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鈴木浩介、静と動の演技で視聴者を引き込む 『崖っぷちホテル!』従業員たちの成長

2018年05月07日 13:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 老舗ホテル「グランデ インヴルサ」を舞台に、威厳0の総支配人とくせ者揃いの従業員がホテル再建に挑むコメディドラマ『崖っぷちホテル!』(日本テレビ系)。従業員たちがホテルマンとして成長し始めている中、5月6日に放送された第4話では、鈴木浩介演じる事務責任者・丹沢昭人が「ホテルを辞める」と総支配人・佐那(戸田恵梨香)に伝える場面から幕を開けた。


参考:江口を演じられるのは中村倫也しかいない! 『崖っぷちホテル!』で見せた表情の変化


 鈴木は1997年に劇団青年座に入団し、2004年の退団からはテレビドラマを中心に活躍する俳優である。彼の知名度が上がった有名な作品と言えば、ドラマ『LIAR GAME』(フジテレビ系)のフクナガユウジ役だ。キノコヘアーに黒縁メガネという外見のインパクトもさることながら、他人を陥れ、大声で罵倒する強烈なキャラクターも視聴者に強い印象を与えたことだろう。そんな鈴木が今作で見せた演技は、フクナガユウジのような感情的な演技と、思っていることを表情に出さない事務責任者の静かな演技をうまく使い分け、視聴者を引き込んだ。


 丹沢は自身が学生の頃から「グランデ インヴルサ」に勤めるベテラン従業員。佐那の父であるかつての総支配人とともに働き、ホテルの行く末を見つめ続けた人物である。突然の申し出に佐那は戸惑いを見せるが、丹沢は「ホテルに不満があるわけではない」「自分の身を守るためです」と言い、決意を固めている様子だった。佐那から丹沢の話を聞いた副支配人・宇海(岩田剛典)は特別焦る様子も見せず、新しい従業員を雇うための採用面接を行うと言う。


 丹沢はあまり表情を変えないキャラクターで、お堅い雰囲気も感じられる。しかし鈴木は、ベテラン従業員である丹沢の長年の経験を、無表情の中から垣間見せる。採用面接官として乗り気ではない他の従業員に比べ、幾度となく採用面接を行ってきた経験が、背筋をシャンと伸ばし、面接相手をまっすぐに見つめる姿から感じられる。自身の出世にしか目がない元・副支配人の時貞(渡辺いっけい)に比べ、他の従業員からも一目置かれているような演出もあった。若き総支配人・佐那に対しては思うことがあったかもしれないが、長年勤めていたホテルへの思いが人一倍強いのではないか。そう視聴者に感じさせる演技だった。


 面接後、小山内(長谷川初範)という男が、丹沢の職務を引き継ぐことになる。優秀な小山内を「この人なら任せられる」という目つきで見つめる丹沢。しかし小山内にホテル館内を案内するよう宇海に指示されたとき、小山内に対して軽く会釈するという演技の中から、小山内から感じる総支配人の面影や思い入れのあるホテルに未練があるような表情を見せる。会釈した後に軽く目線が泳ぐという静かな演技だったが、鈴木はその一瞬の演技で丹沢の胸中をさらけだしたのだ。


 鈴木らしいコミカルな演技も魅力的だった。小山内の存在で初心を思い出した丹沢だが、彼が長年愛情をこめて育ててきた幸運の食材・すっぽんがぞんざいに扱われ、また長年勤めてきた他の従業員に認知されていなかったことで、彼が見せてこなかった感情が爆発する。


 大切に育てていたすっぽんを抱えて厨房を抜け出す姿はユニークで、堅物な印象のあった彼の人間味があふれた瞬間だった。感情を爆発させる丹沢の姿には、ふつふつと笑いがこみあげてくる。しかしそれと同時に、彼がホテルに対して抱えてきた寂しさややるせなさに対して同情心も湧いてしまう。鈴木の演技はドラマをコミカルに見せるだけでなく、1人のキャラクターの過去を、回想シーンを加えることなく視聴者に伝えることのできる深みがあるのだ。


 小山内は宇海が仕込んだ男だった。小山内は、丹沢が退職を決意するきっかけとなったライバルホテルの関係者であり、予定されていたそのホテルの建設が白紙に戻ったことで、丹沢の転職も白紙に戻った。「グランデ インヴルサ」の事務責任者に戻った丹沢が最後に発した「ただいま」という台詞からは、心からの安堵が伝わってきた。


 少しずつ、従業員の心が1つにまとまりつつあるように思える。このドラマは1時間という短い時間の中で、ホテルに対する従業員の思いが丁寧に描かれている。次回は誰の思いが描かれるのだろうか。たった1時間の「ご宿泊」が楽しみで仕方ない。(片山香帆)