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TEEN TOP、少女時代などのメンバーも ラッパー×アイドルのコラボ活発化するK-HIPHOPシーン

2018年05月07日 14:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ヒップホップが流行して久しい韓国。2000年代に入ってから長い時間をかけてじわじわとその地位を確立していった「韓国ヒップホップ」は、2014年に放送されたラップ・サバイバル番組『SHOW ME THE MONEY』のシーズン3をきっかけに大ブレイクを果たした。それから早4年。韓国におけるヒップホップはブームの枠を飛び越え、今やひとつのユースカルチャーとして定着している。


■NIEL × JUSTHIS「What’s good?」


 その人気の頂点を迎えた2015~2016年には、ヒットチャートの上位をヒップホップが占めるのが常だった。今は若干落ち着いたとはいえ、本稿を執筆している2018年4月現在も、トップ10にヒップホップが3曲ランクインしている。ラップに特化したテレビ番組は増え続け、ラッパーがファッション誌のグラビアを飾り、食料品等のCMに出演し、大々的なワールドツアーを敢行している。


 ところで韓国の音楽シーンは、元々メジャーとアンダーグラウンドの垣根が低い。どちらかと言えばアメリカに似ており、“韓国版 Chance The Rapper”とでも言うべきか、インディペンデント・アーティストの楽曲がチャートインすることもしばしばある。さらにこれだけヒップホップが人気ともなれば、アイドル産業がラッパーに目をつけるのは自然の流れだったと言えよう。


 かくしてヒップホップシーンのみで活動するラッパーと、メインストリームで活躍するアイドルによるコラボレーションは、瞬く間に増えていった。日本の音楽シーンではなかなか見られないであろうそんな事例をいくつか紹介したい。


■NIEL × JUSTHIS「What’s good?」


 まずは2017年にリリースされたこちらの曲から。アイドルグループTEEN TOPのNIEL(ニエル)と、実力派の若手ラッパーJUSTHISによるトラック「What’s good?」だ。


 TEEN TOPは2010年にデビューしたボーイズグループで、その名の通りデビュー当時はメンバー全員が10代だった。グループのメインボーカルとリードダンサーを務めるNIELは、このダンサブルなソロナンバーで自身の持ち味を最大限に発揮している。一方、JUSTHISは圧倒的にスキルフルなフロウを武器とし、強気なラップで他のラッパーたちをディスすることも厭わない生粋のラッパーだ。常にトレンドから一定の距離を置いてきた彼だが、この曲によって大衆的なサウンド上でも自身のカラーを失わずに表現できることを証明した。


■TaeYeon × Verbal Jint「I」


 次に紹介したいのは、少女時代のTaeYeon(テヨン)と“King of Flow”と称される重鎮ラッパー、Verbal Jintによるコラボレーションだ。


 日本でも相当の知名度を誇る少女時代。その中で最も歌唱力が高いとされているのがTaeYeonだ。この「I」という楽曲は、彼女のソロ作品として2015年にリリースされた。切なさと壮大さが調和したブリットポップ系のナンバーで、TaeYeonの伸びやかなボーカルとVerbal Jintの優しくも力強いラップが美しく絡み合う。Verbal Jintは2000年頃、韓国語ラップにおけるライミングの基礎ルールを作り上げたうちのひとりだ。その美声を生かしてCMナレーションの仕事もこなすなど、まさに声のプロフェッショナルである。後日談として、この曲がリリースされた少し後、今度はVerbal JintのアルバムにTaeYeonがフィーチャリングのお返しをした。


■SoYou × Eluphant「심심할때만(退屈なときだけ)」


 続いては、2017年に惜しくも解散したガールズグループSISTARのメンバーSoYou(ソユ)と、ヒップホップ・デュオのEluphantによるコラボを紹介したい。2015年にリリースされた「심심할때만(退屈なときだけ)」という楽曲で、「退屈なときだけ、何もすることがないときだけ私に連絡するあなた」と切なげに歌うSoYouに対し、Eluphantは「君」のことが大好きで連絡をしている気持ちをラップするラブソングだ。


 SISTARの中では他のメンバーの個性に若干押され気味だったSoYouだが、ラッパーとの相性は抜群のようで、これまで彼女が参加したヒップホップソングはどれも成功を収めている。特にこのKebeeとMinosからなるEluphantは、ロマンチックで詩的な表現を得意とするチームで、SoYouのふわっとした柔らかな歌声とよく似合う。ハイテンポで強めのビートを基調としたSISTARの楽曲では、この彼女の魅力は引き出せなかっただろう。余談だが、実はKebeeは、先述のTEEN TOPのリーダーであるC.A.P(キャップ)にラップを教えた恩師でもある。


■Suzy × DPR LIVE「HOLIDAY」


 大御所が2組続いたところで、旬のラッパーが参加したトラックを紹介したい。今年1月にリリースされたばかりのシングル「HOLIDAY」で人気アイドルSuzy(スジ)の客演役を射止めたのは、フューチャーベースが最高に似合うシンギングラップの名手、DPR LIVEだ。


 Suzyはアイドルグループmiss Aのメンバーとしてデビューして以降、シンガー・女優・タレントとしてマルチに活躍している(グループはすでに解散)。“国民の初恋”と呼ばれるほどの美女っぷりで、アメリカの恒例企画「世界で最も美しい顔トップ100」では5年連続ランクインするという快挙も。そんな彼女の客演を務めた新鋭ラッパーのDPR LIVEは、DPRというビジュアル・プロダクション・クルーの一員として独自の活動スタイルを取る注目株だ。先般開催された『Korean Hiphop Awards 2018』では、見事「今年の新人アーティスト」を受賞。このようにトレンドの先端に立つふたりがタッグを組むなど、韓国では次世代のヒップホップ・ムーブメントも加速している。


■CHOA × Primary「Don’t Be Shy」


 最後にもう一曲、ラッパーではないが、ヒップホッププロデューサーとして長年トップの座に君臨するPrimaryによるトラックを紹介したい。これまでラップミュージックを中心に手がけていた彼だが、近年はシンガーを起用した歌モノをメインとしている。2015年にリリースされた「Don’t Be Shy」は、ガールズグループAOAのメンバー、CHOA(チョア/2017年に脱退)を迎えたソフトレゲエナンバーだ。エレクトロ調の楽曲が多いAOAではなかなか見せることのできなかった、CHOAの独特なアンニュイさと高い歌唱力が存分に発揮されている。


 本記事では以上の5曲をご紹介したが、これ以外にもヒップホップアーティストとアイドルによるコラボはまだまだ多く存在する。双方にとって新たな側面を見せることができたり、活動領域を広げる契機となったりするため、その効果の大きさは計り知れない。分断されがちなこのふたつのシーンが、韓国ではうまく共存しているのは非常に興味深い点だ。今後もどのようなコラボレーションが登場するのか、韓国の音楽シーンから目が離せない。(文=鳥居咲子)