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北欧最大級パンクフェスで世界各国のバンドが共演 DEATH SIDE ISHIYAによる現地レポート

2018年04月29日 13:11  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年3月30日から4月1日までの3日間スウェーデンのストックホルムで、毎回世界各国からパンクバンドが集まり催されている『DEAD RHYTHM EASTER FEST』というパンクフェスに、日本からDEATH SIDEで出演してきた。このフェスは、ローニーというストックホルムに住む友人が4年間に渡り続けてきたスウェーデン最大規模のパンクフェスティバルだが、今回をもって最後になるという。そんな世界各国からパンクバンドが集結するフェスに、日本代表として最終日のトリを飾る形で出演するという大役だった。


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 当初出演予定だったアメリカのIMPALERS、GREEN BERET、URCHINなどが直前になって出演キャンセルになるというアクシデントがあったが、アメリカからパワーバイオレンスの雄・INFESTのほかにCITIZENS ARREST、カナダからは筆者の盟友であり2度の来日経験があるCAREER SUICIDE、イギリスからはクラストコアというジャンルを世界で確立したDOOMのほかにEXTINCTION OF MANKIND、THE RESTARTSが出演し、スペインからはBARCELONA、オーストリアからANSTALT、デンマークからはPLANET Y、隣国フィンランドからはFORESEENなど3バンド、地元スウェーデンからも現在のスウェーデン・ハードコアの代表格であるWOLFBRIGADEのほかにも多数のバンドが出演し、日本の我々DEATH SIDEを含め、総勢9カ国23バンドが出演する大きなフェスティバルとなった。


 3日間ともに1000人以上が集まった北欧でも最大級のパンクフェスだが、観客はスウェーデン以外からも主にヨーロッパ圏から、イギリス、ドイツ、ポルトガル、スペイン、フィンランド、ラトビアなどのほかにも様々な国からパンクスが集まっていた。ヨーロッパの人間が集まるフェスはEUという集合体を肌で感じる素晴らしい機会であり、アメリカや日本、オーストラリアなどとは一味違った雰囲気を堪能することができた。出演バンドに至っては、アメリカやカナダのバンドもいるために、各国によって違った感性も感じられるフェスであった。


 今回のフェスでアメリカの代表格というと、パワーバイオレンスというカテゴリーでは筆頭格のバンドともいえるINFESTになるが、ファストな曲調だがパワフルなボーカルによって曲の違いが明確にわかるバンドで、ステージに上がる客も多数いるなど観客席も非常に盛り上がり、ボーカルのジョーは途中から観客席を徘徊しながら歌うが、それでも途切れることなくパワフルなボーカルで観客に訴える素晴らしいライブだった。


 CITIZENS ARRESTも観客席がサークルモッシュになるなど、これぞUSハードコアといった演奏と観客の反応が見られた。こういったUSハードコア特有のノリがヨーロッパでも見られるということは、日本でもそういったバンドで同じようなノリが見られることを鑑みると、世界的にUSハードコアというものが認知され、受け入れられている証といえるだろう。


 しかし、アメリカの隣国であるカナダから最終日に出演したCAREER SUICIDEとなると、観客の反応が違っていた。観客各自が独自のノリで拳を振り上げたり、ステージダイビングをするなどのほかにも、アメリカのバンドを観ているときの観客とは違った反応が見られた。CAREER SUICIDEがスウェーデンでの人気があることも要因ではあるだろうが、ここまで観客を盛り上げるステージパフォーマンスは非常に素晴らしいものがあった。カナディアンハードコアを長年にわたり牽引しているサウンドにも、独自なものがあり、久々に感じた盟友に魅了されたライブだった。


 特徴的だったのは2日目に出演したスペインのBARCELONAで、ボーカルが女性であることのほかにも独特な変則的なフレーズを使うバンドで、ほかの国のバンドではあまり感じることのないサウンドである。速い曲でもなくノイジーでもなく、かといってロック的なアプローチかといえばそうではない。好みが別れるところではあるとは思うが、観客席も満員で、それほど激しいノリを見せたわけではないが、興味深く注視している観客の姿が目立ったステージであった。非常に珍しいタイプの新しいスタイルを創造しているバンドである。


