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乃木坂46と生駒里奈は新たなステージへ 西廣智一が卒業コンサートに感じたこと

2018年05月04日 19:31  リアルサウンド

リアルサウンド

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 乃木坂46の単独コンサート『乃木坂46 生駒里奈 卒業コンサート』が4月22日、東京・日本武道館で行われた。2016年12月以来となる今回の武道館公演は、今年1月にグループからの卒業を発表した生駒里奈にとって乃木坂46での最後の単独公演。1万2000人の動員に対して応募総数30万という、チケット倍率が30倍近くにおよぶ注目のステージに。これを受けて全国128館の映画館で実施されたライブビューイングには、約6万人を動員する結果となった。


(参考:乃木坂46 生駒里奈がグループに残した“変わり続ける勇気”


 乃木坂46にとっても2018年最初の本格的なステージとなった今回の武道館公演だったが、まず会場に入るとステージの構成が比較的シンプルなものであることに驚かされた。スクリーンこそ至るところに用意されていたものの、これまでのような花道や段差のついたステージセットなどは一切なく、1期生から3期生までの全員が思いきり踊れるようなスペースが用意されていた。実はこのあたりに、生駒ならではのこだわりが表れているのではないかと推測する。


 「Overture」に続いてステージに登場した乃木坂46のメンバーは左右両サイドに陣取り、「乃木坂の詩」のサビをアカペラで歌唱。するとステージ中央後方から生駒がひとり歩き始め、ほかのメンバーと横並びになったところで最後の一節<僕らの詩>を生駒が笑顔で歌い、通常はライブの最後に披露される「乃木坂の詩」からライブをスタートさせた。今回のセットリストには生駒の意見が大きく反映されているそうだが、こういった曲順にも彼女の乃木坂46に対する熱い思いが感じられるようで、早くも胸をグッと締め付けられた。


 紫のペンライトで染め上げられた会場は、続く「おいでシャンプー」でパッと明るくなり、ステージ上も客席も笑顔に包まれる。さらに「太陽ノック」の冒頭では、生駒が「日本武道館、行くぞーっ!」と絶叫する場面も。すると、会場は早くもこの日最初のクライマックスと言える盛り上がりを見せ、場内の熱気が急上昇した。そして、仲間たちと3曲歌い通した生駒は、4曲目に自身唯一のソロ曲「水玉模様」を歌唱。緊張のせいもあってか、若干上ずった歌声だったが、生駒は最後まで堂々と歌いきった。


 最初のMCで生駒が彼女らしい言葉で感謝を述べると、続いてステージには3期生が登場し新曲「トキトキメキメキ」を披露。そこから2期生が「スカウトマン」、1期生が「Against」を次々に披露していく。期生ごとにパフォーマンスする構成は昨年7月の明治神宮野球場での単独ライブを彷彿とさせるが、それぞれの期ごとのカラーが明確に表れたパフォーマンスに、改めて乃木坂46の層の厚さを感じた者も多かったはずだ。特に1期生による「Against」では、冒頭に映像とリンクした生駒のソロダンスもフィーチャーされただけではなく、曲中のパフォーマンスも圧巻と呼べる迫力あるものだった。もともとダンスや表現力に定評のある彼女だが、卒業を前にそのレベルはさらに高みへと達したのではないかと感じさせられた瞬間だった。


 その思いは、続く最新シングル「シンクロニシティ」でも強く実感させられた。生駒を中心に展開されていく優雅で高潔さがにじみ出たパフォーマンスは、シングル20作目にして到達した乃木坂46のひとつのゴールなのかもしれない。それくらい、この曲のパフォーマンスからはメンバー全員から圧倒的なオーラが感じられた。また、曲の後半には選抜メンバー以外のメンバーも加わり、総勢42人による豪華で華麗なパフォーマンスが繰り広げられた。


