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中川悠介が語る、10周年迎えたアソビシステムへの危機感と“変化の重要性”

2018年05月05日 12:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 音楽文化を取り巻く環境についてフォーカスし、キーパーソンに今後のあり方を聞くインタビューシリーズ。第8回目に登場するのは、アソビシステム株式会社 代表取締役社長 中川悠介氏。中川氏は学生時代からイベント運営に携わり、2007年にアソビシステムを設立。原宿を拠点とする青文字系カルチャーの生みの親であり、KAWAiiカルチャーのアイコン、きゃりーぱみゅぱみゅを中田ヤスタカとともに世に送り出した。海外戦略にも積極的であり、『もしもしにっぽん』プロジェクトでは、日本のポップカルチャーを世界へ向け発信すると同時に、国内におけるインバウンド施策も精力的に行っている。近年、青文字ファッション誌の相次ぐ休刊、CDからストリーミングへ音楽シーンのインフラが変わろうとしているなか、初のオーディションを開催するなど、次の10年に向けて攻めの姿勢を見せるアソビシステムのマネジメント運営の理念と方法論を訊いた。(ふくりゅう)


(参考:中田ヤスタカが考える、ゲーム音楽制作論


・「自分たちが思っている自分たちじゃなくなった」


――アソビシステムが昨年創立10周年を迎えました。時代の流れも変わりつつある中で、原宿カルチャーの中心にいる中川さんは、昨今のティーンカルチャーをどう見ていますか?


中川悠介(以下、中川):そうですね。少し前ってマスメディアが強くて、雑誌も100万部、CDも100万枚売れるのががあたりまえだったじゃないですか。でも、今は変わってきていて。ヒットの指標が数じゃなくなってきてると思うんですね。僕らが目指してるのは、質の高いマイクロコミュニティ。ちっちゃいカルチャーをいかにたくさん作っていけるかがテーマだと思っていて。ちなみに、この雑誌『NIL』ってうちが出してるんですよ。(参考:http://nil-mag.com )


 表紙もなんですけど、登場しているのっていわゆるアソビシステム所属の子ばかりではなくて。なんのためにやってるかって言われたら、マイクロカルチャーを作っていくための雑誌なんです。そういうオープンな感覚って大事で。「『Zipper』が休刊になったら青文字系って下火だよね」っていうのが世間一般のご意見だと思うんですよ。でも、『Zipper』がなくなっても原宿はあるし、原宿カルチャーは続いているし。そこには人がいるのは変わらなくて。


――確かにそうですよね。そもそも、ユースカルチャーは変わり続けていくものだと思います。


中川:音楽もそうだと思っていて。ヒットソングの定義としても、別に国民の9割が知ってる曲でなくてもいいじゃないですか。音楽でもカルチャーでも、そんな時代になってきていると思うんです。マイクロコミュニティの中で生まれる多様性あるカルチャーを作って、それを広げていけばいいんじゃないかなって。でも、形に残る雑誌やCDは大事だと思っていて。無くしちゃいけないなって思うんですよ。


――10周年を迎えて、会社はどのように変わったと感じますか。


中川:今までのアソビシステムは、自然発生的に集まった人たちで運営してきました。中田ヤスタカともクラブで出会って、呑みながらイベントを作ったり、ご飯を食べながら仕事の話をしたりしてきました。きゃりー(ぱみゅぱみゅ)も、うちのイベントに出ていた流れですから。そんな10年だったんです。でも、10年経って気づいたら自分たちが若手じゃなくなったという。自分たちが思っている自分たちじゃなくなったなと感じていて。


――10周年を祝うというよりも、危機感が先に立っていたんですね。


中川:会社の規模もそんなに大きくないし、変わらずワイワイやってるんですけど。周りからの評価や見られ方には変化があるのかなって思うようになりましたね。


――なるほど。現在開催中のアソビシステム初の試みとなる全国オーディション『ASOBISYSTEM THE AUDITION 2018』は、どんなイメージなんですか?


中川:いままでアソビシステムとして、オーディションをやってこなかったんです。それもあって、どんな人が集まるんだろうっていうのが楽しみで。「こういう子が欲しい!」じゃなくて、集まってきた子たちから何か新しいことが生まれたら楽しいぞって。だから、きゃりーみたいな子じゃなくていいんです。よく妹分コンテストとかあるじゃないですか。そういうのはまったく興味なくて。


――では、どんな人に来てほしいんですか?