 パンク発祥の地とも言えるイギリスからの出演では、クラストコアというカテゴリーを確立したDOOMの存在を忘れてはならない。ハードコア・パンクの創始者と言っても過言ではないDISCHARGEを模倣するようなサウンドをD-BEATと呼ぶが、クラストとは、英語でかさぶたや外皮といった意味で、ボロボロの服をまとっていたパンクスに対して使われ始めた。そういったファッションはCHAOS U.KやDISORDERというノイズコアが発祥であり、代表的存在としてはAMEBIXが挙げられる。クラストコアというカテゴライズは、AMEBIXやCHAOS U.Kが活躍し始めた時代にはないものであったが、DOOMの登場により確立されたと言っても良いだろう。


 1990年代半ばに登場したDOOMは、それまでなかったD-BEATというカテゴライズを世界に定着させ、発売されたアルバムは世界のハードコア・パンク界に衝撃を与え、瞬く間にファンを増やしていった。そのファンたちがボロボロのファッションであったり、DOOMに影響されたバンドも増えてきたために、クラストコアというカテゴリーができたように感じる。初来日時にはDEATH SIDEで共演したが、その時点ではまだクラストコアやD-BEATという言葉すら存在していなかった。そういった存在のDOOMであるが、流石にファンが多く非常に盛り上がる。BLACK SABBATHのカヴァーもやるなどメタリックな面も持っており、DOOMここにありという素晴らしいステージをみせてくれた。


 ほかにもイギリスからはEXTINCTION OF MANKINDがきており、ギタリストがDOOMと掛け持ちということもありクラスト系として認識していた筆者だったが、実際はmotörheadを彷彿させるサウンドに、ハードコア・パンクの要素が大きい骨太なサウンドを聴かせてくれた。


 ほかにもイギリスからはTHE RESTARTSが出演しており、ポゴ・パンク系として人気があるようで、モヒカンを立たせたパンクスなどの派手な観客が目立った客席だった。サウンドはスカやレゲエも取り入れた、非常に音楽性の高い素晴らしいもので、同性愛者に対する偏見に怒りを表した歌詞やMCのほかにも、フリーパレスチナのTシャツを着るなどメッセージ色も強く、かなり印象に残るバンドだった。


 こうして見ると、イギリスという国は、さすがパンク発祥だけありバラエティに富んでいるだけではなく、演奏やメッセージもしっかりとしたパンクスがたくさんいる国であることが非常によくわかり、イングランド・パンクの奥深さを再認識することができた。


 開催国であるスウェーデンからは、地元だけあり多数のバンドが出演したが、その中でも筆頭に挙げられるのがWOLF BRIGADEである。世界に影響を与えたハードコア・パンクバンドを輩出した国として、イギリス、アメリカ、ブラジル、日本、そしてスウェーデンが挙げられる、スウェーデン・ハードコアの中で、最も世界に影響を与えたバンドがANTI CIMEXであると言っても過言ではない。


 そのANTI CIMEX解散後に、メンバーが結成したWOLF PACKからANTI CIMEXのメンバーが脱退したのを機に改名したバンドがWOLF BRIGADEであり、スウェーデン・ハードコアの系譜ど真ん中にいるバンドで「これぞスウェディッシュ・ハードコア」という凄まじいステージだった。ツインギターからなる重厚なサウンドに、情緒的なフレーズなども垣間見られ、パワフルなリズム隊がそのサウンドをしっかりと支えた上に、ハードコア好きには堪らないシャウトのボーカルが加わる。メタリックでありながら臨場感抜群の曲構成やフレーズ、メロディがミックスされたサウンドは、現在のスウェーデン・ハードコアを代表するバンドとして世界でも非常に評価の高いバンドである。


 1980年代にその名を世界に知らしめたANTI CIMEXの進化系といったサウンドで、観客の盛り上がりも凄まじく、期待を超える素晴らしいステージだった。さらにボーカルがここまでのシャウトを見せながら、実は喉の手術直後だったという事実もわかり、スウェーデン・ハードコアの魂を見せつけられ、心の底から驚愕させられたバンドであった。


 現在でも進化し続けているスウェーデン・ハードコアシーンの中心的存在であるバンドのライブを体験できたことだけでも、スウェーデンに行った意味が見いだせる、そんなライブであり、ぜひ来日して日本のオーディエンスにスウェーデン・ハードコアの真髄を体験させてほしいと願うばかりである。