 さまざまなメンバーが生駒との思い出話に花を咲かせたあとは、生駒にしかできないスペシャルなセットリストを用意。2014年から2015年にかけて兼任で活動したAKB48の楽曲を、乃木坂46の仲間たちと一緒に披露するというものだ。この演出が明かされると、会場からはどよめきの声が沸き起こった。そして生駒は、初めてAKB48チームBのメンバーとしてパフォーマンスした「初日」を、3期生とともに披露。続いて、劇場公演で渡辺麻友と一緒に歌唱していた「てもでもの涙」を、同じ秋田出身の鈴木絢音と歌い、最後は選抜総選挙で14位に選ばれた際の「皆さんにいただいた曲」である「心のプラカード」を2期生とともに歌い踊った。このメンバー選出にも生駒ならではのこだわりや、あとを託すメンバーへの熱い思いが感じられた。


 AKB48楽曲を歌い終えたあとのMCでは、現在休業中の北野日奈子がサプライズ出演。どうしても一緒に生駒を見送りたかったという北野は、「ここからライブに参加します」と告げ観客を大いに喜ばせた。また、「2期生は後輩というよりも戦友」という生駒の言葉に、堀未央奈が「生駒さんが培ったものを、私たちが引き継ぎます」と力強く宣言する場面もあった。


 そういえば、この日のライブでは幕間に、さまざまなスタッフや関係者からの生駒へのメッセージを、スクリーンに映し出す演出も用意。さらに、開演前や終演後にはファンから募った生駒へのメッセージも紹介され、いろんな人の考えるさまざまな生駒里奈像を垣間見ることができたのではないだろうか。


 ライブ後半に突入すると、ステージに3つの椅子が用意され、生駒と生田絵梨花、星野みなみの3人だけが登場する。「生生星(いくいほし)」という愛称で知られるこの3人は、デビューシングル「ぐるぐるカーテン」などでフロントを務めたメンバーであり、彼女たちはリラックスした表情で昔話に花を咲かせる。そして椅子に座ったまま「ここじゃないどこか」を歌唱し、続いて昨年夏のツアーでは3人揃うことが叶わなかった「満月が消えた」を、最初で最後の3人勢揃いでパフォーマンスしてみせた。その後、さらにほかのメンバーも加わり「あらかじめ語られるロマンス」「無口なライオン」と人気のナンバーを連発した。


 ここまでライブを通して観て、先の期生ごとパフォーマンス以外、生駒は常にステージに出ずっぱりであることに気づかされた。この日披露された楽曲は上記の2期生楽曲、3期生楽曲以外、すべて生駒が参加する、彼女にとって思い出深い楽曲ばかり。中には、年に一度のバースデーライブでしか聴けないような楽曲も含まれている。通常の全体ライブではアンダーメンバーによるブロックも用意されるが、今回に関してはそれすらない。ここにも、選抜やアンダーという枠組みを取り払い、「全員で乃木坂46」という生駒の強い思いが感じられるのではないだろうか……そう思ったのは、きっと筆者だけではないはずだ。


 ライブもいよいよ佳境へ。「指望遠鏡」「月の大きさ」といった懐かしいアニメタイアップ曲(前者は『マギ』エンディングテーマ、後者は『NARUTO -ナルト- 疾風伝』オープニングテーマ)を連発したあと、生駒へのサプライズとしてナルト役声優・竹内順子によるナルトからのメッセージと、『NARUTO -ナルト-』の作者・岸本斉史が描いたイラストをプレゼント。これには驚きを隠せない生駒は、「ここで泣くつもりじゃなかったのに~。生きててよかったーっ!」と号泣しながら喜んでみせた。


 気を取り直して「ハウス!」でライブを再開させると、続く「君の名は希望」「悲しみの忘れ方」では生田のピアノ伴奏をバックにメンバー全員で歌唱。この日の「君の名は希望」では曲中に入る観客のコールもなく、“生駒里奈を含む編成での「君の名は希望」”をじっくり聴こう、見ようというファンの思いが伝わってきた。また、「悲しみの忘れ方」歌唱中には、桜井玲香の合図でスクリーンに生駒の父母からのメッセージが映し出され、生駒はこらえきれずに再び号泣した。


