は、デビュー当初とは180度イメージを変えた、切ないEDMソング「I NEED U」だった。コンセプトや歌詞的には“少年期から青年期の懊悩”という流れをつなげてはいるが、音楽的にはこの曲が収録された『花様年華』シリーズから、どちらかといえばダンスパフォーマンスを中心に据えたジャンルへと変節を遂げることになった。


 以降はアルバム収録曲にはヒップホップテイストの曲は収録されているものの、いわゆるタイトル曲におけるヒップホップテイストは薄くなってきている。ちょうど『花様年華』がヒットした2015~16年頃はヒップホップアイドルブームと呼ばれるものも落ち着き、各アイドルグループのラッパーたちがソロトラックを発表し始めた時期でもあった。


 BTSは、元々デビュー前からラッパーを目指して活動していたRMとSUGA、BIGBANGのV.I(スンリ)が経営していたダンススクール出身でダンサーだったJ-HOPEを中心にメンバーが集められたグループだ。現在でも楽曲やパフォーマンス制作の中心はこの3人と言える。今年に入ってJ-HOPEがミックステープを公開し、TIME誌のインタビューを受けるなど注目を集めたが、RMとSUGAの2人はすでにそれぞれがミックステープを発表している。今回は3人のミックステープを聴き比べてみた。


■自身のやりたいスタイルが多彩に並ぶ『RM』


 『RM』(2015年発表)はアメリカの音楽媒体SPINの「The 50 Best Hip-Hop Albums of 2015」に選ばれている(参考)。11曲中8曲で既存アーティストのビートを借用しており、J.ColeからMajor Lazerまでビッグネームがずらりと並ぶ。R&Bに関心を持つ本人の嗜好を反映したかのような「RUSH(feat.Krizz Kalico)」やJ.Dillaをリファレンスした「Life」など、多彩なフロウを聴くことができる。


 人気アイドルとしての自分を取り巻く環境やラッパーとしての苦悩など内面的な描写が中心となっているが、個だけでなく社会や他者も踏まえた視点はどこか客観的で、かつ詩的な表現が多いように思われる。曲作りそのものというよりは、MCとしてMC-ing=ラップそのものに焦点を当てており、トラックの選び方やリファレンスの仕方など「こういう曲が好きで、こういうスタイルのラップがしたい」という部分がより突出している。まさに“自分の好きなものを詰め込んだ一本”と言えるのではないだろうか。


■自己の内面や歴史を詰め込んだ『Agust D』


 もう1人のラッパーSUGAは練習生になる以前は本名のユンギを英語訳したGlossという名前で活動していた。現在はソロ名義の楽曲リリースの際には、生まれ故郷の大邱(Daegu=D-Town)とSUGAを繋げたAgust Dを名乗っている。


 RMのミックステープと同様に、『Agust D』(2016年発表)は自分を取り巻く環境の変化やアイドル/ラッパーとしての葛藤を表現したリリックが多いが、表現方法は対照的だ。客観的なメタ視点も含むRMとは異なり、こちらはあくまでも自分VS世界、自分VSヘイター、自分VS自分。実の兄との会話を収録した「skit」、己の音楽遍歴を綴った「724148」(タイトルは、大邱とソウルで使っていたバスのナンバー)、なにもない普通の1日に考えていたことを綴った「140503」、10代の頃の抑鬱状態から精神科を受診した経験を綴った「The Last」、成り上がりの象徴として幾多のラップで取り上げられている映画『スカーフェイス』の主人公に自分をなぞらえた「Tony Montana」など、“ひとりの人間の内面”をとことん突き詰めた一本となっている。


 トラックも全てオリジナルで、音楽スタジオでのバイト時代にマスタリングなどを学んだ経験をいかし、フィニッシングまでほぼ自分で仕上げるというDIY精神が貫かれている。ラップのフロウのバリエーションは多くないがswagとバイブスに満ちており、その強度とトラックの暗度でリスナーを圧倒する勢いがある。「自分の言いたいことを自分のやり方で言い切った」という点で、RMとはまた別の意味で“やりたいことをやった”作品と言えるのではないだろうか。


■ダンサーのアイデンティティとポジティブさ溢れる『HOPE WORLD』


 内面的な葛藤の描写の多いRMやSUGAとは対照的に、J-HOPEの世界はとにかく明るい。音楽に興味を持つようになった過程やセレブや成功について描いているのは同様だが、仕事や忙しさの象徴になりがちな“飛行機”を、海外での初仕事へのときめきとして描写したり、自分がスーパースターの一員にであること自体が夢を見ているみたいと表現するなど、『HOPE WORLD』(2018年発表)には、疲れたり傷ついた姿を描写することはほとんどない。誰かの心の安らぎになりたいという気持ちや、ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』に出てくるキャプテン・ニモ(BTS「Go Go」のJ-HOPEのヴァースにも登場する)に己を例え、リスナーについてこいと語りかけるなど、メッセージがとにかくポジティブだ。『八十日間世界一周』(ジュール・ヴェルヌ)や『銀河ヒッチハイク・ガイド』(ダグラス・アダムス)など、リファレンスで表現される世界も未知や未来への高揚感に満ちている。


 トラックもダンサー出身らしく、踊りたくなるようなダンサブルなものが多い点が他の2人にはない特徴だと言えるだろう。テープ全体のタイトルになっている「HOPE WORLD」はJ.Coleのアルバム『Cole World: The Sideline Story』がリファレンスだと思われる。BTSの楽曲「Hip Hop Lover」では2PACなど憧れのラッパーの名前とともに<自分をもっと知っていった HOPE WORLD 自分の世界を探し出す前 Cole World>とラップしていた時期を経て、『HOPE WORLD』と名づけたアルバムを出したのは、J-HOPEが自分の世界を見つけ出せたということだろう。実際、このミックステープは、その世界がどういうものなのか、よくわかる一本である。


 音楽的変化により、BTSが韓国のヒップホップ系メディアで取り上げられることはほとんどなくなった。3人のミックステープには、その結果起こる葛藤や創作的渇望など、グループでの活動では表現しきれない三者三様の内面が赤裸々に反映されており、聴き比べるとキャラクターや音楽的趣向の違いがよりはっきりと表れている。無料配布のミックステープにしたのは、リリック内容や既存のトラック借用などの制限がなくなり、より率直で挑戦してみたい表現がやりやすいという利点が大きいのだろう。


 このように、それぞれが個人の趣向を軸に作ったミックステープは、作り手側の自己表現的な欲求を満たし、またファンにとってはメンバーの内面により近づいたように感じられる効果もありそうだ。特に本人たちのリアルな成長と絆そのものがコンセプトとも言えるBTSのようなグループのファンにとっては、結束をより固めるブースター的な役割を果たしているとも言えるだろう。例えばSUGAの「The Last」にはNas「Nas is Like」をリファレンスした<from Seiko to Rolex>というフレーズが出てくるが、プレデビュー期に彼がリリースした「Dream Money」にも“実現したいことリスト”として同じフレーズが書かれていた。当時は夢や目標のひとつだったことが今は実現しているということで、こういう目配せはファンにとっても感慨深いものだろう。RM、SUGA、そしてJ-HOPE3人のミックステープは、デビューから続く、“BTSサーガ”を味わい尽くすための外伝として聴いてみると、より楽しめるのではないだろうか。(文=DJ泡沫)