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和楽器バンド 鈴華ゆう子が語る、アルバム『オトノエ』で描いたバンドの新境地

2018年05月01日 12:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 昨年末にベストアルバム『軌跡 BEST COLLECTION+』を発表し、売上12万枚突破という快挙を成し遂げた和楽器バンドが、早くも通算5枚目のアルバム『オトノエ』をリリースした。


参考:和楽器バンドは日本の伝統芸能を牽引する存在に? 国内外から注目されるエンターテイメント性


 オリジナルアルバムとしては、『四季彩-shikisai-』からおよそ1年ぶりとなる本作は、これまで以上にバラエティに富んだ内容。例えば「これぞ和楽器バンド!」という曲がある一方で、彼らのトレードマークともいえる鈴華ゆう子(Vo)の「節調(せっちょう)」(詩吟独特の歌い回し)を封印した曲もある。90年代Jポップへのオマージュや、町屋(gt)の故郷である北海道の大自然を思わせる雄大な楽曲、さらにはダークアンビエントまで、もはや「和楽器+ロック」というカテゴリーでは括り切れないほど、その音楽性は拡張し続けているのだ。


 こうした進化は一体どのようにして訪れたのだろうか。バンドのリーダーであり、町屋とともにメインコンポーザーも務める鈴華に話を聞いた。(黒田隆憲)


■「とにかくいい曲を、自由に書いてみようって」


ーー『オトノエ』を作り終えて今、率直にどんな心境ですか?


鈴華:時間がない中、今までで一番やりたいことを、自由にできたアルバムだと思っています。2013年にデビューしてからの私たちは、とにかくずっと走り続けているような感じだったんですよね。例えば「アルバムを出そう」となった時に、すでにタイアップされたシングルが沢山リリースされていて、マストで入れなきゃならない曲がアルバムの大半を占めている。そんな中で、アルバムとしてのテーマを後付けのように考えなければならなくて。


ーー贅沢といえば、贅沢な状況ですよね(笑)。


鈴華:そうなんです。なので、昨年11月に『軌跡 BEST COLLECTION+』というベストアルバムを出して、そこには新曲を3曲入れたのですが、そこからあまりインターバルを空けずにコンセプチュアルなアルバムを出そうと決めていました。入れるべき曲は「雪影ぼうし」だけだったので、それ以外は自由に選曲ができる状態。その上でメンバーで集まり、コンセプトを考える話し合いを何度も持つことができました。


ーー8人もメンバーがいると、意見の衝突などはないんですか?


鈴華:私たちはみんな、今までもバンドを組んで、くっついたり離れたりを経験しながら色んなことを乗り越えてきたんですよね(笑)。その上で集まった8人だから、自分のことよりまず和楽器バンドだからできることというのを一番に考えていて。意見も「衝突する」というよりは、違う意見でもお互いを尊重し合いながらスムーズに話し合いができるんですよね。ちゃんと落としどころを考えられるというか。おっしゃるように、こんなに沢山メンバーがいて不思議だなあと思うこともあるんですけど。


ーー「この8人だからこそ、うまくいってる」ともいえそうですね。


鈴華:和楽器バンドって大所帯の上に曲を書くメンバーも沢山いて、しかもルーツはバラバラだから、自分たちのことを「ロックバンド」とは名乗っているけど、「和楽器バンドはこうじゃなきゃいけない」というふうに自分たちを縛るのは、違和感があるんですよね。「ジャンルは“和楽器バンド”」っていうふうに考えてもいいんじゃないかと、話し合いを経て辿り着いたんです。とにかくいい曲を、自由に書いてみようって。その上で今作のテーマを考えたときに、例えば「命」や「愛」みたいな、すごく大きなことを歌うのはまだ早いぞ、と(笑)。今のタイミングだったら、「ミュージアム」がいいんじゃない? ってなりました。


ーーというのは?


鈴華:私はクラシックから音楽に入ったんですけど、クラシックの中でも印象派が好きなんですね。ドビュッシーとかラヴェルが、同時代の芸術家と影響し合っている時代。そこに影響されているというのをメンバーに言ったら、「和楽器バンドとして、ミュージアム的な要素をライブも含めて打ち出していったら面白いんじゃないか?」という話になったんですよね。もうすぐ始まる『音ノ回廊 -oto no kairou-』と銘打ったツアーも、その一環なんです。


ーーなるほど。そこから曲作りが始まったわけですね。


鈴華:まずは、すでに書き溜めてある100曲近いデモを全て聴き直しました。それと、「ミュージアム」というテーマの中で書き下ろした曲も加えつつ、メンバー全員での会議を重ねていって。「ミュージアム」だから、いくつかコーナーがあるんですね、「ロックのコーナー」や「バラードのコーナー」。そこに入れるとしたら、どの曲が面白いか。選びに選んで、最終的にこの12曲になったんです。