 そんな素晴らしいバンドを輩出しているスウェーデンだからか、筆者も知らないバンドにも非常に素晴らしいバンドがあった。


 キャンセルしたバンドがあったために急遽出演が決まったFREDAG DEN 13:eという、スウェーデン語で13日の金曜日を意味するそのバンドは、メタリックな面を見せながら重厚で疾走感のあるハードコアサウンドを聴かせ、筆者はライブを観て一気に虜になってしまった。様々なアプローチを持った完成度の高い曲構成に高い演奏力、ドラムの刻むビートも凄まじく「スウェーデンにはこんなバンドがいるのか!」と驚愕した素晴らしいバンドである。


 ほかにも3日間を通じて多数のバンドが出演していたが、スウェーデンのバンドは総じてレベルが高いバンドばかりであった。様々な国のシーンを経験しているが、ここまでレベルの高い国はあまりお目にかかったことがない。


 滞在期間を含め5日間じっくりとスェーデンを経験できたことにより、個人的にスウェーデンという国柄とサウンドが結びつく点が多く、スウェーデン・ハードコアの素晴らしさをさらに認識できる素晴らしい体験となった。


 スウェーデンの隣国であるフィンランドからも3バンドが出演したが、隣国であるにもかかわらず、フィンランドとスウェーデンのパンクにはあまり接点が無いように感じることが多い。隣国でありながら言語も全く違い、スウェーデン人とフィンランド人は英語で会話をする。


 ハードコアのサウンドにも大きな違いがあり、今回フィンランドから出演した中では、FORESEENはUSハードコアかとも思えるようなサウンドで、観客もサークルモッシュになるなど、筆者もアメリカのバンドかと思うほどアメリカの影響が大きいと思われるバンドであった。


 最終日に出演したKOHTI TUHOAとKOVAA RASVAAは女性シンガーで、ヨーロッパ独自のアナーコ的なサウンドともいうような独自のサウンドに、激しい女性ボーカルが特徴的なバンドだった。KOHTI TUHOAはメタリック・クラストともカテゴライズされるが、サウンド的にはハードコアそのものである。


 隣国同士でもかなりの違いがあるということを不思議に思った筆者は、両国の人間に「なぜ隣国でここまで違いがあるのか? 日本や韓国、ポルトガルとスペインにも通じる部分があるように思うので聞かせてほしい」と質問したところ「あなたはなぜだと思う?」と、明確な答えをもらうことができなかった。歴史的な背景があるのかどうかわからないが、そういった国家的な背景を壊せるものをパンクは持っていると思うので、今後もこうした部分には注目していきたいと感じたフェスでもあった。


 ほかにもオーストリアのANSTALTはロカビリー的なルックスのギターボーカルで、ロックンロール的なアプローチを見せ、デンマークのPLANET Yは女性ボーカルながら客席に入り歌うというアティテュードをみせながらもミドルテンポのロック的アプローチの楽曲であったりと、様々なタイプのパンクバンドが出演したフェスだった。


 そうしたフェスで、最終日のトリを飾るバンドとして4年間のイベントに終止符を打つ大役を担った我々DEATH SIDEであるが、初日から客席をうろうろしていると「最終日は楽しみにしているぞ」と、様々な国の人間から声をかけられ期待の高さを日々感じていた。


 以前チェコやイギリスに観にきていた観客も多く、最終日には用意したTシャツも完売するなど、ヨーロッパでの評価の高さにびっくりしたのも事実である。


 ライブ前に、企画者であるローニーに「本当に今回でこのフェスは終わってしまうのか?」と尋ねたところ「そうだ。その最後をDEATH SIDEで締めることができるのは光栄なことだ。その意味がわかるか?」と言われ、ここまで様々なタイプのバンドが出演する中で、世界に影響を与えた日本のハードコア・パンクの評価をも背負う形にも思え、非常に気合の入るライブとなったが、アンコールを用意していないにもかかわらず2回も激しいアンコールがかかるなど、大盛況のライブを行うことができたように思う。


 こうした世界のバンドが集まるフェスに、日本のバンドとして出演できたことを誇りに思うとともに、世界のハードコアシーンの中での日本の評価の高さも実感できる素晴らしい経験をさせてもらった。世界は広く、人生は一度きりだ。世界に飛び出し様々な体験をすることは、バンドにとっても自分の人生においても素晴らしい経験となるだろう。日本には多くの素晴らしいハードコア・パンクバンドがいる。そうしたバンドたちにも、ぜひ日本のハードコアの素晴らしさを世界に伝えていってほしいと心から願う。(ISHIYA)