2018年05月02日 11:02 弁護士ドットコム
私が死んだら、財産が妻のものになってしまうのが耐えられませんーー。ある男性が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーにそんな相談を寄せました。
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妻との性格の不一致が理由で、男性は2年前、家を出ました。「妻は別居や他の女性と交際することは認めている」そうですが、離婚に応じないのだと言います。男性は「それ(財産)が目的で離婚に応じないのではないかとも考えてしまいます。二人の子どもには財産を残してやりたいです」と話します。
さらに男性は、勝手に出て行った側なので「裁判をしても離婚が認められるのは難しそう」と考えています。そこで「死後、妻に財産がいかないようにする方法はあるのでしょうか」と、質問しました。そのような方法はあるのでしょうか。増田 勝洋弁護士に聞きました。
「一般的に、遺産を分割する際には、法定相続人が法定相続分に応じて遺産分割をします。ですが、今回の相談者が希望するように、被相続人(亡くなった人)が『妻には相続させたくない』などと遺言書を残した場合でも、妻には法律上、最低限の取り分(遺留分)という権利が認められています」
遺言よりも、遺留分が優先されてしまうのでしょうか。
「遺留分は、遺言よりも優先されます。今回の事例で言えば、妻に相続させない内容の遺言通りに相続されたとしても、遺産の4分の1については、妻が遺産を譲り受けた者に対し、自分に渡すよう請求することができます」
生前に子ども2人に贈与していた場合は、妻に相続する財産は減るのでしょうか。
「被相続人が、子どもあるいは血縁のない第三者に、財産を生前に贈与することもできます。ただ、それらの財産は相談者の死後、いわゆる『特別受益』として遺産に持ち戻される可能性があります」
特別受益というのは、どういうものでしょうか。
「生前に被相続人から特別に得た利益のことをいいます。遺産分割をする法定相続人のなかで、特別受益を受けた相続人がいた場合、法定相続分通りに計算すると不公平になってしまいます。そこで特別受益に該当すれば、すでに遺産相続されたものとして計算すべきとされています。
そのため、この場合もまた、妻が相続する財産を減らすということは難しいでしょう」
増田弁護士は、相談者が希望しているような、全財産を誰かに生前贈与することは「現実的ではない」とも指摘する。
「そもそも、ご自分が今後生きていくうえである程度の資産は残しておかなければならないと思います。
相談者にできる対応とは、今から少しずつ、ご自分やお子様のためになるようなお金の使い方をしていき、残りの財産については、妻に遺留分にあたる財産が渡ることを想定して、遺言を作成することかと思われます。
ただし、最近は、相手が同意しない場合でも、別居期間が長くなれば、裁判上も離婚が認められやすくなってきています。将来的には離婚の道も十分残されていると思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
増田 勝洋(ますだ・かつひろ)弁護士
大阪弁護士会、司法委員会、司法修習委員会委員 著書:『事例にみる遺言の効力』(共著、執筆担当)
事務所名:増田法律事務所
事務所URL:http://www.masuda-law.net/