ーーアルバムの作り方も、今までとは違っていたそうですね。


鈴華:今回からは完全に自分たちだけで作ることにしました。例えばアレンジに関しても、今までは各メンバーがデモの段階である程度ざっくりとアレンジをしてきて、それを参考にしながらバンドで詰めていたんですね。デモのアレンジは、人によっては誰か友人に手伝ってもらったり、私の場合はマッチー(町屋)に付けてもらったり、まちまちで。でも今回は、全ての楽曲のアレンジをマッチーが一から作り直すことにしたんです。アレンジもレコーディングのディレクションも、すべてマッチーを中心に進めていきました。


ーー町屋さんがトータルディレクションをしているからか、今作は今までのアルバムよりも各パートのフレーズが整理されている気がします。「ここぞ」と言うところでソロが出てくるなど、アンサンブルに無駄がないというか。


鈴華:それは確かにありますね。初期のゴチャゴチャ感がいいと思う方もいるかもしれないんですけど、音楽的により良いものを作ろうとした時に、それだと限界がくると思うんです。ただ闇雲に弾き倒すのではなく、ちゃんと曲全体を把握しながら、出るところは出て、引くところは引くということができるようになったのは、マッチーのおかげだと思います。


「歌い方が違っても和楽器バンドらしさは出せる」
ーー鈴華さんの歌い方も変わりましたか?


鈴華:コード感が見えやすくなって、格段に歌いやすくなりましたね。正直、このバンドで歌うのってすごく難しいんですよ(笑)。ピッチを取るのもひと苦労だったんですけど、今回のレコーディングはそこが解消されたので快適でした。そのおかげで、歌い方も自由度が増して、かなり好き勝手に歌っています。


ーーそれはすごく感じました。曲によって声色をかなり使い分けていますよね?


鈴華:そうなんです。今までは「まず、和楽器バンドを知ってもらうことが大事だ」と思っていたから、どの曲にも詩吟の要素である「節調(せっちょう) 」を、なるべく入れるようにしていたんです。1stアルバム『ボカロ三昧』の時は全曲入れたから、中にはちょっと強引な曲もあるんですよね。でも今回は、4曲目「君がいない街」から8曲目「パラダイムシフト」まで、節調が入ってないんです。それって、和楽器バンドにしたら画期的なことで。


ーー今まで「和楽器バンドらしさ」と思っていた要素を、自ら削っているわけですからね。


鈴華:はい。でも今回は、「ミュージアム」というコンセプトも先に決めていたし、楽曲が必要とする歌い方を一番に考えたかった。例えば黒流さんの書いた「沈まない太陽」という曲では、自分のことを「ハイトーンボイスで歌い上げる男性ボーカル」というキャラに設定して歌ってます(笑)。そういうことを、かなり楽しみましたね。


ーー「World domination」も、ちょっと萌え声っぽくて驚きました。


鈴華:あははは。そうなんです。ちょっと可愛らしく歌ってみました。


ーー町屋さんがトータルディレクションをしたということも含め、「節調がなくても、歌い方が違っても、和楽器バンドらしさは出せるんだ」と思える自信がついたのかもしれないですね。


鈴華:そう思います。最初に話したように「ジャンルは“和楽器バンド”」と思えるようになったからだと。


■「90年代のエッセンスを若い人に届けたい」


ーー鈴華さんは、いつもどのように曲作りを行なっていますか?


鈴華:私は物心がついた頃にはすでに曲作りを始めていたんですけど、気分屋なのでその都度作り方が違うんですよ。必ずしもピアノの前に座って作っているわけじゃなくて。例えば井の頭線の電車に乗って、車窓の景色に触発されて浮かんだメロディを、持ち歩いている小さな五線紙ノートに急いで書き記したこともありました。チャリに乗っている時に浮かんだメロディを、携帯のボイスメモに吹き込んだこともあります。そういう断片を、家に帰ってピアノで弾いて、イメージを膨らませたり。


デビューしてタイアップの曲を書くようになってからは、まずテーマを決めて、そこから作っていくという方法にも挑戦しましたね。今までやったことのない作曲法だったので、それはすごく勉強になりました。今は、タイアップとか関係なくテーマを自分で設けて、そこから曲を作ることもあります。


ーーちなみに、本作に入っている鈴華さんの楽曲は、どんな風に作ったのですか?


鈴華:例えば「World domination」は、方言を歌詞に取り入れた曲にしようというテーマをまず設けました(笑)。私、茨城県の「いばらき大使」と水戸市の「水戸大使」を務めているんですけど、茨城弁を入れた歌詞が昔から書きたくて仕方なかったんです。世界に向けて発信している和楽器バンドが、軌道に乗ってきたタイミングでいきなり茨城弁を歌い出したら、きっと面白いんじゃないかと(笑)。それに、DREAMS COME TRUEさんの「大阪LOVER」とか、可愛くていいな、羨ましいなってずっと思ってて。「博多弁や大阪弁はあるけど、茨城弁の曲はないんじゃね?」というところから作り始めたんですよね。


ーーこの曲を作るにあたって鈴華さんがインスパイアされた曲やアーティストは?


