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中谷美紀が心に貼ったマスキングテープ 『あな家』が描く“許さなければならない側”の理不尽さ

2018年05月12日 13:01  リアルサウンド

リアルサウンド

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「理不尽だよな。裏切られたほうが、疑って、悩んで、夜も眠れずに心痛めて、真実を知って心えぐられて、それでも子供のために家族のために受け入れて、歯を食いしばって許さなきゃいけない。壊れたものはもとには戻らないんだよ」


 ついに、モラハラ夫の茄子田太郎(ユースケ・サンタマリア)が、佐藤秀明(玉木宏)と茄子田の妻・綾子(木村多江)の不倫を突き止めてしまった。そして、これまで佐藤真弓(中谷美紀)が1人で抱えていた“許さなければならない側”の理不尽さを突く。『あなたには帰る家がある』(TBS系)の第5話は、ひたひたと迫りくる崩壊の瞬間を息を殺して見つめるような回だった。


 妻の不倫を知った太郎は、綾子を怒鳴り散らしたり、秀明に直接危害を加えるどころか「嘘だろ……」とタクシーに乗ってそそくさと逃げてしまった。確信を得るまでは秀明にじわりじわりとにじり寄り恐怖を与えていたが、事実にたどり着いた途端に戦意喪失。それは綾子に愛された秀明は、自分よりも強者になってしまったからではないだろうか。太郎が強気に出るのは、いつだって自分より弱い立場になっている相手だけだ。だからこそ、代わりに同じように弱っている真弓に近づいたのではないか。きっと彼のモラハラと取られるような横柄な態度を取ってきたのは、自分の弱さを隠すためなのだろう。


 太郎の言うように、真弓の幸せを壊した主犯は間違いなく夫の秀明。だが、夫が壊した家族の絆を取り戻すとなれば、それは夫婦共通の課題になってしまう。「ここは一枚岩になって……」などという秀明には本当に「どの口が!」と思うが、ともに生きていくためにはタッグを組まざるを得ないのだ。必然的に妻は不倫相手の女を攻めるしかない。裏切った男とのこれからを見つめるほど、女の敵は女になってしまう。


 そんな妻を見て、裏切った夫は許されたと安堵するのだろう。人によっては「雨降って地固まる」なんてことも言い出しかねない。だが、きっと裏切られた側にとって、許すことなんて一生無理なことなのだ。それでも、これまでの幸せを取り戻したように生きていくには、壊れた心にマスキングテープを貼って、なんとか持ちこたえるしかない。どんなに心が乱されたかを言葉にすれば「盛ってないか?」と顔をしかめられ、振り切れない思いを吐き出せば「許すって決めたんでしょ?」とたしなめられる。「許さない」と喚いても、「許そう」ともがいても、苦しむ一択なのだ。


 そこまで相手の心を推し量れない秀明。家庭を選び、綾子に別れを告げて、それで元通りになるとでも思っていたのだろうか。旬のタケノコご飯を作る自分に「これが幸せか」などとウットリしたり、ソファではなくベッドで寝ることを許された途端に夫婦の営みに挑んでみたり……。真弓が娘・麗奈の前で必死に笑顔を取り繕っているのを、心から笑っていると思っているのだとしたら、本当に想像力が乏しい。もちろん、その乏しさゆえに綾子の誘惑に溺れてしまったのだろう。それも、妻にとっては「こんな夫と結婚した自分が悪い」と受け入れるしかない。相手の裏切りによって、妻の自尊心はすり減る一方。


 いつだって守りは、攻めるよりも難しい。それが、何をしでかすかわからない相手であれば、なおさらだ。綾子は真弓のテリトリーにどんどん侵入してくる。職場、旅行先、そして次回は家にまで……。かつて彼女が、太郎の母親が大切にしていた庭を乗っ取ったように、彼女は秀明との家を乗っ取りにきているのではないか。あのモデルルームでの食卓ごっこが、綾子にとって欲しくてたまらないものになってしまったのだろう。息子・慎吾が意味深につぶやいた「そういうのやめなよ」という言葉は、もしかしたら誰かの幸せを奪うことでしか満たされない綾子を見抜いているのかもしれない。人のものを欲しがる女のヤバさは、女だからこそセンサーが働くのだろうか。自分の家(ホーム)を平然とした顔で奪いにくるモンスターと真弓がどう戦っていくのか。理不尽にも頼りない秀明との共同戦線が始まる。


(佐藤結衣)