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ポスト・マローン、XXXTentacion、D.A.N.……“メロウネス&メランコリア”感じる洋邦6作

2018年05月06日 11:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 今回の新譜キュレーションで紹介するのは、ポスト・マローン、XXXTentacion、ディプロ、ザ・ウィークエンド、jan and naomi、D.A.N.の新作。この連載ではいつも、ジャンルにこだわらず、海外と日本のアーティストの音源を一つのテイストをもとに選ぶことを心がけている。そして、今回のそれは「メロウネス」と「メランコリア」であるように思う。


■ポスト・マローン『Beerbongs & Bentleys』


 僕は、彼のことを新しい世代のロックスターだとわりと本気で考えている。


 昨年にリリースした「Rockstar feat. 21 Savage」が8週連続全米チャート1位を記録し、4月27日にリリースされたこのアルバムも全世界で記録的なストリーミング再生回数を叩き出しているポスト・マローン。「白人男性ラッパー」という肩書きで紹介されることの多い彼だが、アルバムの音楽的な引き出しはラップだけではない。ニッキー・ミナージュを迎えた「Ball For Me」のようにトラップをベースにした曲も収録されているが、中心になっているのは「Better Now」などボーカルを主体に、どことなく陰鬱なメロディを歌うミディアムチューン。「Stay」のようにアコースティックギターの弾き語りの曲もある。現在22歳の彼が影響を受けてきたメタルやパンクやエモの要素もそこかしこに染み込んでいる。少なくとも現行のUSヒップホップシーンの枠組みだけで彼を語るのは難しいだろう。


 「Rockstar feat. 21 Savage」では自身をボン・スコットとジム・モリソンという若くしてこの世を去った2人のロックスターになぞらえていたが、そこで歌われていたのは、いまやロックシーンからは失われた(ホテルの窓からテレビを投げ捨てるような)快楽主義と狂気性。アルバムにも、刹那的な快楽を追求し背中合わせの自己破壊に至るようなその感性は一貫している。「Rich & Sad」のように成功の代償を歌った曲もあれば、「Paranoid」や「Psycho」のように精神的な闇を歌った曲もある。


 これは直感だけど、きっとアメリカや各国でも、チャンス・ザ・ラッパーやケンドリック・ラマーのように確固たる意志と崇高な哲学を持ったラッパーの登場を称賛してきた批評家筋を含む「物分りのいい大人たち」は彼のような存在がビッグヒットを記録していることに眉をひそめているんじゃないかと思う。


 でも、僕は自堕落で危うく破滅的なところも含めたポスト・マローンのカリスマ性に惹かれるような気持ちがある。フジロックでの来日が本当に楽しみ。


■XXXTentacion『?』


 3月にリリースされたXXXTentacionのアルバム『?』も今年を代表するような傑作だった。彼もラッパーという肩書きで紹介されることが多いけれど、僕にとっては、やはり新世代のロックスターとして捉えているところがある。昨年の1stアルバム『17』が評判を呼んで以降「エモ・ラップ」なるタームで彼のことが紹介されることも増えていたが、このアルバムは彼の才能がフロックでないことを証明している。


 アルバムの核になっているのは、孤独や不安、鬱屈や痛みや自傷的な感覚だ。先行シングルとしてリリースされた「SAD!」はまさにそうだし、フロリダの高校乱射事件の犠牲者に捧げた「Hope」も、とても痛切な曲。


 エイトビートのギターリフから始まる「NUMB」はオルタナティブロックの切実さに満ちているし、Blink 182のドラマー、トラヴィス・バーカーを迎えた「Pain = BESTFRIEND」のシャウトも胸に響く。一方で、ダンスホールのテイストの 「I Don’t Even Speak Spanish LOL」など、多彩なスタイルも見せる。


