前回の開幕戦鈴鹿では予選Q2が赤旗中断になり順位が入り乱れたとはいえ、結果的にトップ5をホンダエンジンユーザーが占めて関係者に衝撃を与えた今季のスーパーフォーミュラ。決勝でもポールポジションの山本尚貴(TEAM MUGEN)がトップフィニッシュを果たし、『ホンダ&山本強し!』の印象を与えたが、第2戦オートポリスではどうか。
予選、決勝と開幕戦でトップを奪ったホンダエンジンだが、実は決勝ではそのホンダ陣営を驚かす出来事があった。それは、トヨタエンジンの燃費の良さだ。正確な数値は不明だが、どのマシンもトヨタエンジン勢はホンダエンジン勢よりピットストップ時間が3~4秒、短かった。「ちょっとあり得ない数値ですね……」とホンダ関係者が話すように、レースでの燃費の良さはトヨタ陣営の大きな武器になりつつある。
一方のホンダ勢は今季、F1でも投入されている最新技術のプレチャンバーシステムを導入していると言われ、その効果によって大幅な出力アップを果たしていると伝えられる。トヨタもプレチャンバーを導入しているようだが、その成熟度に差があるようだ。さらに、ホンダの佐伯昌弘エンジニアが明言しているのが、エンジンの剛性面での強化だ。
「もともと、SF14の車体とエンジン、ギヤボックスの結合部には弱いところがありました。今季のエンジンは昨年より少し重くなっていますが、その剛性面での強化を踏まえてのことです」と佐伯エンジニア。
これは推測ではあるが、ホンダの今季型エンジンHR-417Eは剛性面がアップしたことにより、トヨタエンジンよりもターボチャージャーのブーストアップが可能になったのではないか。もしかしたら決勝での燃費もそのブースト圧が影響しているのかもしれないが、予選の一発では大きな武器になる。
もちろん、トヨタエンジンとしても、手をこまねいているばかりではない。ベースが同じスーパーGTでは先日の第2戦富士でレクサス陣営が復調。その要因のひとつとして、スーパーGTの開幕前テストで壊れたエンジンの原因が判明したことにより、出力をきっちりと出せるようになったことが挙げられる。
当然、ベースが同じエンジンならば、スーパーGTで実現したものが今回のスーパーフォーミュラでも可能となるのが自然な流れ。特に今週日曜日はオートポリスは雨の確率が高い状況で、なおさら、予選順位が重要になってくる。トヨタエンジンも出力を上げて予選に臨む可能性が高い。
今回のオートポリスではFIA F2スペイン・バルセロナ大会に出場する福住仁嶺(TEAM MUGEN)に代わって、坂口晴南がスーパーフォーミュラデビュー。また、ウオモ スノコ チーム ルマンではピエトロ・フィッティパルディに代わってトム・ディルマンがステアリングを握る。ふたりがどのようなパフォーマンスを見せるか、まずは注目のひとつになる。
そのチームルマンでは開幕戦の鈴鹿の決勝日に亡くなった山田健二エンジニアに代わって、大嶋和也車をライアン・ディングルが担当。ディルマン車はスティーブ・クラークがエンジニアを担当することになる。
今回の第2戦オートポリスで本命を挙げるのは難しいが、金曜専有走行では開幕戦で上位に入った山本尚貴、石浦宏明(P.MU / CERUMO · INGING)、塚越広大(REAL RACING)、伊沢拓也(TCS NAKAJIMA RACING)が好調だった。予選、決勝でも彼らは上位に入る可能性が高そうだが、今回特に注目したいのが、前回の開幕戦で不運に見舞われたふたり、平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)と、松下信治(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)だ。
松下は予選Q1でトップタイムをマークする圧倒的な速さを見せながら、予選Q2のアタック中に赤旗中断でそのタイムがフイになり、Q2敗退。速さは見せていただけに、この第2戦オートポリスで雪辱を晴らしたいところ。
また、平川は決勝ではチームメイトの関口雄飛とヘアピンで接触してしまい、そのままグラベルストップ。3年ぶりのスーパーフォーミュラ復帰戦で悔しい結果となってしまった。
「どっちが悪いとかではなくて、僕は行けると思って行って、結果的には僕だけが損をしてしまった。もちろん、関口選手には謝りましたし、自分も反省しています。関口選手もあのアウトラップでヘアピンを抑えれば大丈夫という考えがあったと思います。僕が行きすぎたというのはありますが、お互いにあそこが勝負どころだと理解していました」と、開幕戦の鈴鹿を振り返る平川。
開幕戦の決勝での同士討ちを反省するが、それまではトップクラスのラップタイムを刻んでおり、タラレバで言えば、接触がなければ関口とともに表彰台を獲得していた可能性が高かった。
「予選は少しスピードが足りませんでしたが、テストの時からロングランのペースは良くて、レースでも良かった。そこは証明できたし、チームも自信を持っているので、あとは一発の速さが出せればいいかなと思っています」
3年ぶりに復帰した今季のスーパーフォーミュラ、そして開幕戦での悔しい結果。当然、この第2戦への意気込みは強い。
「特に今回、特別な気持ちがあるわけではないですけど、スーパーGTでもそうですけど流れというのがないといけない。スーパーフォーミュラでは今、その流れがないので、それは自力で引き戻さないといけない。それは焦ってやってできることじゃないと思っています。自分が走って、感じたことをしっかりやれれば結果は出ると思っています」
「今日(金曜専有走行)の感触も良かったですし、セッション後半に全体的なタイムが上がっていく中で、自分のタイムも上げていくことができたし、クルマのセットアップもうまく進められました」と平川は第2戦への感触を語る。
平川、そして松下に加え、今回もうひとり注目したいのが小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)だ。
今季の可夢偉は開幕前のテストから上位にランクインし、スーパーフォーミュラ初優勝も時間の問題かと思われたが、開幕戦では見せ場もなく10位フィニッシュ。さらには先週のWEC第2戦スパ・フランコルシャン6時間で総合2位になりながらも結果的に表彰式に上がれず、FIAに対して1500ユーロ(約20万円)のペナルティが課されてしまった。
WECスパではレース内容についてエンジニアと話していたため、表彰式の控え室まではいったが、間に合わなかったという可夢偉。スーパーフォーミュラのオートポリスで、まずはペナルティのことを聞くと、いつもの可夢偉節が炸裂した。
「罰金の請求書は僕のところに来ているので、僕が払うみたいです。もしよければ、オートスポーツwebで立て替えてくれないですかね」
「F1から戻って来て以来、僕個人としてはペナルティをしばらく受けていなかったので、久々にペナルティを受けてみようかなと。コース上で他のドライバーとかチームに影響がない範囲で、自分だけに受けられるように」と、真顔で冗談を言う可夢偉。自分のペナルティをネタにするところは、さすがとしかいいようがない。開幕戦の低迷、そしてWECスパでのペナルティなど流れは良くないが、いつもの切り替えの早い、ポジティブな可夢偉のようだ。
「鈴鹿ではいまいちでしたが、ここオートポリスではしっかり速さを見せて、できるだけ多くのポイントを獲れるような位置でフィニッシュしたいと思っています。日曜日は雨のようなので、できるだけ予選で前に行っておくのが大事になるので、明日、うまく合わせ込めるようにしたいですね」とこのオートポリスへの期待で締めた可夢偉。
松下、平川、可夢偉と、開幕戦で本来のパフォーマンスを発揮できなかった面々が、山本、石浦といった実績充分のベテランにどう立ち向かうのか。決勝日が雨のオートポリス戦は、いつも以上に予選が楽しみになる。