 曲を終え、「ズルイよ~、ナルトとお父さんたちはズルイよ~」と苦笑いをする生駒にとって、いよいよ最後の時間が近づく。白石麻衣が「生駒ちゃんの笑顔をたくさん見れるのが一番幸せ。このままの姿で頑張ってください」と語ると、西野七瀬は「生駒ちゃんが乃木坂の顔として7年間走り続けてくれて、生駒ちゃんの背中を見て自分ももっとこうしなきゃとか、乃木坂全体のことを考えるようになった」と感謝の言葉を伝える。堀は何度も泣き崩れそうになりながらも「仕事に対する真っすぐさ、メンバーに対する愛を生駒さんから教わったので、素敵な先輩がいたよということを胸に、乃木坂のメンバーとして頑張っていきたい」と決意を口にし、齋藤飛鳥は「前向きな卒業だとはわかっていたけど、それでも生駒ちゃんが『まだ乃木坂で活動したい』と思えるグループでいられなかったことが悔しかった」と本音を吐露。生田も涙ながらに「生駒ちゃんを見ていると自分の足りないところを知って『もっと頑張らなくちゃ』と思うし、逆に生駒ちゃんから声をかけてもらったときは『なんて良い仲間を持ったんだろう』と心から感じた」と話した。


 メンバーからの思いを受け止めたあと、生駒は「一言で片付けるとしたら、この人たちじゃなかったらここにはいない。団体行動が苦手な人(生駒)が『ぐるぐるカーテン』で、あの頃一緒に頑張ってこれたから、今武道館に立てている。純粋に大好きだし、乃木坂46が今後活躍していくために、私も活躍したいと思う。こんな人生でよかった」と改めて感謝の言葉を口にする。そして、「この曲は私が死ぬまで、私の代名詞になるでしょう。そう言わせてください!」と力強く宣言してから、本編ラストナンバー「制服のマネキン」を全力でパフォーマンス。全力でダンスする生駒のそばには、涙で顔を歪ませた桜井の姿があり、ここまで一切涙を見せなかった彼女がここにきて堪えられなくなったその様に、筆者は涙腺を刺激された。また、この曲の<一歩目を踏み出してみなけりゃ 何も始まらないよ>や<卒業を待ってみたところで 何も変わらないだろう>といったフレーズが今の生駒の決意とリンクしているようにも感じられ、これまで聴いてきた「制服のマネキン」とは違った聴こえ方をしたことも記しておきたい。


 アンコールでは、全員が生駒の顔がプリントされたライブTシャツを着用して、「走れ!Bicycle」「シャキイズム」を披露。「シャキイズム」ではこの日最初で最後のトロッコが用意され、生駒がアリーナを一周する。ここでは、PA席に座るスタッフから労いの言葉がボードを使って伝えられる場面もあり、改めて彼女がメンバーのみならずスタッフからも愛されていたことが伺えた。


 2曲を終えると、再びステージにひとりになった生駒が今の思いと、そしてこれからの決意をファンに伝える。彼女は「人って何かを変えようとするのに、こんなにもパワーが要るんだなと学びました」と口にしたあと、「『卒業できる』ってすごいこと。これからの人生のほうが長いし、(乃木坂46での活動を)たった7年しかやっていないのに、卒業という機会をくれたのは本当にすごいことだと思いました。こんなに素敵なメンバーに送られることはないと思うし、こんなに素敵な人に囲まれての卒業ももうできないと思う」と卒業への思いを語った。さらに、「もっともっと険しい道を進みたい、登りたいと思った。こんなに充実していてすごい場所にいるのに、この世界に夢を持ってしまった。その先に続く夢を掴みたいと思ってしまった。だからこそ、メンバーには自分もいつかそうなったときに胸を張ってひとりで仕事ができるところを見せてあげたい」と本心を語り、「心の底から楽しんでいただけるようなエンターテイナーになりたい」とファンに向けて告げた。