鈴華:実はこの曲、「ジュディマリ(JUDY AND MARY)っぽいアレンジにして欲しい」ってマッチーにリクエストしたんですよ。最近は、私の青春だった90年代のJポップを、振り返って聴くことが多かったかもしれない。マッチーと世代的にも同じだし、あの時代のエッセンスを今の若い世代に届けたいという気持ちもありましたね。


ーー「砂漠の子守唄」は、暗いアンビエント曲で驚きました。これも鈴華さんが作曲ですよね?


鈴華:この曲は、マッチーの家で「World domination」のアレンジをしてもらっているときに作った曲なんです。「(アレンジの完成を)待っている間、曲作りがしたいから一部屋貸して」って言ったら、いつも寝ている部屋に通されたんですね。まるで洞穴みたいに真っ暗な空間で。「こんなところで寝てるのかよ」と思いつつ(笑)、楽器も何もないのでiPhoneに歌詞を入力しながら作っていきました。で、それをマッチーにピアノで弾いて聞かせたら、「めっちゃいい曲じゃん!」って言ってくれて。それから朝方まで、6時間くらいかけて一気にアレンジまで組み立ててくれたんですよ。「ゆう子の頭の中で鳴っている音が、俺もう分かったから」って。


ーーへえ!


鈴華:5年の間に、私がどんな音を求めているのか、言葉にするまでもなく彼は理解してくれるようになったんですよね。「こんな感じの音でしょ?」「こういうフレーズでしょ?」って出してくるものが、大抵その通りなんです。だから私はマッチーの横で、「天才だね!」ってただ言ってるだけでした(笑)。本当、彼には感謝してますね。私一人だったら、自分の頭の中で鳴っている音のイメージをここまで具体的にカタチにできなかったと思うから。アレンジャーってすごいなって。


「 まずは『オトノエ』の反応を確かめたい」
ーーメロディはいつも、どんな風に思いつくのですか? 例えば「この曲は和モノっぽくしよう」とか、ある程度テーマを決めて音を選んでいるのでしょうか。


鈴華:最初の段階である程度は決めますね。「今回はヨナヌキのメロディで作ろう」とか、「今回は何も気にせず思い浮かぶまま作ってみよう」とか。それと、私のメロディのクセは、跳躍したがるということ。7度とか大好きで、響きにグッときちゃうんですよね。


ーーそれって、やっぱりラヴェルやドビュッシーの影響ですかね?


鈴華:めっちゃあると思いますね(笑)。あと、私はジャズが本当に好きなので、9thや11thの音もメロディに入れがちです。実はディズニー音楽も子供の頃から大好きで、アラン・メンケンさんの曲からの影響も大きいと思いますね。


ーーちなみに、町屋さんの書く曲はどんな印象を持っていますか?


鈴華:マッチーの曲は、すごく北海道っぽいなあって思いますね(笑)。時々スレた感じを出そうとするんだけど、結局は田舎のいいオッチャンみたいな。


ーーあははは!


鈴華:もちろん、プログレっぽい曲をたくさん書いていた時期もあって、そういう曲はすごいなって思うんですけど、最近はあまりそういう尖ったことは自分でも出そうとしていなくて。例えば今作でいえば「風立ちぬ」みたいな、もともと持ってる北海道気質を前面に出すようにしているんだなって思います。プログレ的な要素、アレンジャーとして楽しんでいるんだろうなっていうのは、(いぶくろ)聖志さんの書いた「パラダイムシフト」のアレンジを聴くとよく分かりますよ。


ーーでは最後に、和楽器バンドとしての今後の抱負を教えてください。


鈴華:まずは、『オトノエ』を聴いてくださった方たちの反応を確かめたいですね。それは別に、成功だったとか失敗だったとかそういうことではなく、いただいた反応を受け止めた上で、次の道筋を考えるということを、これまで私たちはずっとしてきたんです。とにかく、話し合いをものすごくするバンドなので、今月末から9月までのツアーの間、一緒にいる時間が長いぶんミーティングをたくさんやろうっていう話はしています。ライブの打ち上げとは別で(笑)。


あとは、和楽器バンドってまだまだマニアックな存在だと思っている人が多いと思うので、そういう人たちにもちゃんと届くためにはどうしたらいいのかを考えたいですね。わたし自身、例えば最近までビジュアル系の音楽を全く聴いていなかったり、爆音の演奏は苦手だと思って敬遠していたり、「食わず嫌い」で勿体ないことをたくさんしてきたんです(笑)。なので、皆さんに和楽器バンドを先入観なく聴いてもらって、「こんなにポップで分かりやすい音楽をやっているんだ」と思ってもらえるようにしたいし、一度見たらまた絶対に見たくなるようなライブを、これからもやっていきたい。そう、ライブでしか観られない私たちの魅力も、もっともっと伝えていきたいです。(黒田隆憲)