中川:ふわっとしています(笑)。たとえば要項で「こんな子を募集!」っていうのはないんです。アソビシステムのオーディションを気にしてくれた、アーティスト、モデル、ダンサー、トラックメーカーなどなら誰でも、みたいな。今ってマルチSNS対応な時代じゃないですか。インスタも動画メディアも、どこで何がくるかなんてわからないですから。なので、YouTuberを集めたいわけじゃないけど、オーディションで入ってくれた子がたとえばYouTuberになってもいいと思うし。そんな感覚ですね。


――あらゆる時代の動きに対応できるように、ということですね。


中川:そうですね、ゴールを作らないようにはしたいです。たぶん、きゃりーだってそうだったと思うんですよ。いわゆるYouTuberっていう言葉が生まれる前にYouTubeでヒットして。しかも、海外への窓口も生まれて。それは、すごく大きな経験だったなと思っています。


――2010年代を代表するアーティストとなりましたからね。


中川:自然発生的にやってきたことなんですよ。狙ってできたことじゃないと思っていて。きゃりーの新たなシングルである「きみのみかた」のリリースだって、大人っぽくなったことを狙っているわけではないんです。きゃりーはアイドルじゃないですし、本人がそういう趣向になってきただけなんで。きゃりーは“アイコン”なんですよ。僕らとしても、本人の意見を大事にしている、パートナーみたいな存在になれたらと思っていて。それもあって、今回のオーディションも自然発生的という要素にはこだわってますね。


きゃりーぱみゅぱみゅ – きみのみかた , KYARY PAMYU PAMYU – Kimino Mikata
――場を自分たちで率先して作っていくことって大事ですよね。


中川:そうですね。結局、リアルな体験と場所だと思うんですよ。そこが一番大事だと僕たちは思っていて。雑誌もイベントも発信の場所として大事で。人っていうものもある意味発信の場所だと思うんですよ。そういうのを大切にサポートしていくのがアソビシステムにとって大切だと思っています。


――それこそ体験でいうと、設立10周年を記念した全国クラブツアー『ASOBITOURS!!!』もありますよね。地方在住であっても、そこから刺激を受けたり自己表現を広げていく子もいそうですよね。


中川:そうですね。ちょうど先日、7年ぶりに香川県のクラブnudeに行ったんです。かつて、CAPSULEのツアーで行ったところで。そこのオーナーと喋ったんですけど、自分たちがやり続けるべきことと、新しく進化するべきことはあるなと感じて。自分たちがいる場所、クラブも原宿も音楽もファッションも好きなんで。好きなことを体現していったアソビシステムなんです。自分たちの成長を喜んでくれる方が全国にいて嬉しかったんです。イベント文化は、自分たちの原点だし。全国を回れるのはありがたいことだなって思ってます。イベントは自分たちの原点なので。


・「日本でやってることをそのまま持っていくことが大切」


――アソビシステムは、KAWAiiカルチャーの世界発信において、インバウンドな『もしもしにっぽん』など様々な海外プロジェクトを仕掛けられてましたが、今後はどのように考えられてますか?


中川:そうですね。海外へは出ていこうと思ってますし、インバウンドはもちろん様々なプロジェクトをチャレンジしようと思っています。ただ、海外へ出ていくことが目的ではなくて、日本でやってることをそのまま持っていくことが大切なんじゃないかなと。クールジャパンの委員会もやらせてもらっています。昔って、やっぱり音楽ならロンドンだったり、ファッションならパリという憧れがあったと思うんです。でも、それが特になくて。いいものがいいっていう時代なんですよ。たとえばYouTubeにアップしたきゃりーを世界中の人が見るって、そういうことだと思うんです。これまで海外戦略が何なのかわからないまま進んでいきましたから。なので、自分たちが戦略だててというよりも一番大事なのは、日本でいいものを作り続けることだと思っています。その結果、海外はついてくると思ってます。


――YouTubeやSpotify、Apple Music、Amazonなど、海外へつながるインフラは10年前とは違い、整いつつありますもんね。


中川:そうなんですよ。Spotifyは上場しましたしね。でも、テクノロジーに捉われすぎないようにしたくて。IoTだ、AIだ、VRだ何だって、海外エンターテインメントを追いかけていると話題に出るじゃないですか。もちろん便利だし、いろんなことが変わると思うんですけど、僕はface to faceの人の関係性が一番大事だと思っていて。その価値を見出していきたいと思ってますね。エンタメ業界も泥臭さがあって。そこに大切なカルチャーもあるんじゃないかなって。


