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神木隆之介の正論が大切なことを気付かせてくれる 大人が成長する物語『やけ弁』の新しさ

2018年05月05日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 神木隆之介が初の弁護士役に挑戦している『やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる』(NHK総合)は、今年度から導入されたスクールロイヤー(学校弁護士)を題材にした斬新かつ異色の学園ドラマだ。「やけに弁の立つ弁護士」とタイトルにある通り、まだ法廷に立ったことがない新米の弁護士だが、法律の力を信じて滑舌よく間違っているものは間違っているとキッチリ主張して学校が抱える問題に神木演じる弁護士・田口章太郎は正面から向き合っていく。


 いじめ、体罰、モンスターペアレント、教師のブラック労働など扱うテーマは重いが、その闇が深ければ深いほど、青臭いほどまっすぐな心で格闘する神木の爽やかさが際立つ。


 第1話のモンスターペアレント問題、第2話の近隣の住民から吹奏楽部の練習音がうるさいというクレームに法律用語を並べてバッサリと斬り掛かっていく田口に対して、ベテランの教務主任の三浦先生(田辺誠一)は強く反発する。法律で白黒ハッキリつけようとする田口と、今までの信頼関係を前提とした独特のルールに基づいたグレーな部分の中から最善の方法を導こうとする三浦のやりとりは価値観や立場の違いを反映して面白い。


 対立するベテラン教師と新人弁護士としての共演だが、以前2人は2回も親子の役で共演している。2007年放送のスペシャルドラマ『瑠璃の島スペシャル2007』(日本テレビ系)と2011年放送の連続ドラマ『11人もいる!』(テレビ朝日系)で、神木隆之介が中学1年生、高校3年生のときだ。


 子役から大人の俳優へのシフトチェンジは難しいというが、学生服の似合う少年の面影を残し、清潔感のあるイメージを壊すことなく、演技の幅を確実に広げて成長を続けている。『刑事ゆがみ』(フジテレビ系)では、優等生だが腹黒い刑事役を好演し、今回はやけに説得力のある弁護士役に挑んでいる。その期待を裏切らない活躍ぶりには目を見張るものがある。成長していく役を演じることで、作品を通じて彼の成長も見届けているような気持ちになれるのも不思議な感覚である。


 さて、4月28日放送の第2話では、近隣住民が「吹奏楽部の練習音がうるさいせいで体調を崩した、訴える!」と主張していたが、その対処の過程で教師の長時間労働の問題が浮き彫りになり、SNSでもさまざまな意見が飛び交っていた。30分という短い枠ではあるが、見過ごせない濃い内容が詰め込まれていて、軽快に斬り込む神木のドヤ顔が拝めるのは心地よくもある。


 5月5日の第3話は、理科教師の宇野先生(佐藤隆太)が顧問を務めるバドミントン部の練習中に事故が起きてしまい、被害に遭った生徒の保護者が弁護士を雇い学校側の過失を追求することになる。バドミントン部の顧問は産休に入った先生の代わりとしてくじ引きで宇野先生に決まり、非正規の教員である彼は何か問題を抱えているようだ。


 社会に出ると、複雑な人間関係や独特のルールに縛られがちでその煩わしさにも慣れてしまう。しかし、「おかしいことをおかしいままにしておくと、もっとおかしいことになる」と正論をぶつけてくるフレッシュな田口の存在が大切なことを気付かせてくれる。簡単に解決できる問題ではないからこそ、見終わった後に残るものがあり誰かと話したくなる。学園ドラマではあるが、大人が成長していく物語で、そこもまた新しい。やはり神木隆之介からは目が離せない。(池沢奈々見)