 聴いていると重々しく、鬱々としてくるアルバムなのだけれど、そこに僕はとてもリアリティを感じる。


■Diplo『Carifornia EP』


 ディプロの新作も強く印象に残った。ジャスティン・ビーバーとの仕事やメジャー・レイザー「Lean On」が象徴するように、彼はここ数年グローバルな音楽シーンのトレンドセッターとして活躍してきたわけなのだが、3月にリリースした『Carifornia EP』に、まさにXXXTentacionに通じるような気風を持ったラッパーが起用されている。


 「Wish」にフィーチャリングしたトリッピー・レッドは、現在デビューアルバム制作中の18歳。XXXTentacionの盟友でもある。「Color Blind」にフィーチャリングされているLil Xanは、そのMCネームを抗不安剤XANAXからとったという24歳。多くの若者が依存に苦しみ昨年にはリル・ピープもその過剰摂取で死に至ったというXANAXから若者を守るというテーゼを掲げ、今年にデビューアルバム『TOTAL XANARCHY』をリリースした。いずれも、うわゆる「エモ・ラップ」にカテゴライズされるタイプのアーティストだ。


 他にもリル・ヨッティ、DRAM、DesiignerなどがEPに参加。全体のテイストはとてもダークでメランコリックにまとまっている。トロピカルなダンスホールサウンドを軸に様々なヒットを生み出してきたディプロが、今になってこの方向性に転じることは何を象徴しているのだろうか。とても興味深い。


■ザ・ウィークエンド『My Dear Melancholy,』


 3月に突如配信されたザ・ウィークエンドの新作ミニアルバムも素晴らしかった。「親愛なる憂鬱」というタイトルが象徴しているように、新作は彼のダークサイドを表出させたような一作。メインテーマになっているのは失恋や喪失。リリックの内容はかなり後悔に満ちたもので、彼のシルキーな声で、切実なメロディに乗せてそれが歌われる。


 スクリレックスが参加した「Wasted Times」、ダフト・パンクのギ=マニュエルがプロデュースした「I Was Never There」など、大物揃いのプロデュース陣が手掛けた楽曲のクオリティもさることながら、彼の原点に立ち返ったようなこの作風がとても刺さった。なかでも「Hurt You」が個人的な好み。


■jan and Naomi『Fracture』


 GREAT3のベーシストとしても活躍するjanとnaomiによるデュオの新作。拠点は東京だけれど、その音楽にドメスティックな感覚は一切ない。歌詞が英語であることもあるけれど、抑制した、どこか霧がかかったような詩情がとても心地よい一枚になっている。「狂気的に静かな音楽」というキャッチフレーズも納得だ。これまでアコースティックギターを主体にしたオルタナティブフォークのテイストが強かったが、今作ではエレピの音が優しくメロウに鳴っている。丁寧に、繊細に紡がれたメロディと幽玄なサウンドスケープが形になっている。


 2014年のリリースからインディペンデントな活動を繰り広げてきた彼らだが、『Fracture』はメジャーレーベルからのリリース。シャーデーを想起させるnaomiの中性的な声、janの低く渋みのある声という二人の歌声もいい。とても耽溺性の高い音楽だ。


■D.A.N.『Chance / Replica』


 4月20日にリリースされたD.A.N.のアナログ12インチ『Chance / Replica』。それぞれの曲は各種ストリーミング配信でも公開されているが、この2曲はD.A.N.というバンドにとってまた新たなステップになった感がある。旗印にしている「ジャパニーズ・ミニマル・メロウ」という音楽性は変わらず、よりふくよかな抑揚と、よりサイケデリックな深みを手にしている。桜木大悟の描く歌詞も、情景の喚起力を増していて、聴いていて別世界に連れて行かれるような感じがある。


 「Chance」はシンセのアルペジオを繰り返しながら、ゆっくりとしたテンポのリズムが徐々に熱量を増しカタルシスに至るような一曲。「Replica」もやはりスローなテンポで、トライバルなパーカッションが印象的。どこか波に揺られているような聴き心地がある。(文=柴 那典)