5月8日放送の「ガイアの夜明け」(テレビ東京)で、老舗書店の新たな挑戦が紹介され、ツイッターユーザーから心配の声が上がっていた。出版不況の煽りで次々と街の本屋が姿を消す中、神奈川県を拠点とする「有隣堂」が今年3月、新商業施設である東京ミッドタウン日比谷に新店舗を構えた。
6代続く同族経営の同社は、本の販売事業が3期連続の赤字に陥っている。起死回生を狙い、気鋭のクリエイティブディレクター南貴之氏(42歳)に店舗づくりを全面的に依頼。本がほとんどない斬新な店づくりを目の当たりにした視聴者の間で議論が起きていた。(文:okei)
初期投資2億7000万円、後継者はクリエイティブディレクターと心中する覚悟
新店舗の責任者は、6代目社長の長男である松信健太郎専務(45歳)だ。ディレクター南氏のコンセプトは「なんでもそろう一つの街にする」で、高級アパレル、理容室、居酒屋、眼鏡店など9つの店舗を置き、これらをテナントではなく有隣堂がすべて自社で運営するという。本棚は中央のアパレル雑貨エリアにわずかに配置された。
初期投資は2億円。これは有隣堂の年間営業利益の約6割にあたる。さらに南氏への報酬は別だ。
父である松信社長が「南さんの言うことを聞いて売れなかったらうちの責任になるんだろう?」と問い詰めると、専務は「そうです」と即答。さらに「方向性が間違ってますとは言えない立場でしょ?」と社長に聞かれ、こう答えた。
「言えます。言えるけど言いません。ここは最初に決めた通り、三井(不動産)さんと南さんと心中するというのを貫く」
この言葉どおり、松信専務は南氏に付き従い徳島やロサンゼルス等に出かけ、特注食器や高級アンティーク家具、レトロなデザインの旧型のバリカンなど理容道具を次々に買い付けていた。
店舗の工事も南氏のこだわりで細かい変更が相次ぎ、大幅な工期の遅れや7000万円もの追加費用が発生。松信専務は「7000万円あれば書店だけの店舗が1つ作れる」「葛藤です」と言いつつ、南氏に何も文句は言わなかった。南貴之の世界観を壊してしまっては、彼に依頼した意味がないというわけだ。
「有隣堂で働いてる人たちがどう見てるか心配するレベル」
3月下旬のオープン当日、満を持して客を待ち受けたものの、流れ込んだ客のすべてが映画館やレストラン街など逆方向へ。松信専務はたまらず有楽町駅へティッシュ配りに走っていた。
午後には大勢の客が流れてきたものの、番組を見た視聴者からは、ツイッターで心配の声が相次いだ。
「あまりにひどすぎて、有隣堂で働いてる人たちがどう見てるか心配するレベル。書店のノウハウしかもってないのに(中略)複合店なんて無理以外のなにものでもなかろう」
ノウハウを持たない後継者が外部のいいなりで無理な改革にお金をつぎ込んだと見る人が多く、「同族経営の甘さ」など手厳しい批判も散見された。
とくに嫌悪感を示したのは本好きの視聴者だ。10ある本棚の1つ1つは、店の立ち上げに関わった10人が選んだ本が並び、各人のルーツがわかるという。松信専務の棚もあり、ビジネス書から小説、絵本まで多岐に及んでいた。しかしこれを「素人が選んだ本」「本好きはいかない」などと評する人も。魅力的な本の品揃えに注力せず、集客ばかりに気をとられているという批判も多数上がった
確かに番組を見ていると、すでに書店の体をなしていない「イメージ空間」のそれに、抵抗を感じる人がいることはよくわかる。おそらくここは、本好きをターゲットにはしていないのだろう。
一方で、「書店が生き残るために新しいことをしていくことはリスクがでかいが、とても大切なことだと思う」と理解を示す人もいる。これも非常に重要なことだ。
筆者も近所の本屋が閉店し、不便と同時に町の文化水準が下がった気がして悲しい。書店員の友人からは、本の売り場を減らして文具を売る、人件費を減らす要請がありワンオペになるかもしれないなど、内部が疲弊している様子を聞く。
うまく行くかどうかは別として、このままでは先がないと考えざるを得ない状況なのだ。一切が潰れてしまうより、何らかの方法で生き残ろうとする企業努力を責めることはできない。改革は成功するのか。今後が気になるところだ。