2018年05月04日 09:41 弁護士ドットコム
警官から声をかけられた瞬間、頭が真っ白になったーー。台湾男性Gさん(40代)は2016年6月の夕方、都内を歩いていたところ職務質問を受け、オーバーステイ(不法滞在)で逮捕された。在留資格は20年以上前に切れていた。
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なぜ、オーバーステイしていたのか。Gさんは「台湾の親類とは疎遠で、彼と一緒に生きる方を選びました」と説明する。「彼」とは、来日直後に出会い、約25年間生活を共にする日本人男性Xさん(50代)のことだ。
生い立ちや考え方が似ていたことから、出会ってすぐに意気投合した。以来、人目を避けて暮らしてきた。「ずっと二人で生きてきました」と口を揃える。
もしも、二人が「異性カップル」だったら、こんな展開にはならなかったと考えられる。在留資格が切れる前に結婚すれば、日本人の配偶者としてGさんの日本滞在が認められただろう。仮に切れた後でも、結婚していれば「在留特別許可」で滞在が認められることが多い。過去には、「事実婚」で裁判所が在留を認めたケースもあるという。
Gさんは2017年3月、国に対して異性カップル同様、在留特別許可を認め、「退去強制処分」を取り消すべきだとして、東京地裁に提訴した。同種の裁判は初とみられる。「『法の下の平等』に基づき、異性愛者と同じ扱いをして欲しい」。それがGさんの願いだ。
入管法50条では、在留特別許可について、「法務大臣は…在留を特別に許可することができる」としており、許可はあくまで法務大臣の裁量ということになっている。
Gさん側の主張に対し、国側はこの「裁量」を強調。さらに結婚している異性カップルであっても、在留特別許可が認められないことがあることなどから、同性カップルの保護の必要性はより低いと主張している。
これまで開かれた弁論は5回。提訴後、1年が経過したが、未だに書面のやり取りやスケジュールの確認など、毎回5分程度で閉廷となる。にもかかわらず、傍聴に訪れる支援者は増えている。支援者たちは、カンパやクラウドファウンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/74226)を通じて、二人の生活や弁護士費用も援助しようとしている。
というのも、Gさんは現在、仮放免中で仕事はできない。Xさんも数年前に抑うつ状態になり、今も仕事の時間を制限している。結果として、生活を切り詰めざるを得ない。
「元々、出頭して在留特別許可の申請をしようと、2013年頃から弁護士と話していました。ただ、審査の間は働けなくなるので、生活のために何百万も蓄えが必要だと言われて…。数年間かけて貯金する計画でいたんですが、途中で逮捕されてしまいました。
提訴以来、たくさんの人が支えてくれることは嬉しいし、感謝しています。先が見えない不安もありますが、自分の裁判を通して、日本に同性婚の仕組みがないことで、同性カップルがどんな現状に置かれ、困っているかを知ってもらえたらと思っています」(Gさん)
「台湾に絶望して日本に来たけど、まさか逆転するとは思わなかった」。取材の最後、Gさんはポツリとこぼした。
故郷には苦い思い出がある。10代の頃、徴兵制度で軍隊に入ったが、「同性愛」を理由に除隊命令を受けた。家族からは「同性愛を治せ」と言われ、自殺未遂も繰り返した。そうして辿り着いたのが日本だった。
しかし、台湾では昨年、2019年5月までに同性婚が法制化されることが決まった。台北で毎年秋に開かれるLGBTプライド(パレード)も約8万人を動員する大イベントに成長している。
Gさんはこのゴールデンウィーク中、入国管理局の許可をとり、「東京レインボープライド2018」にも参加する。これからもXさんと、日本で暮らしていくためーー。
「25年間日本で喜怒哀楽を共にしたパートナーは私の唯一の『家族』です。同性カップルにも法的な権利、保障を与えてほしい」。Gさんは強く思っている。
(弁護士ドットコムニュース)