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『ママレード・ボーイ』で新たな飛躍へ “岡山の奇跡”桜井日奈子、2018年は挑戦の年に?

2018年05月03日 10:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 近年量産されてきた少女漫画原作映画のひとつのターニングポイントとなることだろう。これまで『ストロボ・エッジ』や『オオカミ少女と黒王子』の実写版監督を務めてきた廣木隆一がメガホンをとり、満を持して映画化された『ママレード・ボーイ』。90年代の少女漫画ブームを牽引した『りぼん』(集英社)でとくに人気の高い“名作”であり、過去にはアニメ化や台湾ドラマ化がされてきた作品だ。


参考:桜井日奈子と吉沢亮がキス寸前!【動画】


 ここ数年の少女漫画原作映画、いわゆる“キラキラ映画”の潮流では、原作の世界観や雰囲気をできるだけ崩さないように必要最低限のエピソードを組み合わせて構成し、映画としての帰結点を作り出すことが多い。しかし本作では原作と同じオープニング、同じエンディングを据えた上で、既存のストーリーラインに徹する。登場人物とエピソードの抽出を重ねていくだけで、映画独自の“色”となるものは作品全体のテイストによって作り出していく。


 両親の離婚と再婚、親友と担任教師との禁断の恋、そして主人公の恋に待ち受けている衝撃的な秘密という、比較的ヘビーな題材が描かれる本作にとって、原作にあったコミカルなトーンは緩衝材としての役割を充分すぎるほど果たしていた。しかし、映画となった本作があえてシリアスな調子へと振り切ってしまったのは、すでに主人公たちの親世代になろうとしている原作リアルタイム世代をも視野に入れ、従来の完全にティーン向けの“キラキラ映画”と差異化を図ろうというねらいがあるのではないだろうか。


 ところで、そんな“脱キラキラ映画”を感じさせる本作であってもキャスティングの部分では“キラキラ映画”らしさが全開。『カノジョは嘘を愛しすぎてる』や『アオハライド』、『オオカミ少女と黒王子』でサイドのキャラクターを演じてきた吉沢亮がついにメインに昇格を果たし、ヒロインには“岡山の奇跡”という鳴り物入りで注目を集めた桜井日奈子。桜井にとっては初の映画主演で、初の“キラキラ映画”ということになる。


 デビュー時の注目度とは裏腹に、ドラマや映画に引っ張りだこという印象がない桜井。それはおそらく、まだ彼女の持つキャラクターの確実な方向性が定まっていないからではないだろうか。筆者は以前、彼女の女優としてのポテンシャルについて「フォトジェニック」「剽軽さ」「体育会系」「ミステリアス」の4パターンを挙げた。(参考:http://realsound.jp/movie/2016/11/post-3266.html)。いずれも彼女がCMなどで見せてきた表情から読み取れたものである。


 そんな彼女が本作で演じる小石川光希という役柄は、少女漫画ヒロインの正統中の正統で、毅然とした“明”の存在。もちろん「フォトジェニック」さひとつで充分すぎるほど役を全うできることは間違いないが、それだけでは今ひとつ弾けきれていない。それは前述したように原作が持つ、つまり本来の光希というキャラクターが持つコメディエンヌ的な要素がかなり押さえ込まれてしまったからではないだろうか。


 序盤の会食シーンでの泣きの演技が一瞬で止まる部分であったり、吉沢演じる松浦遊に翻弄される姿、終盤の旅先ではしゃいでいる姿など、全体的にシリアスな世界だからこそ、彼女の演技も抑制されてしまう。本来であれば桜井日奈子という女優の魅力は、ラブコメ要素の強い“キラキラ映画”でこそ最大限に引き出されていくにちがいない。


 そういった点を踏まえると、今回はひとつのステップとして考え、同じように少女漫画原作映画で秋に公開される『ういらぶ。』への期待が急上昇する。同作で彼女が演じる優羽というキャラクターは、幼なじみたちに過保護に守られながら、片想い相手から言われつづけてきた暴言で自分に自信を失くした超ネガティブヒロインという完全なコメディーリリーフだ。


 バラエティー番組などで見せる素に近い彼女の放つ空気感は、人見知りで感情の浮き沈みが激しいというユニークなもので、まさに優羽というキャラクターがハマる。まだどのような色にも染まりうる若手女優でありながらも、ナチュラルな演技でコメディーを掌握することができるのであれば、“奇跡”というネーミングに違わない唯一無二の強みとなりうることだろう。(久保田和馬)