“世界三大レース”のひとつであるル・マン24時間レースを制するため、TOYOTA GAZOO Racingに加入したフェルナンド・アロンソ。現役F1ドライバーにして二度のワールドチャンピオンのWEC参戦は、その発表前から大きな注目を集めてきた。そんなアロンソのWECデビュー戦、スパ6時間レースでの“大型新人”の戦い振りをお伝えする。
5月4日(金)、いよいよ予選日を迎えたスパ・フランコルシャンサーキット。この日も当地は、爽やかな青空と眩しい日差しに恵まれ、最高のコンディションとになった。その中で、午後に行われた予選では、8号車トヨタTS050ハイブリッドにフェルナンド・アロンソが搭乗。WECでは初めてのアタックを敢行している。
予選に先立つ3回目のフリー走行では、各チームが決勝に向けてのセットアップ作業に専念。8号車トヨタも中嶋一貴、セバスチャン・ブエミの順でロングランを行い、アロンソはセッション最後に5周ほどを走った。
そこから3時間余りのインターバルを経て、午後3時35分からLMP(LMP1とMP2)クラスの予選が開始。プライベーターたちがコースに向かうのを横目に、トヨタはしばらくピットで待機していた。
その間に、セッションは赤旗で中断。SMPレーシングの17号車BRエンジニアリングBR1・AERがシステムトラブルからターン4の先のケメル・ストレート上でストップしたためだ。
この赤旗が解除されると、8号車トヨタは、アロンソがトップバッターでアタックを開始。注目される1周だったが、所々で縁石に乗り上げすぎるなどした影響からか、タイムは1分55秒143に留まり、僚友7号車トヨタのマイク・コンウェイがマークした1分54秒679には及ばなかった。
その後、ピエトロ・フィッティパルディの大クラッシュによる2度目の赤旗を挟んで、2番手となる一貴がアタック。一貴は1分54秒781とタイムを伸ばすが、同時にアタックしていた7号車トヨタの小林可夢偉が1分54秒488と総合トップタイムをマーク。一旦はポールポジションをもぎ取ったかに見えた。
しかし、7号車トヨタには再車検でフューエル・フロー・メーターの違反が発覚して全タイム末梢。8号車トヨタが繰り上がりでポールを得ることとなった。
さて、その全タイム末梢が発覚する前だが、アロンソはアタックドライバーが全員参加するミックスト・ゾーンに登場。これはポールポジション記者会見が終わった後のブリーフィング・ルームで行われるWEC恒例のセッションだが、初体験のアロンソは室内に入って来るなり、一瞬「え? ここでやるの?」といった表情を見せた。大勢の記者に取り囲まれたアロンソは、初予選について、以下のように語った。
「ワンチャンスしかない予選だけど、今日は良かったと思うし、楽しめたよ。僕自身のアタックは、セクター2でオーバーステアが出て、タイムロスしているんだ。FP3では、すごく古いタイヤで最後は2分02秒しか出ていない。そこから予選ですぐクルマに乗り込んで、1分55秒で走るという状況だったから、クルマのポテンシャルを最大限に引き出すことができていないんだろう」
「F1の場合は、FP3で2~3セットほどニュータイヤを試してから予選に行って、Q1で2セット、Q2で2セット、タイヤを使える。その中で1周の完成度を上げて行けるんだけど、その点、今日は中古で走ったFP3からいきなりニューでの予選。タイムも全然違うし、別のクルマになっているんだ」
「だから、クルマに自分を合わせ込む重要性が求められるよね。でも、いい練習になったと思う。次は、もう少しニュータイヤを履いて、その時にクルマがどういう状況になるか知れればいいけど。でも、こういうタイプのレースでは、予選はそこまで重要じゃないから。とにかくステップ・バイ・ステップで進むことが重要だし、次に来ることがまず大事。つまり明日のレースだ」
「レースに向けてのクルマはバランス良く仕上がっている。明日は勝つチャンスがあると思うし、勝ちに行きたいね!」
「一貴がアタックしている時は、彼にスピードがあって、アベレージラップタイムを上げてくれるのは分かっていた。でも、可夢偉の方が少し速くて、アベレージタイムも負けてしまったね。それでも良かったよ。僕らはレベリオンとかSMPとか、回りのクルマを気にしていたし、彼らのタイムに注目していたんだ」
「彼らに対して、僕らはFP3で少し苦労していたからね。でも、予選では気温が上がってくれたおかげで、いいパフォーマンスを出せたと思う。明日も暑いコンディションでのレースになるといいね。そうすれば、パフォーマンスを出せると思う」
練習走行日、予選日を終えたアロンソはここまでのレースウイークについて「スーパーな週末を過ごせているよ。FP1で乗り込んだ時から、クルマは快適だったし、FP2ではタイヤに関してすごく学べた。FP3では中古タイヤで走って、その状況でのクルマの動きを知ることもできた」と語り、順調にスポーツカーレースに適応している様子。
「予選も赤旗などがあってフルに集中することが難しかったけど、大きなミスも問題もなく走れたし、フロントロウからスタートできるからね。フロントロウなんて長らく取っていなかったから(笑)」
「とにかく素晴らしいパフォーマンスだったし、チームがいい仕事をしてくれたと思う。ワン・ツーは完璧な結果だったし、レースもワン・ツーで締めくくりたいね」
「違う種類のクルマに乗り替えて、すぐにそのクルマでできるだけ高いパフォーマンスを出すのは、自分に対するチャレンジだけど、大切なこと。自分の居心地のいい場所から、違う世界に飛び込んで、違う方法でのドライビング、まったく違う視界の中で、世界最高のドライバーたちと戦わなければならない。それは大きなチャレンジだし、とても楽しんでいる」
「明日のレースでは、トラフィックがどれだけ危険かとか、そういうことを経験するのも大事。FP3では、GTEクラスを抜いて行くのに、結構大変な場面もあったから。だから、レースを通じて集中して行かないといけないし、最後は表彰台に上がってお祝いできればいいね」