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新メンバーがアベンジャーズの追い風に 『インフィニティ・ウォー』ヒーローたちの強烈なエピソード

2018年05月13日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 感嘆、興奮、そして多くの悲鳴がほうぼうから上がって止まない『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』。筆者も例外ではなく、その予想を上回るほどの衝撃的な内容に、狂喜乱舞から阿鼻叫喚までをひとりで演じてしまった。マーベル・コミックの実写映画をクロスオーバーさせた「マーベル・シネマティック・ユニバース」(MCU)作品の第19弾にして、個々の作品で奮闘するヒーローたちが豪華結集する『アベンジャーズ』シリーズ第3弾である本作は、言わずもがな映画界の大スター揃い。そして観客の喜怒哀楽の情を、巧みに刺激してくる。


参考:【ネタバレあり】『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』の“真の衝撃”を読み解く


 第1弾である『アベンジャーズ』(2012)ではロキ、そして第2弾『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)ではウルトロンと、強大な敵を倒すべく、そのたびに集結していたヒーローたち。本作では、とてつもなく大きな力を秘めたインフィニティ・ストーンを6つすべて集めようとするサノス(ジョシュ・ブローリン)が、彼らの前に立ちはだかる。このインフィニティ・ストーンが6つ揃えば、指を“パチン”と鳴らしただけで宇宙の生命体の半分を滅亡させてしてしまうほどの力を発揮するという。彼の野望は「生命体を半数にすることで、宇宙の均衡を保つ」こと。まさに“ラスボス”というに相応しい傲慢さである。しかしこのMCU第19弾ともなれば、当然ながらヒーロー(=スター)の数もとんでもない数にのぼり、一筋縄ではいかないだろう。新たなヒーローたちも合流し、今まで以上に華々しく、一大ショーのように彼らは次から次へと登場を重ね、そこで繰り広げられる祝祭的なシーンには、そのつどグッと涙がこみ上げてくる。


 MCUそれぞれの作品の「カラー」を決定づけるのは、やはり脚本や演出から生み出される主人公/ヒーローのキャラクター性だろう。ある作品のヒーローが、また別のある作品のヒーローとタッグを組むという、ヒーローファンの憧れを体現している本作だが、彼ら一人ひとりは、きちんと自分単体主演の作品のカラーをまとって出発している。そんな中でも最も異質な空気を生み出し、新しい風を吹かせたのは、最年少のヒーロー・スパイダーマン/ピーター・パーカーであり、それを演じたトム・ホランドだ。『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)でMCU入りを果たし、おしゃべりでやんちゃな、ある意味健全な少年らしい振る舞いを見せた彼は、『スパイダーマン:ホームカミング』(2017)で単独主演。昨年の公開時にあちこちで流れた、トム・ホランド自身のハイテンションな映画の宣伝も記憶に新しい。“親愛なる隣人”であったはずの彼は、本作で大きな危険を察知し、すぐさま飛び込んでくる。彼の登場が賑やかなスクールバスからというのは、まさに彼がまとう「カラー」を象徴していて、ごく短い間ではあるがなんとも楽しい。しかし彼には終始ヒヤヒヤさせられる。なんといってもまだ高校生であり、トム・ホランド自身もまだ20歳を超えたばかり。地球どころか宇宙を守ろうとするにはあまりに頼りなく、さらに、いま名実ともに急上昇中の“トムホ”とはいえ、過去最強クラスにハリウッドの大スターが揃った作品でどこまで闘えるのかは不安であった。


 だが、公式パンフレットにあるように「(『アベンジャーズ』の)1作目を地元の親友と見に行ったのを思い出すなあ。その世界に自分が出演する日がくるなんて夢にも想像してませんでしたよ。(中略)ずっとアベンジャーズやガーディアンズの映画を観ながら育ったんだもん。もう驚異的。いまこうしているのが信じらんない。撮影前日は2時間しか寝られなかったけど、気分は最高でした!」と、とにかく自分が「スパイダーマンであること」が嬉しくてたまらないという彼の想いはいまだ健在。念願の「アベンジャーズ」に仲間入りしたスパイダーマンと、“あの場”(撮影現場)にいるのが楽しくてしょうがないというトム・ホランド自身の想いは共鳴し合い、サノスを相手取った絶望的な状況を活気づける、明るい風を吹かせたのだ。これにはアイアンマン/トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)が、彼の「アベンジャーズ」入りを認めるのにも納得である。


 そんな本作だが、スパイダーマンだけでなく、MCU第14弾『ドクター・ストレンジ』(2016)の顔である、ドクター・ストレンジ/スティーヴン・ストレンジ(ベネディクト・カンバーバッチ)や、第18弾『ブラックパンサー』(2018)の顔、ブラックパンサー/ティ・チャラ(チャドウィック・ボーズマン)らも存分に力を振るう。前者は知的でクールなキャラクター性で新しいユーモアを生み出し、後者は自身が抱える大勢の戦士たちを率いて戦乱に突入することで、一大スペクタクルを展開させる。彼らもまた「アベンジャーズ」の大きな戦力として、本作の追い風となるのだ。


 そして本作では何といっても、「アベンジャーズ」が『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ(2014/2017)の面々と合流を果たす。クリス・プラット演じるスター・ロード/ピーター・クイルの相変わらずな歯切れの良いワルノリに、ブラッドリー・クーパーとヴィン・ディーゼルがそれぞれ声をあてた、陽気なアライグマのロケットにふてぶてしくも愛らしいグルート。彼ら各々が個性を活かした、「アベンジャーズ」との共闘ぶりには胸が熱くなること必至である。


 たしかにこれだけのヒーローが揃いも揃ってしまえば、“ヒーローデフレ気味”と言えなくもない。実際、単体で主演を張っているキャラクターや、より強力な力を持っている者に注目が集まってしまうのは仕方がないことだろう。しかしながら、この作品に対してヒーローたちが飽和状態に陥ることがないのは、サノス側が巻き起こし、ヒーローたちが悪戦苦闘を強いられるエピソードが、それだけ強烈だということにほかならない。サノスの願望は全宇宙の生命を半分にすることであるが、これに打ち勝つためには、一人ひとりがかけがえのない存在として個性を発揮しつつ、力を合わせて闘うしかないのだ。彼ら一人ひとりの存在のかけがえのなさは、サノスの超大さと天秤にかけられている。


 早くも公開3週目に突入する『アベンジャーズ』。まだまだこの熱気は高まり続けそうだ。(折田侑駿)