 そして10分近くにもおよぶスピーチを終えると、生田と星野から大きな花束を受け取った生駒が「最後はこの曲を、みんなで楽しく歌って終わりたいと思います!」と呼びかけ、デビューシングル「ぐるぐるカーテン」でライブを盛大に締めくくった。「超楽しかった!」と満面の笑みの生駒は、ステージの端から端まで走り、会場中の観客に向けて深々とお辞儀をしてステージをあとにした。


 しかし、ライブはこのままでは終わらない。秋元康からのコメントに続いてダブルアンコールに現れた生駒は「私は自分のためには頑張れない。何かのためにしか頑張れないです。こんな私を、これからもよろしくお願いします!」と挨拶し、メンバーをステージに呼び入れて再度「君の名は希望」を歌唱。メンバーは用意したバラを1輪ずつ生駒に渡し、ラストではTシャツの背中に用意したメッセージを送る。このサプライズには生駒もこの日何度目かの涙を流したが、最後の最後は「本当に(乃木坂46に)入ってよかった。みんなに出会えてよかった」と満面の笑みで語り、約3時間にわたる卒業公演を終えた。


 生駒らしい乃木坂46への思い、同期メンバーや後輩メンバーへの思いが随所から伝わってきたこの日のステージは、ほかの誰にも真似できない、生駒里奈だからこそなし得たものだった。「こんなに頼もしい後輩ができたんだ」とばかりに2期生や3期生と一緒に舞台に立ち、と同時に初期から苦楽をともにした1期生とは「乃木坂46の生駒里奈」としての完成型を提示する。そこにあったのは「乃木坂46の顔」としてグループを牽引し続けた生駒の姿ではなく、今の勢いにほかのメンバーを乗せようと後ろから支える屋台骨としての生駒の姿だった。しかし、その役目がなくともメンバーは日々進化を続け、どこに出しても恥ずかしくない存在にまで成長した。それがあったから、生駒は自分の将来をしっかり考えることができることになったのではないだろうか。


 22歳という大学生が社会に出る節目のタイミングにグループ卒業を選んだことで、物語としての「生駒里奈 第1章:乃木坂46編」は幕を閉じ、これから第2章に突入する。生駒はこれから外の世界で、新たに見つけた険しい坂を登り続けることだろう。そこでは孤軍奮闘する彼女の姿を目にすることもあれば、かつての同志と交わる瞬間もあるかもしれない。まるで彼女が愛する少年マンガのように、今後もいろんな形で観る者を楽しませてくれるはずだ。


 と同時に、生駒を送り出した乃木坂46も、白石や西野、生田、齋藤といった1期生や、堀を筆頭とする2期生、そして現在選抜メンバーとして活躍する大園桃子、久保史緒里、山下美月、与田祐希を中心とした3期生がグループ活躍の場をさらに拡大することだろう。過去最大のヒットとなりそうな20枚目のシングル『シンクロニシティ』を携えた乃木坂46の新たな物語は、まだ始まったばかり。ここからどんな景色を見せてくれるのか、早くも楽しみでならない。(西廣智一)


■セットリスト
01. 乃木坂の詩
02. おいでシャンプー
03. 太陽ノック
04. 水玉模様
05. トキトキメキメキ
06. スカウトマン
07. Against
08. シンクロニシティ
09. 初日
10. てもでもの涙
11. 心のプラカード
12. ここじゃないどこか
13. 満月が消えた
14. あらかじめ語られるロマンス
15. 無口なライオン
16. 指望遠鏡
17. 月の大きさ
18. ハウス!
19. 君の名は希望
20. 悲しみの忘れ方
21. 制服のマネキン
En1. 走れ!Bicycle
En2. シャキイズム
En3. ぐるぐるカーテン
WEn1. 君の名は希望