トップへ

スーパーGT第2戦富士GT500の勝因。ギリギリまで攻めたMOTUL GT-Rのふたりのドライバー

2018年05月07日 15:21  AUTOSPORT web

AUTOSPORT web

スーパーGT第2戦富士で見事優勝を飾ったMOTUL AUTECH GT-Rの松田次生とロニー・クインタレッリ
「全然グリップがない……」

白バイ先導のパレードラップが始まってすぐにロニー・クインタレッリ(MOTUL AUTECH GT-R)はそう感じた。ミディアムソフトかミディアムの選択肢があるなかで、堅めのミディアムを予選および決勝スタートタイヤとしてマーキングしていた。

 パレードラップの最中、周囲のライバルをみるとあまり真剣にタイヤを温めようとしているようには見えない。「余裕があるのかな?」感じた不安を払拭するために、アクセル、ブレーキ、ステアリング、すべてを駆使して2周に渡って必死にタイヤを温めた。タイヤグリップがない状況下、パワーアシストがあるといっても軽くはないステアリング操作と加減速を繰り返すのは楽ではない。

 去年までの見切りで全開にできたスタートから変更され、シグナルグリーンのタイミングに対する緊張感は高まった。アクセルオンのタイミングをぴったりと合わせることに成功したロニーは、その加速を生かしてTGRコーナー(1コーナー)のブレーキングを遅らせてワコーズ4CR LC500のインに飛び込んだ。

 「スタート直後、(タイヤレンジの)ぎりぎりいいところまで入れることができた」とロニーはレース後、この時のことを振り返り、こうも続けた。「(パレードラップとフォーメーションラップの間は)抜くことより、どう抜かれないようにするかを考えていたんだ」。

 第2スティントの松田次生は、39号車デンソー・コベルコLC500を追おうとした矢先にアドバンコーナーでアウトラップと思われるGT300にひっかかる。運悪くイエローフラッグが出ており、ここで失ったおよそ7秒をなんとか4秒差まで削って39号車の1周後ピットに飛び込んだ。「(スティントの)最後までフルプッシュして、ピットロードに入る時も、4輪ロックしながらブレーキングしてギリギリのところまで攻めました」と次生。

ウォーマー禁止でアウトラップをタイヤ発動のために費やすスーパーGTでは、バトル相手の1周後に入るのが鉄則。「我々はノーチョイスでした」と23号車モチュール・オーテックGT-Rの中島健エンジニアをこの時の判断を振り返る。

「ノーチョイス」の理由は燃料残量がぎりぎりだったから。セーフティーカー(SC)運用ルールが変わって以降、SC時のピットインはペナルティの対象となる。SC導入時に走行を継続できるだけの燃料残量を残した上で、500kmを2回給油で走り切る燃費を成立させなければいけない。

 パワー競争の激化で燃費に対する要求もかなり厳しくなっている。コンマ1秒を削りながらも、燃費を稼ぐ運転を次生がこなしたことがプラス1周を生んだのかもしれない。「ドライバーにはいろんなガマンをしてもらっています」と中島エンジニア。

 23号車と2位となった39号車のラップタイム推移を比べると第1スティントでは39号車が勝り、第2スティントでイーブン、第3スティントでは23号車が勝っていた。それぞれタイヤ選択は3スティントとも同じ。

 路面温度の変化(スタートからゴールで約9度低下)と、ラバーグリップが周回数に比例して路面に載っていくという違いがあるだけで第1スティントと第3スティントはドライバーの組み合わせも同じ。ラバーグリップが少ない状況下で23号車が履くミシュランはグリップが発揮できない傾向があるという。

「今の競争のなかで高負荷の状況ではミシュランが強いとか、それぞれのタイヤメーカーでこんなキャラクターがあるという見方が通用しない状況に入っていて、毎戦毎戦、優位性が入れ替わる可能性があると思っています」とミシュランの小田島広明氏。

 わずかなコンディション変化とタイヤ特性が勝敗を分けること自体が18シーズンのGT500クラス3車種の差がなくなっていることを証明しているだろう。「今日の結果からするとホンダは、MRのNSXが得意なところにフォーカスして開発してきている。レクサスとウチは富士での2戦を考えたクルマづくりをしている」と開幕2戦の状況を総括するのは田中利明ニッサン総監督。

 開幕戦優勝の17号車ケーヒンNSX-GTは周回遅れ。僅差となっているだけにウエイトハンデの影響も昨年より大きく出る状況となっている。

 結果的にはパレードラップとフォーメーションラップ、レース前2周でのロニーの奮闘が活路を開いた。もしも3番手のまま1コーナーに入っていたら、ラバーが載るまでのペースからしても後続に抜かれた可能性は高い。

 第3スティントもトップを追う展開だったら、持っていたペースを充分に生かせなかったはずだ。ふたりのドライバーが1周1周に集中しなければ勝利は呼び込めない。開発競争が激化した先で、ドライバーの重要性が高まるのは観戦側にとっても歓迎すべき事態だ。

autosport 2018年 5/25号 No.1481