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「HKT48」に楽曲提供した高木弁護士、苦節5年、70曲目のチャレンジでついに採用

2018年05月13日 09:41  弁護士ドットコム

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人気アイドルグループHKT48の最新シングル「早送りカレンダー」(5月2日発売)。オリコン週間シングルランキングで初登場1位を獲得するなど、注目をあつめる。そのType-Aのカップリング曲「Just a moment」は、東京都内の弁護士、高木啓成さんが作曲を手がけた。現役の弁護士がメジャーレーベルのアーティストに楽曲を提供するのは、非常にめずらしいケースだ。


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高木さんは2013年から、クライアントである音楽事務所のすすめで、メジャーレーベルへの楽曲提供を目標に、コンペに応募しはじめた。「AKB48の『ヘビーローテーション』のように、キャッチャーで誰にでも親しまれる曲をめざしてつくりました」。これまでまったく採用されなかったが、苦節5年、ちょうど70曲目のチャレンジで初めて、故郷の福岡で活動するHKT48の曲にえらばれた。



●作曲は「司法試験」の答案構成に近い

高木さんはふだん、音楽などの著作権分野をとりあつかう弁護士だ。忙しいスケジュールをやりくりして、平日1時間は作曲の時間をとるようにしているが、弁護士という職業柄、なかなか難しいこともある。たまに夜中、事務所に一人で残って、曲をつくることもあるそうだ。作曲は司法試験に近いという。


「司法試験の論文は、しっかりと答案構成をする必要があります。どんな構成にするか、時間をかけて考えるのです。そのあと、一気に書き上げます。僕の作曲の方法も同じです。僕の場合、1曲だいたい10日間くらいかかるのですが、メロディとコードを練るのに8日間くらい使います。そのあと一気につくりあげます」


●ロックにハマった少年時代

高木さんが音楽に目覚めたのは、小学生のころに聞いたX JAPANがきっかけ。そのあと、B'zやエアロスミスなどのロックにどっぷりとハマり、「自分もこんな曲をつくりたい」と思うようになった。中学校に入るころ、キーボードを買ってもらって、独学で曲をつくりはじめた。あわせて、友だちとロックバンドも組んだ。


高校のころには、初めて曲を提供した。といっても、体育祭の応援歌だ。他のチームは流行曲の替え歌などが使われていたが、「僕のチームは、僕が曲をつくり、応援団長が歌詞をつけました。チームのみんなに歌ってもらうことができ、うれしかったですね」。高校までは、レコーディングのエンジニアにも興味があったという。



●アニメ『けいおん!』の影響で音楽活動を再開した

大学時代も音楽活動をしていたが、司法試験の勉強のために、ほとんど時間を割けなくなり、一時的に音楽活動から離れた。2007年に弁護士登録して、2~3年経ったころ、アニメ『けいおん!』に胸を打たれた。女子高生がバンドを結成するという青春ストーリー。「また、音楽をやりたいと思いました」


弁護士の仲間や大学時代の友だちとバンドを組んで、活動を再開したが、社会人ということもあり、なかなかつづけるのが難しかった。そのバンドはすぐに解散したが、高木さんは一人、パソコンに向かって作曲をつづけた。「今の時代は、パソコンがあれば、曲は、一人でもつくれます。楽器もスタジオもいりません。あとから音源の差し替えもできます。トラックも無限です」


●うれしさで手が震えたが・・・

高木さんは2011年、当時勤めていた法律事務所から独立。もともと著作権専門ではなかったが、音楽活動の繋がりでプロの作曲家や音楽事務所などから法律相談を受ける機会があり、著作権法の勉強をはじめた。調べながらやっていくうちに知識やコネクションが広がっていった。インディースアイドルへの楽曲提供をしながら、コンペの応募もつづけ、今回、70回目の挑戦でようやく採用された。


そのことを知らせる電話には、うれしさで手が震えた。ただ、その日のうちに、フルバージョンの曲を提出する必要があった。応募の際に提出したのはワンコーラス分(Aメロ+Bメロ+サビ)。その日は平日であったため、夜まで弁護士としての仕事が詰まっていたが、なんとか仕上げたという。


●もし曲がパクられたら?

もし、高木さんの曲がパクられたらどうするのか――。そんな質問をぶつけてみたところ、「毅然として、法的措置をとらざるをえませんね」と笑った。


「Just a moment」の著作権は、JASRACが管理する予定だ。もし、無断使用があった場合はJASRACが徴収することになるが、曲のパクリに関しては、JASRACは対応できない。その場合、自ら訴訟を提起するために、いったんJASRACから著作権を返してもらう手続きがあるという。


今後については、「今回の採用を第一歩として、定期的に曲を提供できるようにしていきたいです。そして、作曲家としての視点を活かし、もっと著作権法やエンターテインメントにくわしい弁護士をめざして、がんばっていきたいです」と意気込んだ。(弁護士ドットコムニュース/山下真史)


(弁護士ドットコムニュース)