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国産ドラマの遺伝子を引き継ぐFODの試み 若者層からの支持がカギに

2018年05月04日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 近年のテレビドラマを巡る状況を考える上で、無視できなくなってきているのがネットで有料配信されている動画配信サービスだ。


 Amazonプライム・ビデオやNetflixでは、世界中のドラマが配信されており、デヴィッド・フィンチャーの『ハウス・オブ・カード 野望の階段』や『マインドハンター』など、世界的な映画監督が次々と参入する現象も起きている。Netflixで配信されていた又吉直樹の小説を原作とする『火花』は「500分の映画」として制作したと公言されていたが、基本的に海外ドラマがやっていることは2時間の映画でやっていたことを、長尺にしたものだと捉えている。


 それも踏まえて思うのは、国産ドラマと海外ドラマは、そもそも消費形態が違う別のジャンルではないかと言うことだ。海外ドラマは設定が細かく作り込まれた作品が多く、人気があるとシーズン2、シーズン3と続き、スケールがどんどん拡大していく。作品によっては収集がつかずに破綻することもあるのだが、先行きがわからないまま続いていく姿は、むしろ少年ジャンプの長編漫画や『機動戦士ガンダム』のような国産アニメを観ている時の感触に近い。


 対して、同じ有料配信メディアでも、『花にけだもの』や『ぼくは麻理のなか』といったFODで制作されている作品は、今の民放地上波では作れなくなってきている国産テレビドラマの遺伝子が生き残っていると感じ、こちらの方が、ドラマを観ているという感触がある。


 その象徴が、『パパ活』や『彼氏をローンで買いました』といった野島伸司が脚本を手がけるドラマだろう。90年代に『101回目のプロポーズ』(フジテレビ系)や『高校教師』(TBS系)といったドラマを手がけてきた野島伸司は、レイプや近親相姦などといった過激なモチーフを持ち込み、作品を作るごとに「タブーを破った」と話題になった。


 当時はゴシップ的な消費が先行していた面もあったものの、大衆の欲望を刺激する野島の作品には荒々しいエネルギーがあり、作り手も視聴者も当時は若かったのだなぁと、感じる。今の地上波のドラマは、映像もテーマも90年代に比べると円熟していて完成度が高まっている。しかし、どこか物足りない。中でも若者向け作品は性や暴力を描くことに対しては逃げ腰のものばかりで優等生的すぎる。


 近年の野島伸司が、配信メディアに主戦場を移しているのは、地上波に比べて表現上の制約がないからだろう。配信ドラマでの野島は水を得た魚のようで、90年代の勢いを取り戻しつつある。


 特に最新作の『彼氏をローンで買いました』は攻めている。本作は、エリートの彼氏と結婚をして専業主婦になりたいという願望を持つ浮島多惠(真野恵里菜)が、(彼氏の前で猫を被っていることの)ストレス発散のために月額39,800円のローンで彼氏(横浜流星)を購入するところから始まるドラマだ。同じFODで配信されていた野島伸司脚本の『パパ活』が、「パパ活」という現代風俗を入り口にして、野島らしい愛憎劇を文学的に描いていたのに対して、本作では人身売買をしているネットの闇サイトで主人公の女性が男を買うのだから、現実の先を行っているとすら言える。


 物語自体もとても暴力的だ。多惠には恋人がいるため、男と肉体関係にはならずに、表向きはドタバタ同棲モノという感じでコミカルに描いているものの、女が男を買ってストレスのはけ口にするという暴力的な力関係を描いていることには変わらない。


 イケメンドラマの『花にけだもの』も男女入れ替わりモノのテイストを用いて暗黒の青春を描いた『ぼくは麻理のなか』もそうだが、FODのドラマに引かれるのは、男女の愛と性に絡む暴力的な力関係から目を離さずにエンターテインメントとして見せようとしているからだ。


 若い男女の関係を描くなら、やはり性欲を描かないと説得力はないし、人間を描くのなら暴力から目をそらしていては綺麗事で終わってしまう。露悪的な現実を視聴者に叩きつける作品が必ずしも良いとは言わないが、今の地上波のテレビドラマを観ていると、そういった人間の暗い面から目をそらしているように見えて、窮屈さを感じる。


 NHKや民放の地上波で放送されているドラマや、大資本の元で制作されている海外ドラマと比べた時、野島伸司に代表される若者の性と暴力を描こうとする国産ドラマの遺伝子を引き継ぐFODの試みは小さなものに見えるかもしれないが、ここにこそ日本の連続ドラマの可能性はあるのではないかと思う。


 おそらく今後の鍵となるのは10代から20代の若者層からの支持を得られるかだろう。しかし、ここは楽観的に捉えている。FODのドラマなどを観ていると地上波の民放各局が回収できなくなっている若者の欲望を一手に受け止めているように見える。それは危なっかしくもあるのだが、いつの時代でも若さとは、そういうものなのだろう。だったらまずは、行けるところまで突っ走るべきだと思う。


参考:『花にけだもの』『彼氏をローンで買いました』清水一幸プロデューサーが語る、配信ドラマ作りの仕掛け


(成馬零一)