2018年05月03日 11:02 弁護士ドットコム
何か月も前に予約して、職場でも「この日からこの日までは休みます」と言って承諾を得ていたのに、直前になって上司から「悪いけど休まずに出勤して」と言われた方はいませんか。こうした「最悪の指示」に対して、何か法的な請求をすることはできるのでしょうか。
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弁護士ドットコムの法律相談コーナーにも同様の声がありました。相談者は、有給休暇を使って海外旅行に行こうと思い、旅行会社に申し込んで代金を支払ったのに、その後に会社から仕事の都合で休暇を延期するようにと伝えられたそうです。
休暇を取る許可は上司から口頭でもらい、変更指示は1週間後にあったそうです。こうした場合にキャンセル料を請求することはできるのでしょうか。また、上司の「最悪の指示」により、恋人に愛想をつかされ、破局に至った場合、慰謝料を求めることはできるのでしょうか。大山弘通弁護士に聞きました。
ーー労働者は有給休暇を自由に取得できるはずですよね
「キャンセル料を請求したり、慰謝料を請求したりするのは難しいので、きっちり予定どおりに有給休暇を取得して休むべきです。ただ、休むにあたっては、勝手な欠勤と言われないように事前に意思表明するなどしておく必要があります。
労働者は、自分の都合で自由に年次有給休暇を取得できます(労働基準法39条5項)。ただ、この労働者の年次有給休暇の取得の申請に対して、会社がこの時期は休まれては困るとして、他の日に年次有給休暇を取得するよう時季変更権を行使する場合があります。
しかし、時季変更権が正当化されるのは、『事業の正常な運営が妨げられる場合』(労働基準法39条5項)であり、当該労働者が業務の運営に不可欠であり、かつ、代替要員を確保するのが困難な場合に限られます」
ーー時季変更権は簡単に持ち出されるものなのでしょうか
「相談者の方の会社の状況が不明ですが、単にその時期は忙しいからとか、休まれては困るという程度では、時季変更権は正当化できません。相談者の方が余人をもって代え難い技能をもっていて、しかも年次有給取得を予定している時期にその技能が不可欠であって、他にそのような技能をもった労働者を確保することが困難といった事情が必要です。
時季変更権が認められない場合、相談者の方としては、年次有給休暇の取得の申請が有効であったことになるので、予定どおりに年次有給休暇を取得して休むことができます。休むことができるのですから、損害賠償を請求するという話にはなりません」
ーーそれだと、上司が「あいつは勝手に休んだ」と問題視してくるのではないでしょうか
「はい。相談者の方が予定どおり年次有給休暇を取得しただけなのに、上司は相談者の方が勝手に休んだと言うかもしれません。そこで、年次有給休暇を取得するにあたって、文書で一連の経過を明確にしましょう。
まず、事前に口頭で申請をしたことを記載し、上司の指示が違法であることを指摘し、したがって予定どおり年次有給休暇を取得することを記載し、きちんと意思表明しましょう。ここまでしても、相談者の方が何らかの不利益を受けた場合には、そのような不利益は違法として声をあげましょう」
ーーキャンセル料の請求や破局時の慰謝料請求についてはいかがですか
「上司の圧力に負けて年次有給休暇をとれずキャンセル料が発生した場合、労働者が損害賠償できるかは、違法な時季変更権の行使によってどれだけ相談者の方が損害を受けるのかを上司がどの程度認識していたかにより、決まります。
相談者の方が事情をきちんと説明していたにもかかわらず、上司が違法な時季変更権を強行した場合には、キャンセル料の一部くらいは認められるかもしれません。
ただ、破局の場合の慰謝料の請求は難しいです。恋愛は、相談者の方と相手の方との人格的な交流であり、破局の原因はいくらでも考えられ、上司のせいと言いたいのは分かりますが、破局を上司の行為に帰責し難いからです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大山 弘通(おおやま・ひろみつ)弁護士
労働者側の労働事件を特に重点的に取り扱っている。労働組合を通じての依頼も、個人からの相談も多い。労働事件は、早期の処理が大事であり、早い段階からの相談が特に望まれる。大阪労働者弁護団に所属。
事務所名:大山・中島法律事務所
事務所URL:http://on-law.jp/