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安室奈美恵は“時代を映すアイコン”だった ブランドミューズ務めた90年代以降のメイク広告を追う

2018年05月05日 10:21  リアルサウンド

リアルサウンド

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 9月16日の安室奈美恵の引退まで、あと5カ月をきった。


 昨年11月に発売した初のオールタイムベスト『Finally』は累計売上枚数は150万枚を突破し、現在は国内とアジアをまわるラストツアー『namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~』を開催中。安室奈美恵は、最後となるその日まで、音楽活動を全うしている。


 一方で、Hulu独占ドキュメンタリー『Documentary of Namie Amuro “Finally”』や、NTTドコモのTVCM「安室奈美恵×docomo25年の軌跡」など、25年のキャリアを総括する特集もよく目にするようになった。日々、安室奈美恵をめぐるニュースが溢れるなか、国内化粧品メーカーKOSEが企画する「NAMIE AMURO×KOSE ALL TIME BEST Project」が新たにスタートした。


 KOSEのブランドであるVisse(1997~1999年)、LUMINOUS(2000~2001年)、ESPRIQUE(2011~2014年)、OLEO D’OR(2014~2015年)のブランドミューズを務めてきた安室奈美恵。プロジェクトサイトでは、当時の広告デザインも掲載されている。アメリカのメインストリームのR&B/ヒップホップに接近した活動を展開し、“アーティスト”としての道を極めていた2000年代を除き、10代後半から20代、そして30代まで、安室奈美恵は各時代のメイクの流行を体現してきた存在だ。


 「Don’t wanna cry」「You’re my sunshine」「a walk in the park」など、ミリオンセラーを連発していた1996年前後、安室奈美恵は多くのTV番組やCMに出演し、雑誌の表紙を飾るなど、国民的アイドルとも言えるような人気を得ていた。ミニスカート・厚底のブーツ・ブラウンのストレートヘアと、彼女のビジュアルを真似る“アムラー”が街に溢れかえり、まさに社会現象を巻き起こしていた。


 メイクにおいてもその影響力は絶大だった。97年のVisseの広告には、茶肌に細い眉、ブルーのアイライン、くっきりと縁どられたリップラインなどが印象的なメイクで登場。当時、このブルーのアイライナーはよく売れていた。その後99年まで、寒色系やダークカラーのアイシャドウ・細眉・色味をおさえたラメ感のあるリップの傾向は続いた。2018年の今思い返しても、この時の彼女のクールなビジュアルが強く印象付けられている人も多いのではないだろうか。


 LUMINOUSのブランドミューズになった2000年頃、それまでの茶肌から白肌へとブームは移行。ヘアスタイルも90年代にはオールバックにしていた前髪を、横に分けるようになり、フェミニンさが加わった印象だ。00年代に入り、唇につやを出すリップグロスが流行すると、安室奈美恵が広告で使用した品番は、指名買いが続出するほど人気だったという。


 その後10年のブランクがあき、2011年には30 代前半女性をメインターゲットにした新ブランドESPRIQUEのミューズに起用。この頃から、ヌーディな色使いや、透明感溢れる肌など、メイクのトレンドはナチュラルな方向にチェンジし、“愛されメイク”が流行るように。リップも、ベージュからピンクやオレンジなど鮮やかな色が使われるようになり、CMでは、安室奈美恵自身もブランドのイメージにそった様々なイメージの女性を演じるようになった。


 ライブ活動を中心とした近年では、そうした音楽外の活動から距離をおいているようにも感じられる。しかし、たとえば昨年末に『NHK紅白歌合戦』に14年ぶりに出演した際には、そのメイクやファッションも注目を浴び、特にSNS上では多くの反響があった。また、今年4月には、ファストファッションの火付け役であるH&Mとコラボし、「Namie Amuro × H&M」のアンバサダーを務めるというトピックも。発売日には、全国各地の店舗の前に大行列ができ、売り切れ商品も続出したという。安室奈美恵のディスコグラフィーを遡ると、そのジャケット写真にはほぼすべて自身の写真が使用されている。KOSEプロジェクトの「I am I みんな、あなたになりたかった」というキャッチコピーのとおり、今もなお、安室奈美恵は人々の憧れの存在であり続ける。


 前述したdocomoのCMでは、それぞれの時代の姿をした安室奈美恵が渋谷のスクランブル交差点に立ち、その時代を象徴する携帯端末を手にダンスを踊っている。この25年ほど、安室奈美恵以外にもファッションやメイクを中心としたカルチャーにも影響力を持つアーティストは多く存在した。しかし、デビューから今に至るまで、常に音楽とともにそのビジュアルにおいても注目を浴び、支持され続けたアーティストは、安室奈美恵以外は思い当たらないように思う。安室奈美恵は、音楽だけでなく、さらに広いカルチャーを牽引してきた稀有な存在であり、様々な観点から時代を映すアイコンである。(文=若田悠希)