トップへ

“可愛い”&“未完成型”の日本アイドルはアジアで成功する? AKB48グループの戦略から考える

2018年05月01日 14:51  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 AKB48グループの「国際化」が最近スピードを上げている。すでにアジア各国で姉妹グループが誕生していたが、2018年のAKB48の国民的行事ともいえる総選挙は、この海外の姉妹グループのメンバーも本格的に参戦させる「世界選抜総選挙」になる。AKB48グループは、JKT48(インドネシアのジャカルタ)、BNK48(タイのバンコク)、TPE48(台湾の台北)で活躍している。今年はインドのムンバイ(MUN48)でもデビューが決まっている。


参考:仮想通貨のバブルと崩壊はなぜ生じるのか? 田中秀臣がアイドル市場と比較して解説


 韓国のアイドル市場でもAKB48グループは野心的な試みをしている。韓国の主要企業のひとつであるCJ E&Mコーポレーションによって運営されている韓国の音楽専門チャンネルに「Mnet」がある。CJ E&Mは、世界に向けて韓流文化(エンタメ、食文化)を積極的に輸出する企業のひとつとして著名だ。このMnetの人気アイドルオーディション番組『PRODUCE 101』とAKB48のコラボ企画といえるPRODUCE48が誕生する。AKB48同様に秋元康がプロデュースを行うこの日韓共同プロジェクトPRODUCE48は、今年の6月から放送がスタート。デビューグループの中にはAKB48グループのメンバーも含まれるとの情報もある。こう書くと日本のアイドルたちがアジアの国際市場を圧している感じをもたれるかもしれないが、実情はいささか異なる。


 アジア全域の女性アイドル市場をみると、韓国のほぼひとり勝ちとその影響が支配的である。その中で日本型のアイドルの特徴である「可愛い」&「未完成型」のコンセプトは、独自のコンテンツとして人気を持つものの全体的にはマイナーな存在だ。韓国型アイドルは男女とも「完成型」で「かっこいい」を特徴にして、その切れのあるダンスと高度な歌唱力との組み合わせで、アジアだけでなく北米・南米市場で大ブレイクを起こしている。しかもその人気は草の根的ですそ野が広い。


 要するに、世界のアイドル市場では、日本のアイドル戦略は韓国のアイドル戦略の前に完敗している。もちろん日本のアイドルでも国際的に知名度の高いグループや個人はいるが、全体的にみれば、日韓対決はストレート負けの様相である。これはコンテンツの魅力が乏しいのではない。結果として採用した戦略の優劣が出ただけである。その典型が、SNSの利用における「緩い著作権」を採用できなかったこと。この問題については、別の論説で詳細に書いたが(参考:PRODUCE48に見る、日韓アイドル市場の今 田中秀臣が特徴を解説
)、要点をいえば、日本の音楽番組をファンが独自の編集などを加えて、それをYouTubeにアップすることは原則的にできない。他方で、韓国では「緩い著作権」の採用で、動画のアップが可能になっている。このことが北米・南米など世界の韓国アイドルファンの発掘に貢献している。


 筆者は個人的に日本の女性アイドルはとても魅力に富むと思っているし、まだその魅力がアジアのアイドル市場(アイドル市場そのものの生成も含めて)で未開拓だと思っている。例えば、ニコニコ♡LOVERSの谷口彩菜が、今年1月に中国の動画配信サイトbilibiliの公式番組に「和谷口彩菜一起分享日本可爱偶像的日常(日本の可愛いアイドルの日常 谷口彩菜に聞こう!)」として出演したところ、9万視聴数を得ることができた。日本で同様の企画を行っても、これだけの視聴数を稼ぐことは、日本の人気ライブアイドルでもなかなか難しいはず。谷口彩菜は、自他ともに認める日本的な「かわいい」をコンセプトにしたアイドルの典型であろう。中国市場における潜在的な日本型アイドルへの需要の大きさの一端を示している。


