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『シブヤノオト』チーフプロデューサーが語る、局の垣根を越えて『ANN』とコラボする意義

2018年05月03日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 本日5月3日深夜に、NHKの音楽番組『シブヤノオト』が、ラジオ番組『岡村隆史のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)とタッグを組んだコラボSPを同時生放送する。『シブヤノオト』は、“音楽がもっと楽しくなる”をコンセプトに、アーティストの素顔や音楽制作の裏側など、最新の音楽と情報を、文化の発信地である東京・渋谷から伝えていく音楽番組。これから話題になる若手アーティストから国民的人気アーティストまで幅広くラインナップすることで、若い世代を中心に話題を集めている。


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 今回リアルサウンドでは、注目すべき音楽番組に焦点をあてていく連載『テレビが伝える音楽』の第六回として、『シブヤノオト』でチーフプロデューサーを務める大塚信広氏にインタビュー。番組立ち上げの経緯や、アーティストをブッキングする際に意識していること、そして今回の局の垣根を越えたコラボレーションの意義などをじっくりと語ってもらった。(編集部)


■「SNSでの発信も音楽番組の楽しみ方の一つ」
――まずは音楽番組『シブヤノオト』が制作されるまでの経緯を教えてください。


大塚信広(以下、大塚):音楽番組の新たな楽しみ方を特に若い世代の人たちに提示するような番組を作ろうとなって、制作チームとしては音楽、そして若い人たちと親和性の高いデジタルツールを取り入れて番組制作しようと考えました。そこで立ち上がったのが『シブヤノオト』です。『シブヤノオト』が始まった当初は生放送だったので、渡辺直美さんにはライブストリーミングの司会としてご参加いただいていました。ライブストリーミングは、テレビ生放送と同時進行で、パフォーマンス後のアーティストの様子などをインターネットを通じて配信するというものです。


――デジタル面で言うと、『シブヤノオト』はTwitterやLINEも盛んに活用していますよね。生放送されていた時に、視聴者の声がリアルタイムでテロップに表示されるのも印象的でした。なぜデジタル面にフォーカスを当てようと思ったのでしょうか?


大塚:今後、時代的にデジタル面を取り入れていく必要性があるというのが一つです。ロイヤルカスタマーの皆さんが見たいと思う番組作りはもちろんなのですが、今NHK全体として、若年層にどうしたら見ていただけるかという課題があります。そういった面でもデジタルは重要になってくるんじゃないかなと。単純に「NHKで音楽番組『シブヤノオト』をやってます!」だけだと、とっかかりにくいというか……。TwitterやLINEを使って告知することで、若い層が親しみやすくなり、普段NHKを見ない方たちにも広げていけるため、SNSを利用しはじめました。


――番組放送時にはTwitter上で関連のツイートをよく目にします。SNSを活用したことにより、今までと違った反響や影響もあったのではないでしょうか?


大塚:番組のアカウントで発信したものに対して、反応がリアルタイムで目に見えるので、どういうことをやると興味を持っていただけるのかがわかりやすくなりました。番組でアカウントを持っていないと、良し悪しの基準が視聴率というテレビの指針だけで計られてしまうことがほとんどなので……。また音楽番組は、見ながらSNS上に感想をつぶやく視聴者が比較的多い印象です。SNSでの発信も音楽番組の楽しみ方の一つになっているように感じます。


ーーほかにも若い世代に届けるために何か取り組んでいることはありますか?


大塚:局内で“『シブヤノオト』をどうやって若い人たちに届けるか”というプロジェクトがあり、その一環として大学生の皆さんにグループインタビューを行っています。毎回放送後に、「どうでしたか?」「どこで飽きましたか?」などと番組の感想を尋ねているんですよ。NHKはCMがないので、切り替わり方やテンポ感も気になるところで、チャンネルを変えたくなったポイントや普段聞けない他局のことなどもフラットに話していただいています。また番組の内容以外でも、今流行っている音楽や、テレビを見る時のSNSの使い方など、彼らの言葉を参考にして取り入れている部分もありますね。


――番組内の企画においても若い世代を飽きさせない工夫が凝らされているように感じます。たとえば、トークコーナーやライブパフォーマンスのほかに、大喜利やレコメシなどのコーナーも設けられていますよね。ほかの音楽番組にはない『シブヤノオト』ならではの企画はどうやって生み出されているのでしょうか?


大塚:今年の4月からリニューアルしたことで、生放送ではなくなり、前以上に企画がやりやすくなりました。編集番組になったので、様々な企画をやってみようという方針がより強くなり、今までは出演していただくアーテイストに合わせた企画をやっていたのですが、リニューアル後は企画を前面に押し出した番組作りをしています。「『シブヤノオト』って“レコメシ”という食事の企画がある音楽番組だよね」などと言ってもらえるようになるのが理想ですね。


――ではアーティストをブッキングする上で意識しているポイントはありますか?
大塚:まだ早いんじゃないかと思われるような若手アーティストにも積極的にオファーしています。


――確かに、2016年4月24日の放送回に出演したとけた電球や2017年10月21日の放送回に出演したCHAIもそうでしたね。そういった若手アーティストはどうやって選んでいるのでしょうか?