――コンテンツを生み出すチームの底力と誇りですね。


中川:新しいプラットフォームを作るときに必要なのはコンテンツや人だと思うんです。そこの関係性の組み方を変えていきたいなと真剣に思っていて。それもあって、最近いろんなカンファレンスやイベントで登壇していますし、今はそんなイベントなどで喋ることの大切さを感じています。エンタメって、裏方と演者ってハッキリしているじゃないですか。社長が表に出る必要性は本当は無いかもしれないけど、ITの会社は社長が表に出て、サービスやコンテンツの特性を自らの言葉で語ることで価値が生まれたりするんですよ。それは人を扱う会社であっても、やる意味はすごくあるなと思って。


――なるほど。ビジョンや今後の展開を明確に打ち出すことで、変わっていく側面があるかもしれません。


中川:なんか悔しいんですよね。エンタメがあるからこそ新しい体験ができて、そこから様々なサービスが生まれて、いろんなことがスタートできると思うんで。そこが資本のロジック、お金のロジックにおいて順番が逆転している感じがあって。それこそ、サービスライクじゃなくてコンテンツライクだと思うんで。そこは、もう1回がんばりたいなと思っていますね。


――それもあって最近、いろいろカンファレンスに出られていたんですね。今日もトークがスムーズですし。


中川:どうしても日本って、エンタメとITが交わりづらいじゃないですか。エンタメが、ITサービスを宣伝するツールでしか無いことも多いんです。そこを変えて、プラットフォーム側に立ちたいなと考えています。そこは業界全体でやりたいですね。


――昨今よく耳にする“コンテンツマーケティング”や“ファンマーケティング”というITワードは、実は、音楽業界が率先してビジネス化してきた考え方だったりするんですよ。ファンクラブビジネスなんてまさにサブスクリプション(定額制)なファンマーケティングであり、コンテンツサービスですもんね。


中川:ちゃんと地に足がつく形で、マイクロコミュニティでも儲かる方法論があることを大事にしたいですね。そこを模索しながら、小さいコミュニティがいっぱい生まれれば強くなるんじゃないかなって。それで業界自体が変わっていくんじゃないかなと。なので、僕らは新しいパートナーと積極的に組んでいくことを考えています。Airbnbとの提携もそうですし。やっぱり一周回って、解説ありのツアー体験とか、人とface to faceで会うことの大切さを感じていて。


・「100歩先と1歩先を見続けてきた」


――Airbnbとの提携で、モデルとの原宿ガイドやワークショップなどの体験ツアーを行うという企画は面白いなと思いました。


中川:いままで僕らは、コラボレーションをあまりやれてこなかったんです。10年経って、積極的にやっていくべきだなと思って。これまでは、自分たちのなかで頑張って、自分たちで強くしていかないとみたいなイメージだったんです。でも、そんな時代は終わりましたね。自分たちの強みに自信を持つことを大事に広げていかなきゃなって。


――この10年で積み重ねてきた経験値と知恵ですね。


中川:僕たちがやってきたことって、表現だと思うんですよね。音楽を売るだけという発想ではなく、音楽を違うかたちでお金にすることも大切だし。エンタメは、いろいろあっていいんじゃないかなと思っています。


――価値判断の基準が多様化してるからこそ、アウトプットやマッチングの可能性も広がっていますよね。


中川:うち所属のMANON(2002年1月29日 生まれ)なんかいい例で、活動においても決め事がないんですよ。過去の事例にとらわれず自由にやっていくことって大切なんだなって実感していますね。


――時代の変化に対応していくことって大切ですもんね。


中川:でも、アソビシステムはある意味古臭いんです。人ありきという視点では、昭和っぽい会社かも。そういうなかで、新しいことにチャレンジしていく大切さってあるなって思っています。うちって一応会社なんで組織っぽくなってますけど、ほとんどが個人プレーなんですよ。


――それもまた、時代への対応が柔軟ということなのかもしれませんね。それこそ音楽でいうと、中田ヤスタカさんはDJとトラックメイカーというスタイルで音楽を発信した功績は大きかったと思うんです。今後、トラックメイカーってどんな風になっていきそうですか?


