トップへ

りょう、さまざまな表情で複雑な感情を表現 『崖っぷちホテル!』戸田恵梨香とのわだかまり解ける

2018年05月14日 13:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 日曜ドラマ『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)は、経営難に陥り、崖っぷちな老舗ホテルを再建させるべく従業員たちが奮闘するコメディドラマである。自由奔放な副支配人・宇海(岩田剛典)に振り回されながらも、どこか頼りない若き総支配人・佐那(戸田恵梨香)や個性豊かな従業員が、さまざまな課題に立ち向かう。5月13日放送の第5話では、宇海の知人がホテルで挙式をあげたいという申し出から、ブライダル事業へ参入することになった。ここでウェディングプランナーとして指揮を執ることになるのが、24時間ほろ酔いのバー責任者である枝川梢(りょう)だ。


参考:鈴木浩介、静と動の演技で視聴者を引き込む 『崖っぷちホテル!』従業員たちの成長


 枝川は、総支配人である佐那との折り合いが悪い。第1話から、佐那の父でありかつての総支配人を思い出しては佐那を認めない素振りを見せ、彼女に向かって「あなたのことが嫌い」とはっきり言えてしまう枝川。そんな彼女は、ホテル再建のために宇海から出される無理難題にも協力する姿勢は見せなかった。枝川を演じるりょうは、クールな雰囲気を漂わせながらも、かつての総支配人との思い出を語る柔和な雰囲気と、頼りない現・総支配人に対するきつい態度、そしてどこか諦めにも思える表情を演じ分け、しょっちゅう悪態をついているキャラクターでありながら、枝川自身しか理解することのできない複雑な感情を表現している。腹の底で何を考えているのか、かつての総支配人とどのような関係にあったのかなどは語られない。しかしどこか陰を感じるその表情を見ていると、彼女のきつい態度をなかなか嫌いになれないのだ。


 宇海の知人だという依頼主は、当初「すべてホテル任せ」と言っていたにも関わらず、どんどん無茶なお願いを依頼してくる。枝川はプランナーとして指揮を執るものの、あまりの無茶ぶりに苛立ちを感じ始める。他の従業員に仕事を任せようとしてもうまく回らない。宇海に「すべての要望を叶えることはできない」と伝えても、彼は「要望を叶えるのがウェディングプランナーの仕事です」といつもの調子で返事をすると、自分の仕事に戻ってしまう。りょうは口元をヒクつかせて苛立ちを表現している。その様子は、彼女が珍しくペースを乱されていることを表しており、どことなくコミカルだ。彼女の苛立つ声は思わず萎縮してしまう威圧感があるのだが、りょうの苛立つ表情がコミカルなおかげで、なぜだか同情してしまう。度重なるプラン変更に振り回され、外で煙草を吸って休憩する彼女の表情は、珍しく呆然としていた。


 苛立ちと疲れでいっぱいいっぱいの枝川は、彼女をねぎらう佐那に対していつも通りの冷たい態度を見せる。しかしその様子をひっそりと聞いていた宇海をバーに誘うと、総支配人がブライダル事業参入を考えていたこと、その夢が叶わぬまま他界したことを告げ、涙ぐむ様子を見せた。佐那と対峙するときは、蛍光灯の青白い光の下で冷たい態度をとる枝川も、思い出を語るときはバーの柔らかな光の中で柔らかな女性の表情を見せる。総支配人との回想シーンを挟まなくても、彼女にとって総支配人の存在がどれほど大きいものだったのか、物語るには十分の演出だった。


 今まで非協力的だった枝川は、自ら頭を下げ、従業員に無茶振りな依頼をお願いする。伏し目がちだがはっきりと自分の言葉で「お願いします」と言う彼女の姿には、胸を打たれるものがあった。そんな彼女に対して、従業員たちはごく当たり前のように協力する。それはもちろん枝川のためではなく、ホテルに訪れるお客様のため。その様子を見て、枝川もほっとしたような表情を浮かべると同時に、彼女の「グランデ インヴルサ」に対する思いが解きほぐされているように感じた。


 挙式リハーサルの様子を動画で送る依頼を受け、従業員たちは心を込めてリハーサルを行う。その際、無茶振りで作った3m超のウエディングケーキが倒れるというハプニングに見舞われるも、宇海から「結婚式がキャンセルになった」と告げられる。宇海にブライダル事業のPR動画づくりをさせられただけなのでは?と疑う従業員だが、その顔は明るい。もちろん枝川の表情もそうだ。


 ドラマ最後のシーン、バーで佐那と対峙した枝川は、いつも通りの声色で「飲む?」と佐那にお酒を勧める。一見なんてことのないワンシーンだが、その一言で、佐那との間に生じていたわだかまりが解けたのがわかる。佐那を嫌っていたのではなく、総支配人との思い出にすがりついていたことに気付いた彼女は、総支配人との思い出が詰まったカクテルを「これで最後の1杯にする」と告げる。佐那の前にも関わらず、柔らかな表情を見せた枝川。老舗ホテルを再建するホテルマンとして、頼り甲斐のあるキャラクターが、また1人追加された。


 第1話から第5話までの間で、くせ者揃いだった従業員が少しずつ立派なホテルマンとして成長を遂げている。このまま何事もなく、ホテルの再建が進めばいいのだが、次回は従業員の1人が訴えられるという展開が待っている。崖っぷちに立たされたホテルは無事に再建することができるのか。(片山香帆)