トップへ

ニュル24H:TOYOTA GAZOO Racing、トラブル多発も「未来に繋がる」収穫

2018年05月14日 02:41  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

完走を果たし喜ぶTOYOTA GAZOO Racingのメンバー
第46回ADACチューリッヒ24時間レース(ニュルブルクリンク24時間レース)は5月13日、レース途中からの雨と霧のなか、長い戦いのチェッカーフラッグを迎えた。SP-PROクラスに参戦するTOYOTA GAZOO Racingの土屋武士/松井孝充/中山雄一/蒲生尚弥組56号車レクサスLCは、総合99位でフィニッシュしたが、順位以上に得るものは大きかったようだ。

「もっといいクルマを作る」。「クルマを鍛える」。

 トヨタ自動車の豊田章男社長が常に口にするこの言葉は、豊田社長自らがドライバー”モリゾウ”として、2007年にスタートさせたニュルブルクリンク24時間への挑戦のなかで生まれてきた言葉。今季、4人のドライバーたちとともにニュルへ挑んだレクサスLCは、今後のトヨタ/レクサスのクルマ作りに繋がる新技術が盛り込まれたマシンだ。

 挑戦するクラスは、SP-PRO。1台だけのクラスで、完走すればクラス優勝だ。ただ、これは目的ではない。過酷なニュルでLCを鍛え上げ、新たな技術の蓄積を持ち帰る。そして、トヨタの若手メカニックを育て上げることが目的なのだ。

 迎えたレースウイーク、TOYOTA GAZOO Racingの戦いは順調そのものだった。国内テストで仕上げたレクサスLCは、VLN等の参戦を通じ今回の“本番”に挑んでいたが、予選まではトラブルフリーでセッティングも決まっていた。しかしレースでは一変。さまざまなアクシデントが襲いかかることになる。

■襲いかかるトラブルも、異変に素早い対応
 もともとLCはGT3カーとGT4カーの中間くらいのスピードをもつクルマだったが、松井孝允がステアリングを握ったスタート直後、GT4カーと競り合いながら周回を重ねる。しかし、そのなかでエキゾーストを破損。さらに蒲生尚弥に交代した後、ブレーキにトラブルを抱えてしまう。蒲生はすぐにトラブルに気付き、長いノルドシュライフェに入る前にピットにマシンを戻すことができた。

 さらに、今度は3速を失うミッショントラブルで2時間ほどの作業を要してしまう。このときドライブしていたのは松井だが、その前にドライブしていた中山雄一から伝え聞いていた違和感をもとに、すぐにピットへ戻すことができたのだという。

「すごく良い経験をさせてもらいました。その一言に尽きますね」と松井は言う。

「スタートの混乱もありましたが、メカニックの方にクルマを直していただいたり、大事に至る前にトラブルに気付いてミッション交換ができました。蒲生選手も北コースに入る前にブレーキの異変に気付いたりしたので、みんなが異変に早く気付いたことで、チェッカーを受けられたのだと思います」

 夜に入ってからは、今度は雨が降り出す。このレクサスLCにとって、これまでウエットレースの経験はない。ドライバーのスケジュールを決めていた土屋武士は、リスクを避けるため初めてのニュルとなる中山に、夜の雨を回避させた。

 さらに、今度は雨が予想外のトラブルを生じさせる。「雨でエアクリーナーが水を吸い、それがエアロセンサーを壊してしまった。濡れたことで慣性で吸われてしまったみたい。今まで水しぶきがあるウエットを走ったことがなかったから」」と土屋。

 ただ、こちらも無事に交換し、それ以降はトラブルなくフィニッシュへ。レース後、チェッカーを受けた喜びに沸くテントには、このマシンに携わったチームメンバー、そして関連企業のスタッフと、驚くほどの人数が集まっていた。改めてこのクルマは、将来の市販車に向けた“実験車”なのだと感じさせた。

 レース後、初めてのニュルブルクリンク24時間参戦となった中山雄一に感想を聞くと、「ドライバーとして、走るのはすごく大変でした。クルマもトラブルが多かったですが、大変な思いをしたことが良かったと思います。みんながクルマを直してくれて、明け方からはノントラブルでしたし、ここで頑張らせてもらえたことが嬉しかったです」と貴重な経験を積むことができたようだ。

 また、蒲生は「疲れました(笑)。僕が乗っているときにいろいろトラブルもありましたし、僕たちのクルマにとっては天候も合っていなかったです。でも、本当に無事にフィニッシュすることができて良かったです」とホッとした表情をみせている。

■トヨタのクルマづくりに繋がる経験に
 そして、4人のドライバーのまとめ役として、またクルマ作りを担う立場として参戦した土屋は、こう今年のレースを総括してくれた。

「ありとあらゆるトラブルが出た。でもそれには必ず原因があるので、それを追求して解決するという意味では、いろんなことが起きて良かったです。それに雨を初めて走れて素性も見れた」と土屋。

「レースという部分では、もちろん応援してくれる人の期待はできるだけ上位で……というのはあったと思うし、ノントラブルで集中して、どこまでいけるかも楽しみだったので、そこに対しては残念な気持ちはもちろんある」

「でもいちばんのプライオリティは、人を鍛え、クルマを鍛え成長するプロジェクト。スーパーGTでも言っているとおり、人は失敗や悔しいものから得るものの方が圧倒的に大きいですから」

「そういう意味で、言い方は難しいけど『楽しかったな』と思います。このレクサスLCの1年目としては最高のシチュエーションだった。1年目のスタッフも4人いるし、サーキットが初めてというスタッフもいる。これは絶対に未来に繋がるし、いろんな経験ができたのではないでしょうか」

「あとは個人的な部分で言えば、“引退”した僕にまたこんな素晴らしい経験をさせてもらえるなんて、本当にありがとうございますという気持ちですね。クルマ作りができる、ニュルを走れるなんてそうそうない経験ですから」

 レース後、GRカンパニーの友山茂樹プレジデントは、「ここニュルブルクリンクで得られた知見や、鍛えた技術は、GRブランドの各モデルに採用されていくばかりでなく、今後トヨタ自動車が投入する市販車の数々に、必ずや活かしていきます」と語った。

「トヨタの『もっといいクルマづくり』と、それを支える『人づくり』に終わりはありません。そのためにも、これからもニュルへの挑戦を続けていきます」

 激しいトップ争いを展開したドイツ車の戦いの一方で、別のスタンスの戦いを展開したTOYOTA GAZOO Racing。その挑戦は、これからも続いていきそうだ。