中川:日本って歌った歌手の名前が主に前に出るじゃないですか。それしか出ないことも多々あって。でも、曲を作った人も、映像を作った人も、ダンサーも、スタイリストも前に出るべきですよねって。クリエイターがもっと評価される世の中になるべきだと。その意味では、トラックメイカーやDJってすごく重要な立ち位置となりますよね。そこから、クリエイティブが広がっていくので。それこそ、作品のアグリゲーター(配信元へと繋ぐ役割)であるTunecoreもオーディションのチームにはいます。そこから、スターを作らなければいけないなって思ってますね。


――クリティティブを生み出す場をもっているからこそやれること。


中川:うちにいる子って全員、ゼロイチ(ゼロからイチを成す)じゃないんですよ。そもそも本人たちがゼロイチをやって注目されていて、イチカラジュウ(十分に仕事を形にしていく様)に広げるが僕たちの仕事なんです。本人たちがゼロイチを作っているのが特徴かなって思いますね。


――なるほど。会社はより可能性を広げるためのステージということですね。仮想ライブ空間のSHOWROOM、動画サービスのCandee やluteと組まれているのもそういうことですね。


中川:これからも、もっともっと面白い人たちと組んでいきますよ。結局1周回って、“人”と“体験”が一番大切なんですよ。だから、ライブが大事なんでしょうね。


――すごい象徴的だと思うのは、CAPSULEの結成10周年の時だったかな。その時にも、中川さんに音楽雑誌『MARQUEE』でインタビューしてるんですよ。当時、『TAKENOKO!!!』というタイトルで渋谷のクラブでお昼に10代向けでお酒なしのイベントをやるとおっしゃられていて。思えば、その初回で中田さんときゃりーは出会ってるんですよね。新しいことへのチャレンジでした。


中川:今回のオーディションでも、いい出会いを楽しみにしています。きゃりーや中田も、いつもこうしようああしようではなく自然と作品が生まれて、進化し続けているのがいい感じですよね。別に、きゃりーがたとえ50歳になっても一緒に仕事をやってると思うし、そういう感じなんですよ。 “きゃりーぱみゅぱみゅ”というカルチャー、“中田ヤスタカ”というカルチャーを作ってるイメージ。たとえばですよ、アイドルではないので結婚しようが、なにかあっても別によいですし。歳をとっても関係ないじゃないですか。それが大切なことかなって。


――そうですね。歳を重ねたり、違うフェーズに入っても、そこでもまた新しい価値を生み出していくってことですね。


中川:それが大事だと思ってます。


――最初に会社を立ち上げてから、10年後の世界ってどれくらい予測できてましたか?


中川:まったく予測できませんでした。アメーバみたいに常に変動しながら自分たちが動きたい方向に動いていって。だから失敗もたくさんしてますし(苦笑)。自分たちに計画性は一切なかったです。でも、100歩先と1歩先を見続けてきたかな、みたいな。その間はわからないんです。


――最初に考えた100歩先に近づいたなと感じた瞬間は?


中川:高校生の時に、会社を作りたいと思ったことがあって。将来はビルを建てて、1階はカフェで地下がクラブ、上が美容室でホテルとか。そんなことを考えてたんです。漠然とした夢ですね(苦笑)。いろいろ常に変わってる気持ちの中でいうと、大きくなりすぎてもいけないし、今の会社って社員もそうですけど、イベント時代からのスタッフもいっぱいいるので。いよいよ10年経って思うのは、みんなどんな風に生きたいかってことですね。それをちゃんと考えていかなければいけないなって思っています。


――大きくなりすぎてもいけないというのは、どんな部分で感じるんですか?


中川:会社の規模ですね。意思決定が遅くなってはいけないし、人が増えすぎるとしたら、ひとつでまとまるのではなく50人の会社を10個やっている方が自分たちっぽいのかなって。


――まさにマイクロコミュニティですね。


中川:そうですね。別に今でも会社って気分ではじゃないんですよ。サークルみたいな感覚なので(苦笑)。


――やっぱり、アソビシステムって、カウンターカルチャーの会社ですよね。


中川:なんていうか、原宿でめちゃくちゃオシャレな存在でなくていいんですよ。でも、マスから見たらオシャレに見える落としどころでありたいというか。カウンターカルチャーの中のポップさですね。(ふくりゅう(音楽コンシェルジュ))