ホンダとレッドブルを巡って、アゼルバイジャンGPではさまざまな憶測が飛び交っている。多くの海外のジャーナリストがホンダのホスピタリティハウスを訪れ、筆者もパドックでホンダの情報を得ようとする海外メディアからいろいろと質問された。
彼らはアゼルバイジャンGPで、ホンダとレッドブルがなんらかの交渉を開始するのではないかと推測している。その最大の理由は、F1のスポーティングレギュレーションだ。
レッドブルとルノーが仲違いした2015年に、レッドブルが翌年のパワーユニットを供給してもらうメーカーがなくなるという危機に瀕した経験から、FIAは2016年からレギュレーションで「次のシーズンにどのチームと提携するかを、パワーユニットマニュファクチャラーはFIAに対して事前に通知しなければならない」と定めた。そして、その期限が今年は5月15日となっている。
つまり、スペインGPの期間中にはホンダは2019年の供給先を決定しておかなければならないことになる。そして、スペインGPで決定するためには、遅くともこのアゼルバイジャンGPで何らかの交渉をスタートしておかなければならないというのが根拠となっている。
レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は「2019年以降のPUに関してはあらゆる可能性がある。もちろん、ホンダとパートナーを組んでいるトロロッソの状況をわれわれは注視しているが、いかなる先入観も持たない」とルノー続投の可能性もあることを示唆し、「8月ごろまでには決めたい」と語っていた。
しかし、冒頭で説明したようにレギュレーションで期限が5月15日と定められていることを考えれば、交渉はこのアゼルバイジャンGPで開始すると考えるのが自然だ。
5月15日という期限に絶対的な拘束力があるわけではないと主張する者もいる。確かに昨年のマクラーレン・ホンダ×トロロッソ・ルノーのスワップという前例がある。だが、その当事者だったホンダとルノーは、期限が過ぎた後に供給先を変更して、再びFIAに対して借りは作りたくない。
またレッドブルにとっても、5月15日の時点でしっかりとした契約をPUマニュファクチャラーと締結していないという事態は、不利益なこととなる。
というのも、もしレッドブルが5月15日までにルノーかホンダかを決定しなかった場合、ルノーもホンダもFIAに通知する提出書の欄にはレッドブルは記載できない。つまり、その時点でレッドブルはFIAが決定する「オブリゲーション(義務)PU」を使用しなければならなくなる。
この場合、FIAは公平性の観点から、最も少ないチームに供給しているPUマニュファクチャラーを割り当てることになり、それは事実上、ホンダとなる。だったら、レッドブルがホンダを希望しているのなら、どっちに転んでもホンダを搭載でき、物事が丸く収まりそうだが、実際は違う。
というのも、オブリゲーションPUを割り当てられた場合、FIAが設定する最低額をレッドブルはホンダに支払わなければならなくなるからだ。
当然ながら、レッドブルがホンダと選ぶ最大の理由はワークス体制。トロロッソともホンダはワークス体制で3年契約を結んでいるが、レッドブルとはより強固なワークス体制が結ばれる可能性が高く、それはPUの無償供給を意味する。そして、その条件を勝ち取るためには、レッドブルは5月15日までにホンダとの交渉をまとめなければならないのだ。
もちろん、2チームとワークス体制でPUを供給するとなれば、ホンダ側の負担は増えるが、トロロッソと組んだ今シーズンのF1を日本のファンは昨年以上に高い関心を示している。
開幕直前に東京・六本木で開かれたトロロッソ・ホンダのイベントには、六本木ヒルズで開催されたイベントでの最多の観客を集めたほど。東京・青山のホンダ本社ビルで開催された開幕戦オーストラリアGPのパブリックビューイングも多数のファンが詰めかけ、ホンダは1階だけでなく2回も開放したという。
F1に参戦してわずか1勝のトロロッソでもこの人気なのだから、トップチームのレッドブルと組むことになれば、ここ数年でF1を離れたファンを呼び戻すことは必至。あるライバルチームは「GPSのデータではメルセデスやフェラーリよりも車体はいい」と言われているレッドブル。ホンダにとって、再びF1での栄光を取り戻す最大のチャンスなのだ。
アゼルバイジャンGPにはホンダの山本雅史モータースポーツ部長も来ており、もちろんレッドブル側の交渉窓口であるヘルムート・マルコもいる。今後の動向に注目したい。