2017年限りでその歴史に幕を閉じたWTCC世界ツーリングカー選手権。最後の世代となったTC1規定マシンをドライブし、シリーズ3連覇の偉業を達成したホセ-マリア・ロペスは、2018年に向けてABBフォーミュラE選手権への参戦を打診される前、FIA WTCRワールド・ツーリングカー・カップへの参戦が「実現目前だった」ことを明かした。
2016/17シーズンにDSヴァージン・レーシングからルーキーとしてフォーミュラEに参戦しランキング9位に終わったロペスは、その年限りでチームを離れ、17年はWEC世界耐久選手権に参戦するTOYOTA GAZOO Racingに加入。しかし、度重なるクラッシュやドライビングエラーにより「冬の間、来季の契約があるとは思えなかった」と自身が振り返るほどの状況に追い込まれていた。
しかし、このアルゼンチン出身の世界タイトル保持者は、引き続きWECでトヨタ・ワークスのハイブリッドマシンのステアリングを握ることとなり、重ねて2017/18シーズンのフォーミュラEにも復帰。開幕戦の香港を最後にチームを離脱したニール・ジャニに代わって、ドラゴン・レーシングに加入することとなった。
そのロペス自身は、ドラゴンからの契約オファーが届く前、まだチーム名も確定していない時期に、新生WTCR参戦に向けた契約を「締結目前だった」と告白した。
「今年はツーリングカーに復帰する可能性が高いと感じていたこともあったし、トヨタとの未来に確証が持てないと思っていたこともある。だからフォーミュラEのオファーが届く前には、新たなツーリングカー・カップに参戦する機会がすぐ近くにあったんだ」と明かしたロペス。
「それが誰で、どのチームだと話すことはできないが、もうほとんど契約の目前まで交渉は進んでいた。でもその最後の瞬間にドラゴンから電話が来たんだ。だから僕は重大な決断を下さなくてはならなかった」
いずれにしても、この決断により「おそらく誰かを失望させることには違いない」と考えていたというロペスだが、シングルシーターのフォーミュラEへの再挑戦は、かつてF1を戦っていたようなドライバーたちと勝負ができるという「自分自身へのさらなる挑戦」を目指しての決断だったと語った。
■「WTCR“カムバック”の時間的猶予はある」とロペス。世界選手権格式復活への期待も
「僕がツーリングカーで何を成し遂げ、何ができるのか。僕自身も世界のファンも見てくれていたと思う」とロペス。
「仮にドライブするにせよ、WTCRに“カムバック”するまでの時間的猶予はまだ充分にあると思う。でも年齢的能力がモノを言うこの種のカテゴリー(フォーミュラE)に挑戦する時間は、もうあまり残されていないと感じたんだ」
またロペスは、世界的ツーリングカー・カテゴリーがTCR規定を採用して生まれ変わったことについては、衰退期に入っていた世界選手権の将来に向けて「正しい動きだったと思う」と述べた。
「世界選手権格式でなくなった点は率直に少しさみしい思いもするよ。世界選手権で活躍できたからこそ、今僕は別の世界選手権(WEC)で走る機会が与えられているんだからね」
「WTCCが世界選手権だったからこそ、僕が何年もアルゼンチン(スーパーTC2000)で活躍していたにもかかわらず、世界タイトルを獲得した後の方が母国で僕を話題にしてくれる人が増えたことは間違いないんだ」
「でも、ツーリングカーのトップカテゴリーが勢いを取り戻すための決断として、TCRレギュレーションを導入したことは悪いことじゃない。僕らはWTCRで数多くのマニュファクチャラーが手がけたマシンを見ることができている。そこにオフィシャルなファクトリーチームが存在していなくてもね」
「もう世界選手権ではないことは確かに残念だ。でも強くなるための決断だったことも知っている。願わくば近い将来に“ツーリングカーの世界選手権”が戻ってくることを願っているよ」