ZENT CERUMO LC500とau TOM'S LC500 5月4日に決勝レースが行われた2018年のスーパーGT第2戦富士。今回はレクサス陣営躍進のウラ側や石浦宏明(ZENT CERUMO LC500)と関口雄飛(au TOM'S LC500)の攻防など、GT500クラスにまつわるトピックスをお届け。
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■第2スティント全ラップで続いた同門対決。逃げられない関口と近づけない石浦
前に出たはいいが、関口雄飛はピットに「もうダメ(抜かれる)かもしれない」と泣きを入れていた。抜かれた石浦宏明は、後ろで燃費走行する余裕もタイヤマネジメントする余裕もなく、「離されないように」必死だった。2台の全力の攻防は、第2スティント全ラップで繰り広げられた。
au LC500は1回目のピット時の給油量を少なめにして、停止時間を短縮して前に出る作戦をとる。さらにZENT LC500が、GT300のマシンに詰まった他の500車両との絡みで失速したことが重なり、関口は一気に石浦の背後に迫る。石浦はそれに気づきブロックラインをとったが、さらにそのインに関口は飛び込んだ。
auは1回目のピット時間を短縮した分、2回目は長くなる。そのマージンを関口はコース上で稼ぎ出さなければならない。しかし後ろのヘッドライトはいつまでも遠ざかる気配はない。
石浦の方はアンダーに苦しんでいた。関口に近づくと風が当たらなくなるのでますますアンダーになる。関口のブロックもかなりきつく、43周目の1コーナーでは「不意打ち気味に」インに飛び込んでみたりしたが、うまくいかない。結局、両車の間隔は広がることなく次のピットを迎えることとなった。2回目のピットはau LC500の方が長く、第3スティントに入ったときはZENT LC500が前を走っていた。
両車が選んだタイヤは若干仕様が異なり、ZENT LC500の方がピークが高く、au LC500の方は終始平均的な性能を発揮する。石浦が前のままならその高いピークを利用して関口を離していただろう。だが関口は早い段階で前に出たため、そのポテンシャルを封じ込めることに成功したのである。とはいえ石浦の方も離されなかったことで次のピットでの逆転を生み、まさに互角の好バトルであった。
レース後、トムスの東條力エンジニアは「今回はやれることは全部やった。ミスもなかった。結果は4位だったけど、内容は良かった。次は勝ちにいこうって話した」という。開幕戦ではピックアップに苦しんだこともあり振るわなかった関口に対し、「今回は90点はいくよね!」とその仕事ぶりを褒めちぎっていた。
■レクサス勢がグリッド上位に躍進。本気を出したエンジン開発
開幕戦で苦戦していたLC500勢が富士で息を吹き返した。岡山での苦戦の要因は車体やタイヤなど多岐にわたるが、そのひとつにはエンジンも挙げられていた。オフのテストで毎回のようにエンジンブローを喫していたレクサス陣営は、開幕までにその原因を特定できず、岡山では“安全方向に振った仕様”で戦わざるを得なかった。
「何が原因で壊れたのか? 単純なノッキングか、あるいは別の要因かを検証してきた」と語るのはTRDエンジン開発担当の嶋田良孝氏。そして、岡山と富士の間で「原因が見えた。いまは開幕時よりも“攻めた仕様”ですがライフも問題ない」という。レクサスエンジンの逆襲を受け、ほか2社は鈴鹿でどう対抗してくるか。
■GT500は超高速戦に突入。全車が最高速300キロ超え
ついにGT500全車が大台を突破した。悪天候の影響で従来のQ1/Q2方式ではなく、1セッションで行なわれた予選で、すべてのマシンが最高速で300km/hを超えたのだ。これまで数台が記録することはあったが、全マシンというのは初。ただし、強い追い風が吹いており、あくまでも参考記録ではあるが。
GTマシンが初めて300km/hオーバーを記録したのは、2005年の第4戦富士。このときは富士専用のロードラッグ仕様のカウルが装着可能な時代だった。スープラとGT-Rが同時に1台ずつ記録し、あれから10年以上の時を経て、ついに超高速戦時代の幕が開けた。
■故・山田エンジニアに届け。WAKO'Sの弔いレース
2009年にトムスから移籍し、チームの陣頭指揮をとってきた名参謀・山田健二エンジニアが亡くなった。その後の最初のGTのレース。セッティングは事前のテストで山田氏が考案した仕様がそのまま持ち込まれている(テストでは総合3番手のタイムをマーク)。予選で「今までにないくらい緊張した」という大嶋和也は、PPに匹敵するタイムをマークした。
じつは持ち込んでいたタイヤはZENTとは違い、ある意味コンサバ傾向のスペック。さらにウエイトも16kg積んでいることから、PPとの0.170秒差はないに等しい。だが決勝では残念ながらZENTが履くタイヤの方がコンディションにマッチしたよう。別スペックかつ軽量マシンが前に行き、そのなかではベストの結果となる5位となった。
■ルーキー坪井が完璧な仕事。可夢偉の“留守”を守る
ルーキーの坪井翔がこれほどの走りを見せるとは、いったい誰が予想しただろう。レギュラーの小林可夢偉がWEC世界耐久選手権参戦のため欠場。その代役となる坪井は悪天候の影響で、練習走行は「わずか9周」という状況で決勝に臨んだ。第1スティントで相方ヘイキ・コバライネンがトップに立った瞬間の表情は喜ぶというより、むしろこわばっているように見えたのはそのためか?
ところがいざコースへ出ると、坪井は好タイムを連発。さらに、スティント終盤のセクター2で全体ベストを出すなど完璧なタイヤマネージメントも披露した。坪井はこれまでGT500のテストに参加してきたが、今回の富士と合わせても「合計30周程度しか走っていない」。にも関わらず富士では見ごとに40周弱を走りきった。
■開幕戦絶不調だったDENSOが復活。一時はトップ快走
開幕直前のテストから謎のアンダーに苦しめられ、それが前戦岡山まで引きずっていたデンソー。だが今回は完全復活を遂げ、序盤から第2スティント終了までトップを走った。
開幕戦までチーフエンジニアを務めていた田中耕太郎氏がルマンに移籍したため、今回からそれまでデータエンジニアだった笠井昭則氏が就任。セットアップと持ち込みタイヤは田中エンジニアが決めたものから「変えていない」と笠井氏。タイヤはZENTと同じスペックで、これが当たりだった。2回目のピットでモチュールに逆転されたが、「先に入ったもん負け」となるのは承知。それでもSC導入の可能性を嫌い、あえて余裕を持って入ったものだ。逆転はされたものの、「いいレースでした」と笠井氏は笑顔だった。
■他のGT-Rの状況。カルソニックはふたりの妥協点が見えた
モチュールの活躍の陰で他のGT-Rの状況はどうなっているのだろうか。カルソニックの小河原宏一エンジニアは「予選は4輪脱輪で13番手になったけどタイムでは8番手だったので、本来の位置からスタートしていたらもう少しいけたはず。レースペース的には悪くなかった。特に路面が冷えてから」。
また、ヤン・マーデンボローと佐々木大樹はドライビングスタイルが大きく違う。「難しいですよね(笑)。でも今回お互いの妥協点が見えた気がします」。
クラフトスポーツはモチュール同様ミシュランを履くが、スタートはミディアムソフトだった。「想定したよりも路面温度が上がってしまった」と宮田雅史エンジニア。第2スティント以降はモチュールと同じミディアムにしたもののタイム差は残った。新体制で走行時間が欲しい状況を考えると、公式練習の時間が短縮されたことの影響が大きかったかもしれない。