急逝した山田健二エンジニアが手塩に掛けて育て、将来を期待していたドライバーのひとりである大嶋和也。愛弟子でもある大嶋が、山田健二エンジニア亡きあとの最初のレースで予選2番手を獲得した。エンジニアを田中耕太郎氏が引き継ぎ、新体制で迎えたWAKO'S 4CR LC500のスーパーGT第2戦富士。大嶋はどのような心境でセッションに臨み、予選日を戦ったのか。
「予選は合わせきれない部分があったといえばありましたが、初めてこの体制で戦うレースとしては充分すぎる結果だったんじゃないかなと思っています。38号車(ZENT CERUMO LC500)にはうまくスリップを使われてしまいましたし、僕もセクター3で失敗してしまった部分があるので、完璧なアタックができていれば、あとコンマ2秒は詰めれてポールは行けたと思います。でも、なかなか今回の状況で完璧なアタックをするというのも難しいですからね」
まずは冷静に予選を振り返る大嶋。大嶋がアタックを担当したWAKO'S 4CR LC500は開幕戦で4位に入っており、16kgのウエイトハンデを搭載していた。ZENTよりも10kg重い状態でのコンマ1秒差の予選2番手は、実質、ポールポジションと同等以上のパフォーマンスと言える。
「1回目のアタックと2回目ではセットアップは少し変えています。ちょっとオーバー気味だったので、アンダー方向にしてもらいました。コンディション的にもアンダー方向に行くので、そのあたりの判断も難しかったです」
今回から山田健二エンジニアに代わり、田中耕太郎エンジニアがチームに加入したWAKO'S。田中エンジニアとの作業はどんな感触だったのか。
「耕太郎さんとはスーパーフォーミュラのルーキーテストで一緒に仕事させてもらったことがありますが、レースでは初めてです。今回は(山田)健二さんと進めてきたデータがあったので、それをベースに進めてもらいましたが、耕太郎さんとも全然、違和感なく進められています」
「30分の練習走行も雨上がりで路面コンディションが良くないので、とにかく分からないという状況でした。オーバーが強い状況でしたけど、どこまで直していいものかわからなかった。でもそのあたり、(田中)耕太郎さんも経験が豊富なので、慌てることなく対応することができて、あのポジションで走ることができました」
田中エンジニアも、「健二が作ったセットアップのベースから、いろいろ手を加えたけど、今日はドライバーが速かった」と、大嶋のパフォーマンスを評価。突然の加入で田中エンジニアもまだまだチームに馴染めていないようだが、初めてのコンビがいきなり好結果を出した。
「僕としても初めて一緒になるエンジニアさんから信頼を得られるよう、最初の仕事は大事だと思いますし、それはエンジニアさんも同じ。今日はお互い、いい仕事ができたと思っています」と、納得の大嶋。当然、ここまでの道のりにはさまざまな感情が大嶋の頭を駆け巡ったことはが察せられる。この予選2番手という結果を得て、大嶋が背負ってきた重荷は少しは軽くすることができたのだろうか。
「多少、そうですね。それでもやっぱり、少しでも気を抜くといろいろ考えちゃうし、今日は走る前も今までにないくらい緊張していた。今回、僕が良い結果を出すことを臨んでくれている人たちが多いのも自覚していますし、僕としても健二さんのためにも結果を残さなきゃいけないというプレッシャーをすごくかけていたので、その分、走行前は辛かったです。それでも、走っている時は集中できました」
今回、特別な状況のなかで、特別に大きな期待が掛けられてる大嶋和也とWAKO'S 4CR LC500。山田健二エンジニアの愛弟子は、プロドライバーとして新たな独り立ちの時を迎えている。
「明日は勝てる位置にいると思いますし、予選一発は38号車に負けましたけど、決勝になれば多少のウエイト差は関係ないですし、決勝はこっちの方が速いんじゃないかなという予想もしています。少しのスピード差では簡単には抜けないとは思いますけど、とにかく勝ちたいです。後ろにミシュランがいるのでちょっと怖いですけど(苦笑)、前だけ向いて頑張りたいと思います」