 以下では、日本型アイドルがアジアでどのような展開を見せているか、数カ国だけあげて簡単に素描したい。


 まず注目を集めている地域は、タイだろう。すでにBNK48が手堅い人気を得ている。最近では、日本のGW期間中にバンコクで『TOKYO IDOL PROJECT』(フジテレビ系)が企画した『TOKYO IDOL FESTIVAL in BANGKOK COMIC CON』が大規模に開催される。BNK48やJKT48、そして日本からはNGT48やまねきケチャ、Task have Funらが出演する。


 『TOKYO IDOL PROJECT』の宣伝によればこれからの海外展開の試金石のようである。実際にタイでの日本型アイドルへの需要は大きいだろう。地域的な近さから、沖縄でのフェスなどでもタイのアイドルが来日するケースが目立つようになってきた。よしもとエンタテイメント(タイランド)などがプロデュースするSweat16!は、メンバーの造形はやはりAKB48型(学園モチーフ)といっていい感じではないか。ちなみに彼女たちが日本語で歌唱するシーンを見たが、かなり上手いし、デビューして半年ほどとは思えないパフォーマンスである。相当の人的投資を行ったのではないだろうか? タイの日本型アイドルは、Sweat16!のようにタイ国内ばかりでなく、日本をターゲットにしていることも特徴だろう。タイのNegiccoのような感じがする3人組アイドルグループ、SoundCreamのMVは日本がメインの舞台やモチーフに取り入れられているものが多い。


 日本への留学生がこの10年で20倍超に増えたベトナムにも今後注目が集まる。ただしベトナムのアイドル市場の現状は、韓国型アイドルの圧勝である。日本的なアイドルとしては、Polarisがいて、日本語が堪能なようでTwitterも日本語で開設しているのが目立つぐらいである。日本への留学ブームが日本のアイドル文化への関心に結びつくことができれば、潜在的な成長ではかなり有望な市場かもしれない。


 アイドル超大国といえるインドネシアはやはり外せない。インドネシアのアイドルは数も多く、また韓国型アイドルの影響もあるが、かなり独自の進化を遂げていて全貌がつかみにくい深さを持つ。イメージとしては、日本の70年代の音楽番組をみているようなご当地演歌(?)とアイドルの混在があって、懐かしい気分にもなる。比較的新しい日本型のかわいい系アイドルとしては、少女コンプレックス(Shojo complex)に注目している。もちろんJKT48の人気の高さは特筆に値するだろう。


 中国は先ほども書いたが、日本型アイドルの潜在的市場としてはいまだにダントツに有望である。AKB48グループから「離反」したSNH48グループはいまだに健在だ。人気も手堅いものがある。ただし中国全土で認知度が高いかどうかは別問題で、まだこれからというのが正直なところではないか。個人的に日本型のアイドルとしては、Idol Schoolに注目している。ハウス食品(中国)のイメージガールにも選ばれるなど日本との結びつきは強い。だが、中国は文化統制的側面も強くあり、日本のようにライブアイドルが群生して裾野を広げていくようには思えないのが難点かもしれない。


 ユメオイ少女ら数組のアイドルたちが数年前にフェスを行ったモンゴル。大相撲での結びつきはもちろん、経済的な関係も深めているが、まだ日本型アイドルでは未開のフロンティアである。これからの有望な市場のひとつかもしれない。


 フィリピン、マレーシアなども独自の多様なアイドル市場を持っており、日本型アイドルの育つ余地は十分にあるだろう。いまはまだ点と点として各国に偏在しているだけだが、韓国型アイドルのようにSNSなどでネットワークが形成されれば、アジア全域に日本型アイドルが一気にブレイクする可能性はある。日本型アイドルがアジアの人たちの「嗜好」と異なるという証拠はないからだ。問題は全体的な戦略の不在に尽きるだろう。(田中秀臣)