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“つんく♂路線継承”のJuice=Juiceと“脱・つんく♂”のアンジュルム 両グループの方向性を分析

2018年05月07日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今年、発足から20周年を迎えたハロー!プロジェクト。2018年前半は、モーニング娘。20th名義での特別ミニアルバム『二十歳のモーニング娘。』のリリース、OGメンバーのコンサート参加など、モーニング娘。を中心に20周年を祝う企画が目立っていたが、ようやく新体制での各グループの動きが本格化してきた。


(関連:Juice=Juiceはハロプロ世界戦略の試金石となるか? ワールドツアーなど海外展開から読み解く


 モーニング娘。、アンジュルム、Juice=Juice、こぶしファクトリー、つばきファクトリーと、カントリー・ガールズを除く全てのグループが現在全国を回る春ツアーを開催中。楽曲についても、2月、3月にそれぞれ新シングルをリリースしたつばきファクトリーとこぶしファクトリーに次いで、Juice=Juiceが4月18日に『SEXY SEXY/泣いていいよ/Vivid Midnight』を、アンジュルムが5月9日に『泣けないぜ・・・共感詐欺/Uraha=Lover/君だけじゃないさ…friends(2018アコースティックVer.)』を発売と、リリースが続いている。


 Juice=Juiceの「SEXY SEXY」は、モーニング娘。以外のシングル曲としては℃-uteの「To Tomorrow」以来となるつんく♂作詞作曲。一方のアンジュルムは、昨年12月にリリースしたBD・DVD限定シングル収録曲のアコースティックバージョンでの再録「君だけじゃないさ…friends」以外の2曲がシンガーソングライターの山崎あおいによる楽曲提供となっている。


 Juice=Juiceが定期的につんく♂作の楽曲を発表している一方で、アンジュルムはスマイレージからの改名以降、他の作家を積極起用した“脱・つんく♂路線”を継続している。そこで、本稿ではつんく♂がハロプロの総合プロデューサーを退いた2015年から今日までの両グループから、ハロプロにおける“つんく♂路線”の継承と、脱つんく♂による新たな方向性の模索について考えてみたい。


 つんく♂が2015年に出版した手記『だから、生きる。』(新潮社)によれば、彼がハロプロ総合プロデューサーの座を正式に退いたのは2014年10月のこと。スマイレージへの3期メンバー3名の加入と、グループ名の改名が発表されたのは、それとちょうど同じタイミングだった。同年12月に新名称を「アンジュルム」としたグループは、翌年2月につんく♂が全くプロデュースに関わらない初めてのシングル『大器晩成/乙女の逆襲』をリリース。ハロプロと同じアップフロントグループ所属で、つんく♂からも長年にわたり高い評価を受けてきた中島卓偉が作詞作曲したファンクナンバー「大器晩成」は、つんく♂プロデュースに頼らないハロプロ新時代の扉を開けた名曲として、ファンからも称賛を受けた。


 それ以降、アンジュルムは最新シングルを含めると計6枚のシングルをリリースしているが、その中でつんく♂が作詞作曲・プロデュースしたのは、2期メンバー田村芽実卒業に合わせて制作した「恋ならとっくに始まってる」の1曲のみに留まっている。その代わりに、多くの職業作家から楽曲提供を受けることで、彼女たちはメタル(「出過ぎた杭は打たれない」)から、今風のJ-ROCK(「ドンデンガエシ」)、モーニング娘。のEDM路線に対する返答とも言えるEDM(「次々続々」)等々、幅広いジャンルに挑戦。それらを雑多な個性と高いパフォーマンス力で自分のものとしていくことで、やんちゃで可愛い方向性で概ね統一されていたスマイレージ時代のイメージを払拭し、破竹の勢いでアンジュルムとしての個性を確立していく。


 つまり、モーニング娘。を基軸としたつんく♂プロデュースがハロプロの正統路線だとすれば、アンジュルムは“脱つんく♂路線”というハロプロのオルタナティブな指針になったとでも言うべきだろうか。リーダーの和田彩花をはじめとするメンバーから事あるごとにモーニング娘。への対抗心が語られるようになったのも、そんなアンジュルムとしての個性が明確になってからのことだ。


 一方で、つんく♂とそれ以外の作家からの楽曲提供をバランス良く受けているのが、現在のハロプロでは三番手と言えるグループであるJuice=Juiceだ。彼女たちは、2015年以降にリリースしたシングル5作のうち、3作品でつんく♂からの楽曲提供とプロデュースを受けている。2015年以降で最初のつんく♂プロデュースとなったのは、Juice=Juiceが「NEXT YOU」という架空のアイドルに扮して主演を務めた朝井リョウ原作のTVドラマ『武道館』(フジテレビ系)に合わせて制作された『Next is you!/カラダだけが大人になったんじゃない』。アイドル業界をテーマに恋愛問題などのスキャンダルにまで踏み込んだこのドラマは、ファンの間では賛否両論あったものの、明暗の「暗」を描いた点において、音楽プロデュースにはつんく♂という人選以外ありえなかった。


 つんく♂がハロプロ総合プロデュースを退いた背景には、喉頭がんの罹患という大きな出来事があった。それでも過度に重苦しく振舞うことなく、あくまで明るく前向きに、ユーモラスな表情を表向きに貫いていたのは、いかにも彼らしい病気との向き合い方ではあったが、こと音楽制作の面では、それ以降明らかに楽曲のテイストがシリアスへと傾いた印象がある。作曲面ではm7コードを多用したマイナー調が強まり、作詞面では女子の日常描写やコミカルな言葉遊び以上に、哲学的でメッセージ性の強い言葉が増えた。それらは以前からつんく♂という作家の強い個性であり、他作家にはなかなか真似できないアクや癖にもなっていた部分ではあるものの、2015年以降の楽曲はとりわけつんく♂の作家性が強まっている。


 それは、逆に言えば「明るく楽しく元気」なアイドルソングを書けなくなった(あえて書かなくなったのかもしれない)ということで、アイドル所帯として運営しているハロプロとしては、明暗の両方が必要なのは言うまでもない。そこで、他作家の起用によってバリエーションを増やしつつ、グループのカラーや個性を鑑みた適材適所でつんく♂楽曲を投入するという方法が取られるようになったようだが、それは今のところ概ね上手く機能していると言えるのではないだろうか。


 最後に留意しておきたいのは、アンジュルムが“脱・つんく♂路線”を進んでいるからといって、それがつんく♂が築いてきたハロプロの伝統や礎の部分を否定しているわけではないということだ。ハロプロエッグ時代から数えると活動歴14年になるリーダーの和田彩花を筆頭に、いずれもハロプロへの強い愛と敬意を持っているという点は共通していて、それは彼女たちの発言に加え、パフォーマンス面での真摯な取り組みと成長にも滲み出ている。


 今年20周年を迎えたハロー!プロジェクト。一区切りが終わった後、多くのファンが望むのは現在の所属メンバーが牽引する、新しいハロプロの姿だろう。さらなる飛躍を期待したい。(青山晃大)