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アメリカが抱える深刻な問題“隠れホームレス”の実態とは? 『フロリダ・プロジェクト』監督が語る

2018年05月09日 16:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 映画『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』が5月12日に公開される。本作は、フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐ外側にある安モーテルで、その日暮らしの生活を送っている6歳のムーニー(ブルックリン・キンバリー・プリンス)と無職の母親ヘイリー(ブリア・ヴィネイト)の物語。経済的に厳しい生活を送る親子の姿を、ムーニーの視点からカラフルかつポップに描いている。


 今回リアルサウンド映画部では、本作の監督を務めたショーン・ベイカーにインタビュー。作中で描かれたアメリカが抱える“隠れホームレス”の実態やInstagramでのキャスティングについてなどを聞いてきた。(取材・文・写真=阿部桜子)


ーー住宅が持てず、安モーテルで週ごとに賃貸契約を結ぶ“隠れホームレス”の実態に驚きました。アメリカで今起きている、この問題について詳しく教えてください。


ショーン・ベイカー(以下、ベイカー):“隠れホームレス”は増加の一途を辿っていて、例えばロサンゼルスだとホームレス用のシェルターがほとんどないことが問題になっているんだ。最近もトランプ大統領が住宅の提供などを行う部署への予算をカットしたことが発表されたけど、アメリカ政府は国民に手軽な価格で住宅を提供できなくなったんだよね。トランプ政権下だと退役軍人のための住宅支援は手厚いんだけど、そのほかが全くされていない状態なんだ。“隠れホームレス”はアメリカ全土が抱える深刻な問題だね。


ーー“隠れホームレス”の人々を、本作ではポップにかつ明るく描いた点が興味深かったです。


ベイカー:こういう題材だとアプローチの仕方は何通りもある。“物凄く厳しい現実”として切り取ったり、メロドラマのように撮ったりすることもできるよね。でもこの2つのやり方だと、キャラクターが立体的かつ人間として見てもらえないと思っているんだ。もし君がムーニーに感情移入できなければ、後半に進むに連れて明かされる現実へのインパクトが減ってしまうかもしれない。だから、コメディーやユーモアなどのエンターテインメント性を通すことによって、少なくとも思いやりと共感を覚えてもらえるようにできればと考えた。映画を観終わったあとに、世界に実際に存在するムーニーやヘイリーたちのことを頭に浮かべながら劇場を後にしてほしかったんだよね。だからまず、より多くの人に本作で扱った問題が届くように、ライトなタッチで描くことを意識したんだ。


ーー全体的にローアングルで撮られていたのも印象的でした。


ベイカー:決してカメラが子供たちを見下さないように工夫したよ。子供たちからの視点かそれより下から撮って、彼らが大きく見えるように撮影しているんだ。そうすることによってロケーションの鮮烈さがより輝くし、子供たちを通した物語を進められると思ったからね。それに、小さい頃って大人ほど汚れていないだろう(笑)? 世界や未来を考えるとき、子供たちは楽観的で、驚きと発見、そして新鮮さを見出す。そういうところを捉えたかったんだ。


ーー劇中で、ムーニーやヘイリーがiPodでたくさん音楽を楽しんでいましたよね。Coca Vangoの「Yesterday」やRyan Oakes「HENNY IN MY SYSTEM」などヒップホップの楽曲がたくさん使われていましたが、選曲はどうやってされたのでしょうか?


ベイカー:ヒップホップを多く使ったのは、ブリア・ヴィネイトがよく聞いていたからだよ。この位の年齢の子供たちが聞いている音楽はなんだろうと考えて、ヴィネイトからの意見を取り入れて選んでいったんだ。いくつかの曲の権利を獲得するにあたって、ヴィネイトの知り合いを通して実現できたのも良かったね。


ーーブリア・ヴィネイトはInstagramで発掘したんですよね。


ベイカー:実は、ムーニー役のブルックリン・キンバリー・プリンスの方が女優としてのキャリアを持っていたくらいなんだ。最初は、経験のある女優をキャスティングする話が進んでいたんだけど、友人がたまたまInstagramで彼女の動画をリポストしていたのを目にした。彼女はカジュアルで、若さゆえの反骨心も見え隠れしていた。タトゥーを含めた鮮やかな体がこの世界にぴったりだったし、Instagramでも自分を表現していたからカメラの前で演技することへの自信も持っているのだろうと感じたんだ。それに彼女はニューヨークのアクセントで話すのだけれど、実際にフロリダで“隠れホームレス”になっている人はニューヨークやプエルトリコから引っ越してきた人が多くて、そういった意味でも理に叶っていた。でもキャスティングで何よりも大切なのは、モチベーションの高さと、作品を楽しめるか、必要な努力をする準備ができているかで、彼女にはそれらが全部揃っていた。『フロリダ・プロジェクト』は僕のこれまでの作品よりも多い製作費で撮っていて、通常ならばプロデューサーが未経験の女優に大きな役を当てることに抵抗するところなのだけど、すんなり承諾してくれたんだよね。本当にありがたかったよ。