佐藤琢磨が参戦するインディカー・シリーズを日本国内で生中継しているGAORA SPORTS。番組で実況を務める村田晴郎氏と解説を務める松田秀士、松浦孝亮に5月27日に迫った第102回インディ500への展望を聞いた。
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──昨年琢磨選手が勝ったとき、どう思いましたか?
松田秀士(以下、松田)::チームとクルマがはまり、運さえ向いてくれば、いつか勝つだろうと思っていたんです。12年の最終周からつながっていて。勝つべくして勝ったから、夢みたいな感じではなかった。でも、“とんでもないことが起きた”って興奮したよね。
松浦孝亮(以下、松浦):インディ500では残り数周で“抜いて抜かれて”の繰り返しが起き、風向きも考えてだいたいの結果の予想はつくのですが、あのときは「あれっ? ゾーンに入っちゃった」と3周くらい前に分かった。その瞬間にびっくりして、言葉が出てこなかった(笑)。
村田晴郎(以下、村田):僕もあのときは気の効いたことをひとつくらいと思ったけど、出てこない。“これ、絶対歴史に残っちゃうよな”って。プロレス実況のときはすべて即興ですが、事が大きすぎて、過去の五輪のときの“栄光の懸け橋だ”みたいなものが出てきませんでした。オーバルはチェッカーを受けないと順位が確定しないので、「いま、佐藤琢磨が日本人の歴史のなかで栄光の……」という感じにはいかないんです(笑)。
──そんな琢磨選手は今年、どんなレースをしてくれそうですか?
松田::今年はどういう戦い方をするのかが問われる。去年はタイヤの摩耗について計画を綿密に立て、かなり作り込んでいた。でも、そうしたことがムダになるくらいの“なんじゃこりゃ?”みたいなことがレース当日に起きる。それでも複数回勝っている人がいる。そういう強さをどれだけ見せてくれるか。今年はチームもエアロも変わった。去年の良かったところを提案しながらいい方向に持っていかないといけないけど、アドバンテージはあると思う。
松浦:レースに向けてクルマを仕上げていく段階で、「1回勝った」という事実から、求めるフィーリングの“このゾーンに入れておけば大丈夫”という作り方での自信を深めていると思います。レースではリヤウイングを何度くらいで行くのか。ドラフティング中にこれくらいの角度なら戦えるかな、とか。ダウンフォースをつけすぎると抜けない。後ろにいるときはいいけど最後はリーダーになれない。軽くしすぎるとトラフィックのなかでタイヤが厳しくなっていったり。そこは乗り手のフィーリングで決める部分が大きい。でも、勝った経験からしか得られないものを今年は持っていると思います。
勝者の栄誉は別格!
──琢磨選手以外には誰に注目?
松浦:ウィッケンス(ロバート・ウィケンス/シュミット・ピーターソン)がいい。
村田:“ルーキー”ではないけど(笑)。
松浦:彼はフェニックスで速かった。インディ500ではツーワイドで走ることはあまりなく、どちらかというと“フェニックスの大きい版”みたいな感じなんですが、フェニックスは結構難しいオーバルなんです。
村田:しかも、「初めてだから慎重に行った」と言っていましたよ(笑)。
松浦:柔軟性があり、レースがうまい。その状況でどういう仕事をすべきかを分かっている。ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)も来たときは速かったけど、期待していることは全部やってくれた(笑)。
松田::アンドレッティ勢はまた速そう。注目はロッシ(アレキサンダー・ロッシ/アンドレッティ・オートスポート)とビーチ(ザック・ビーチ/アンドレッティ・オートスポート)。ビーチは、ムチャはしないけど行くときは行く。
村田:前戦でつかんだと言っていました。あとはニューガーデン(ジョセフ・ニューガーデン/チーム・ペンスキー)。昨年シリーズチャンピオンになって、今年インディ500で勝ったら、アメリカン・スーパー・ヒーローですよ。
松浦:彼に勝ってもらいたいという人がいっぱいいる感じ(笑)。
──アメリカ人が勝つほうが盛り上がる。
松浦:昔は “あれっ?”というイエローが出たときもあったような……。(笑)。
村田:彼は“ニュー・スターへ”という流れに乗っていますね。
松浦:彼のパーソナリティを含めて、それを否定する人がいない。アメリカではナイスガイじゃないとダメ(笑)。
──それに、アメリカでの「インディ500勝者」の栄誉は別格ですよね?
松浦:超有名人になると思います。僕も予選トップ10くらいで、スタバで「おう、おまえ、何番手だったな」などと言われるくらい。琢磨さんは空港の入国審査で毎回3分くらい話していると思いますよ(笑)。
松田::僕も試乗会などでアメリカに行くときは、「オレはレースカー・ドライバーだ」と言って。「どんなレースだ?」「インディ500で4回走った」「ワオッ! 何という名前だ?」となって、そこから対応がガラリ(笑)。
松浦:武藤(英紀)くらいですかね、インディアナポリスで近所の日本人のおばさんに引っ越しを手伝わされたのは(笑)。「あなた、いいカラダしているわね。ちょっと手伝って」って。お礼で焼肉をごちそうになり、何日か後、インディ500ウイークがスタート。地元紙にも毎日記事が大きく載る。それを読んだそのおばさんが「大変、あなた、腰とか痛くない?」って急に気を遣い出して、ひと騒動(笑)。
松田::地元の学校を訪問したら、TV、ラジオ、新聞が取材に来ていて、そのニュースでみんな知っている。子どもたちが帰った後、教室を見せてもらったら、「ここから先はインディアナポリス・スペシャルVIPルーム 許可なく入るな」と書いてあって、入ると教室の壁伝いに「インディアナポリス・モーター・スピードウェイの歴史」という年表が書いてあった。そういうことが普通に行なわれている。
松浦:インディ500は優勝者だけ表彰される。2位は表彰なしですから。でも、一番うれしいのはメカニックさんたちかも。ボーナスが出ます。
松田::僕は賞金稼ぎだったけど、「ヒデシなら予選は通るな」と、メカさんたちからの待遇が良かった(笑)。
──今年は予選でバンプアウトもありそうですが、決勝に残れないと……。
松田::落ち込み方がひどい(笑)。
──今年はさらに見どころ満載という感じですが、それを受けて、GAORA SPORTSもインディ500関連の番組を大量投入します。
村田:琢磨選手の特番、予選、カーブデイ、そして決勝。今年はたっぷり。細かいことは分からなくても、あの空気感を共有してほしいですね。お祭りムードの。オープニングセレモニーが段違いに長い。「すぐ走ればいいじゃん」と思うかもしれませんが、あれで盛り上がってくるんですよね。
松浦:現地テレビ局も歴史から何から非常に力を入れて映像を作っている。
村田:アメリカのモータースポーツの、というより、アメリカのイベント。僕たちもカーブデイから局入りして、万全の態勢でお届けしていきます。
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