2018年にWEC世界耐久選手権とDTMドイツツーリングカー選手権にワークス体制で参戦するBMWが、開幕戦を間近に控えミュンヘンの本社敷地内にあるBMWヴェルトで、車両とドライバーの発表を行った。このなかで一般ファンへのお披露目の前に、招待記者らと別室でBMWモータースポーツ代表のイェンス・マルカルトとの質疑応答が行われ、開幕戦を控えたWECとDTMのいまの状況と、今後の展望が語られた。
──間もなくWECの開幕戦を迎えるが、今の心境は。
イェンス・マルカルト(以下JM):ほぼ同じマシンをすでに北米IMSAで走らせているとはいえ、長い開発期間を経てやっとWEC開幕戦スパ・フランコルシャンで、M8 GTEのヨーロッパにおける正式なデビューを迎えられることを非常に喜ばしく思う。4月に行われたプロローグでは手放しで喜べる状態ではなかったし、性能調整に関してはIMSAとWECでは異なった値なので、いまの状態では実戦でM8がどんな風に立ち回るのか、予想が難しい状態だ。まだ走る前ではあるが、書類上で見る限り、とても厳しいレースになるのではないかと考えている。
──一方、DTMに向けては。
JM:DTMも毎年のことながら、事前のテストでデータ上では解析できても、実際にレースで走るのとは違うので、ふたを開けてみないことには分からない。実質的なマシンのポテンシャルを判断し理解できるのは、土曜日の予選が終わった後だろう。しかし、BMWモータースポーツでは十分な準備を整えて開幕戦に臨むので、大きな心配はしていない。
──今季のDTMマシンはエアロダイナミクスが削減されたが、それについての見解は?
JM:昨年モデルよりも30%削減されたエアロダイナミクスになったことで、ドライビングが難しくなった分、ドライバーの力量が試され個々のスタイルが活かされるのを楽しみにしている。今まではまわりにいるエンジニアの頭脳戦とでも言おうか、彼らの細かなバックアップもドライバーの力に関わっていたのだが、今年はエアロが少ない分、タイヤの消耗もかなり激しいので、ドライバー自らがさらにレースを作っていく必要が出る。パフォーマンスバラストを廃止したDTMでは、よりアクション満載な接戦になると私自身も楽しみにしている。
──BMWのDTM活動に対する2019年、そして2020年への展望は?
JM:2019年はクラス1に向けて、アウディとともに2メーカーでDTMを展開する過渡期となり、2020年に“クラス1”として正式にスタートする予定だ。新しいDTMの焦点は2020年に見据えており、メルセデスが抜け、さらなる参入メーカーやチームの交渉となる19年は過渡期と捉えている。アウディのディーター・ガス代表とITRとで、協力して乗り切る準備と覚悟はできている。
日本メーカーとのクラス1についての話し合いも大筋ですでに合意をしており、あとは詳細を詰めていく段階にあるが、スーパーGTの持つスピリットは我々DTMサイドと合致しており、たがいに2020年に向けて士気を高めている。今までの道のりは非常に厳しく、大変だったが、日本とドイツのメーカーだけが、この山を乗り越えられたことは非常に誇りに思う。現にクラス1に同意し、ここまでやってこられたのは日本とドイツだけで、IMSAもWTCC(現WTCR)もここまで到達できなかったのだから、両国の本気度が分かってもらえると思う。
──ITR代表のゲルハルド・ベルガーがDTMにプライベートチームの参戦を歓迎すると語っているが、その件に関してBMW側の対応は。
JM:もしそのようなチームが現れたら非常に嬉しく思うし、BMWとしても大歓迎する。すでにBMWではDTMのカスタマーサービスとして、プライベートチームが希望した場合はM4 DTMでDTMに参戦できる体制を作れるように、サポートエンジニアの配属等、テクニカルサポートを供給できるようにカスタマープログラムの準備を開始している。
──では将来的にシュニッツァーのDTM復帰の可能性はあるのか?
JM:DTMでは昨年から現在の2チーム3台体制でワークスチームとして活動をしており、ワークスカーの台数やチームの数を増やす予定はしていない。それ以外はプライベーターとして全額自費参戦で、我々がテクニカルサポートをするカスタマー体制にするので、セミワークス体制や隠れワークス的な存在のチームをつくることはまったく考えていない。
──DTMにはヨーロピアンF3からジョエル・エリクソンが、そしてGT3からフィリップ・エングがルーキーとしてステップアップするが、彼らに期待することは?
マルカルト:エリクソンはいかにも北欧人らしく、おおらかでオープンな性格の持ち主で、昨年のF3はシリーズ2位で終える好成績を残し、DTMのテスト/リザーブドライバーも任せていた。オーストリア人のフィリップはフォーミュラBMWを経てF3やF2で活躍した後、ポルシェ・カレラカップやスーパーカップでタイトルを総なめにし、BMWでGTドライバーとして活躍していた。特に彼らには何も心配はしていない。しかし、2012年のDTMカムバック以降、BMWの歴代ルーキードライバーは必ずルーキー・オブ・ザ・イヤーを獲るほどの実力派ぞろいだったので、このふたりにも頑張って欲しいね。昨年はアウディでルーキーだったレネ・ラストがタイトルを獲得して話題をさらった。実力次第でラストのように、ルーキーでもチャンピオンを狙うことだってできるということを彼は証明したからね。