2018年05月12日 10:02 弁護士ドットコム
国税庁の職員が、その気になって株取引をした場合、どれくらい利益をあげることができるのだろうかーー。そんなことを想像してしまう事態が東京国税局の管内で発生した。
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報道各社が2018年4月に東京国税局の発表として報じたところによると、東京都内の税務署に勤める国税徴収官の男性(41)が2013年1月から2017年8月の勤務時間中、庁舎内のトイレなどで自らのスマートフォンを使って証券会社のサイトにアクセスし、株取引を繰り返していた。
その回数は「1314回」。人によって多い少ないの評価はわかれるだろうが、東京国税局調査部に所属していた2015年11月から2016年1月、内規に反して所管する企業1社の株を売買し、利益を得たという。
ただ、「未公開の情報を使ったインサイダー取引は確認されず、税務申告も適切に行われていた」とされている。東京国税局はこの職員を国家公務員法が定める職務専念義務に違反したとして、減給10分の1(3か月)の懲戒処分にした。国家公務員の職務専念義務とはどういったものなのか。湯川二朗弁護士に聞いた。
ーー国家公務員の職務専念義務とはどのようなものでしょうか
「国家公務員は日本国民『全体の奉仕者』ですから、『その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、政府がなすべき責を有する職務にのみ従事し』なければなりません。これが「職務専念義務」です。国家公務員法101条に定められています。
職務専念義務違反は、人事院通達の懲戒処分の指針(基準)の中で、『勤務時間中に職場を離脱して職務を怠り、公務の運営に支障を生じさせた職員は、減給又は戒告とする』と定められています。本件は、税務署職員が数年にわたって1000回以上も、勤務時間中に株式取引をしていたことから、職務専念義務に対する処分としては、軽い処分とは言えません」
ーー本件について他に気になる点を教えてください
「処分理由には、やや違和感があります。というのは、税務署職員が、それも調査部所属の職員が、所管の特定企業の株式を長期間継続的に取引していたという点です。
たとえ、未公開の情報を使ったインサイダー取引が確認されていなかったとしても、税務署職員がその職務上の立場を利用して個人的に金儲けをしているととられかねず、税務の公平中立に対する国民の信頼を著しく損なう行為だからです。
本件の懲戒処分の真の理由はそこにあると思われるのに、報道を見る限り、処分理由があえてその点に触れていないのは違和感がありますし、またその点を考慮すれば本件処分はもう少し重くてもよかったのではないかとも思われるところです」
【取材協力弁護士】
湯川 二朗 (ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身。東京で弁護士を開業した後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。土地区画整理法、廃棄物処理法関係等行政訴訟を多く扱っています。全国各地からご相談ご依頼を受けて、県外に行くことが多いです。
事務所名 : 湯川法律事務所
事務所URL: https://www.bengo4.com/kyoto/a_26100/g_26104/l_123648/
(弁護士ドットコムニュース)