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渡辺謙、死してなお鈴木亮平を導く 『西郷どん』“最後の抱擁”に視聴者涙

2018年04月30日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

 渡辺謙演じる島津斉彬の存在感が作品を牽引し続けてきたと言っても過言ではない、NHK大河ドラマ『西郷どん』。4月29日の放送の第16回「斉彬の遺言」では、斉彬の死を乗り越えようとする西郷吉之助役・鈴木亮平の熱演、そして渡辺の斉彬としての“最後の抱擁”が、視聴者の涙を誘った。


 列強からの危機に意識を向けず、幕府を意のままに操る大老・井伊直弼(佐野史郎)に対抗するため活動を続けてきた斉彬だが、志半ばで病に倒れしまう。斉彬の死を知った吉之助は、橋本左内(風間俊介)と月照(尾上菊之助)とともになんとか斉彬の志を引き継ごうとする。


 だが、吉之助たちの試みはことごとく井伊直弼に阻まれてしまう。幕府を改革するため、共闘してきた一橋慶喜(松田翔太)も、幕府に反逆を行った者として蟄居をさせられることに。井伊直弼が、自身に歯向かうもの、歯向かう可能性がある者たちを過酷に取り締まった「安政の大獄」の始まりだ。


 異なる出自でありながら、国を変えるために手を取り合い、友情を超えた絆で結ばれつつあった吉之助と慶喜。ヒー様ではなく一橋慶喜として生きることを選び、奮闘してきた慶喜が自分の弱さと無力さを知り、吉之助にも「もう諦めた。二度と会うことはない」と告げる。松田翔太の儚い後ろ姿が、慶喜の切なさと無念さを見事に表していた。


 慶喜と同じく共闘を続けてきた左内にも幕府の手が忍び寄る。「諦めた」と吉之助に告げた慶喜に対して、左内は「病んだこの国の医者になるために生きてきたのです。この国の仕組みを是が非でも変えたかった。僕はまだ何一つとして諦めていません」と吉之助に語る。左内と吉之助、ふたりの置かれている状況は茨の道にも関わらず、それでも国を変えるために、民のために前だけを見据える。この直後、死という絶望が待ち受けているだけに、吉之助に向けた左内の最後の笑顔があまりにも切なかった。鈴木亮平よりも小柄な風間俊介だが、その身体が見劣りしないほど大きな存在感を放った一幕だった。


 幕府に捕らわれてしまった左内と同様に、薩摩へと向かう吉之助と月照にも追っ手が迫る。吉之助は険しい道中の途中、斉彬の元へと“死”に引き寄せられていく。そんな吉之助の想いを察したのか、そこに現れたのがまさかの斉彬。斉彬に心酔し続けた吉之助の妄想か、それとも幽霊か。「お前は一体何を学んできたんだ」と斉彬は吉之助を激励。吉之助はその胸の内に飛び込むも、斉彬はその瞬間に消えてしまう。斉彬の意思を吉之助が受け継ぎ、その死を受け入れた証だ。斉彬へ向けて吉之助が送った最後の言葉「あいがとございもした!」は、鈴木亮平が自ら考えたものであることが「週刊 西郷どん」で明かされている。吉之助として、役者として、渡辺謙への偽りのない心からの気持ちが溢れ出ていた。


 もう一人の主役と言われた斉彬の退場によって、吉之助の担う役割は次週以降ますます大きくなっていく。激動渦巻く幕末を乗り越え、吉之助はどう成長していくのだろうか。(石井達也)