大塚:大抵の場合『シブヤノオト』の番組チームが、それぞれ足を運んだライブで、よかったと思ったアーティストの名前をまず挙げていきます。その上で知名度や認知度を加味して選んでいくという感じです。もちろん全く知られていなくても素晴らしいアーティストはたくさんいるのですが、「このアーティスト詳しくは知らないけど、名前は聞いたことある!」くらいのラインだとSNSでも話題になりやすく、より多くの方々に届きやすいので、その辺りを探っています。


――企画や出演アーティスト以外にも、徳井義実(チュートリアル)さんと渡辺直美さんのMCが印象的です。音楽に対するコメントと笑いの塩梅が絶妙で、アーティストとの距離感も近すぎず、視聴者目線で番組を進行しているように感じます。


大塚:近すぎると視聴者をほったらかして内輪になってしまうので、司会のお二人はすごく意識されているようです。またNHKの音楽番組という点も考えてくださっているのかなと。あと意外にお二人とも人見知りなので、自ずとあの距離感が生まれている部分もありますね(笑)。


■「音楽自体が廃れてるとは思っていない」
――若手アーティストが出演している一方で、『シブヤノオト』には誰もが知る人気アーティストや今話題のアーティストも名を連ねていますよね。


大塚:やはり出演者のバランスは考えていますね。『シブヤノオト』は、次来るアーティストを紹介するということを一つのコンセプトにしています。そのため、このアーティストを好きな人は、この若手アーティストも気に入ってくれるんじゃないかという思いでブッキングしています。人気アーティスト目当てで見た視聴者が、「あれ? この若手アーティストもいいじゃん」って思えるような組み方といいますか。イメージ的には、YouTubeに出て来る“あなたへのおすすめ”動画のような感じですね。僕たちが若手アーティストを知ってもらうきっかけを作って、視聴者に興味を持ってもらい、そのアーティストを探っていくことで、また新しいアーティストに繋げていくるという連鎖を作りたいです。


――地盤は固めつつ、常に新しさも取り入れているのですね。5月3日深夜に同時生放送される『岡村隆史のオールナイトニッポン』とのコラボSPも斬新なアイデアですよね。局の垣根を越えるだけでなくテレビとラジオがコラボして一つの番組を作るのが、面白いなと感じました。今回どういう経緯でコラボすることになったのでしょうか?


大塚:オールナイトニッポンもシブヤノオトも「若い人たちを中心に多くの人たちに音楽を届けること」をコンセプトにしているので。それと『オールナイトニッポン』が今年放送50周年を迎えたタイミングで、『シブヤノオト』もリニューアルしたので、この機会にタッグを組むことになりました。


――大塚さんが思う、局の垣根を越えて生放送する意義や今回のコラボSPの制作意図を教えてください。


大塚:意義という点では、やはり『シブヤノオト』という番組をより多くの若い方に見ていただくチャンスを作れたことですね。『シブヤノオト』は知らないんだけど『オールナイトニッポン』を知っている方はたくさんいらっしゃると思うので、僕らとしては『オールナイトニッポン』のブランド力にとても期待しています。今回をきっかけに『シブヤノオト』を知っていただけたら嬉しいです。逆に『オールナイトニッポン』は、ラジオをテレビで流すこと自体がメリットなのかなと。普段あまり見られない光景なので。先日『オールナイトニッポン』の岡村(隆史)さんの生放送にお邪魔したのですが、岡村さんの動きがすごく面白かったんですよ。でもラジオだと当然ですけど見れない。だからそういう姿やディレクターとのアイコンタクトの仕方など、ラジオならではの風景をテレビで映し出せたらなと思っています。


――なぜ編集番組ではなくリスクが高い生放送という形をとったのでしょうか?


大塚:パーソナリティーの岡村さん、MCの徳井さん、直美さん、この3人で一番面白いのは何かと考えたときに、やっぱり生放送かなと。生放送だから生まれる緊張感やグルーヴをこの3人だったら、すごく素敵に料理していただけるのではないかなと思いました。『シブヤノオト』は通常土曜日の深夜に放送しているのですが、コラボSPということで、今回は岡村さんの『オールナイトニッポン』の放送時間で生放送することにしました。


――ラジオとコラボという初めての試みで同時生放送をするのは、すごく思い切った挑戦ですよね。


大塚:そうなんですよ。だから内容が全然決まらなくて……(笑)。僕らも『オールナイトニッポン』のみなさんも「やるからにはいいものを作りたい」と思っているからこそ、コラボすることでしかできない面白さは何なのかということをずっと考えていて、アーティストも含めて決定するまでにすごく時間がかかりました。


――最後になりますが、CD全盛期に比べて番組数が減少する中、『シブヤノオト』含め、それぞれ趣向を凝らした番組づくりが行われている印象です。大塚さんは現在の音楽番組のあり方をどう考えていますか?


大塚:視聴率やSNSでの接触数など数字で表される問題と中身という面で、どこも同じ悩みを抱えていると思います。その2つが上手くリンクすれば一番いいのですが、なかなか難しいのが現状です。たとえば、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)は長い年月、同じ場所で生放送をされていて、番組自体にブランド力があります。だからこそ、そこで発信することにすごく大きな意味があって、日本の音楽業界にいい影響を与えていると思うんです。だけど『ミュージックステーション』を模倣してやっている番組って実はないんですよ。おそらくそれは、ほかの番組の制作者が同じことをしても仕方ないと思っていて、それぞれの個性を各番組で作り出しているからだと思います。僕らもまた同じで、『シブヤノオト』を通して音楽業界自体が少しでも盛り上がってくれたらなと。僕はあくまで音楽を楽しむ形態が変わっただけで、音楽自体が廃れてるとは思っていません。音楽が若い子たちに聴かれてないわけではないので、僕たちがそこにどうやって届けるかのを考えていくことが大切なんじゃないかなと。その一つの答えとして『シブヤノオト』はデジタルという要素に着目しています。(取材・文・写真=戸塚安友奈)