ウェブ漫画『フォント男子!』が、4月10日にKADOKAWAによる無料ウェブ漫画サイト「ヤングエースUP」でスタートした。
「業界初のフォント擬人化コメディー」を謳う『フォント男子!』。主人公は以前住んでいた街に戻り、モリサワ学園に転入してきた高校2年生の男子、「アンチ」ことアンチックAN。親友の太ゴB101、ゴシックにライバル心を燃やすリュウミン、担任教師の正楷書CB1といった様々なフォントに囲まれた学園生活を描いた学園漫画だ。ちなみに公開日の「4月10日」は、日本記念日協会の認定を受けて2017年に正式な記念日となった「フォントの日」。
作者は小説『異世界居酒屋「のぶ」』のコミカライズ版を『ヤングエース』で連載しているヴァージニア二等兵。日本を代表する書体メーカーである株式会社モリサワが協力している。思いのほか本格的である。なぜこういった企画が実現に至ったのか。編集担当者にメール取材した。
■異色企画の発端は「フォントが好きだったこと」
まずは率直に、企画の発端を伺った。
<ヴァージニア先生と新作の打ち合わせをしている際に、お互い職業柄フォントが好きだったこともあり、「フォント擬人化というネタはどうだろう」という案が出たところから企画がスタートしました。>
それぞれの書体が持つ個性を、乙女ゲー的なキャラクターの外見や性格に落とし込み、学園生活を送らせる。書体の持つ個性は、それが同じ「文字」を表現するからこそ際立つもの。同じ制服に身を包み、同じ空間で過ごす「学園生活」という舞台設定は、各自の個性を際立たせるにはうってつけだ。出発点は「好きだったから」というシンプルな理由だが、じつに納得感がある。
■まさかのモリサワ協力。本格プロジェクトに
それにしても「モリサワ学園」というパワフルなネーミングが気になる。モリサワは企画のどの段階から関わっていたのだろうか?
<相談にお伺いしたところ、広報の方が非常に好意的に捉えてくださり、資料提供や取材などご協力頂きました。先日の4月10日(フォントの日)のアドビさんのイベントでは、主人公「アンチックAN」のスタンディを作って飾って頂いたりと、まさに多大な協力を頂けて大変ありがたく思っております。>
■擬人化はヒトの遺伝子に刻まれた使命なのか
「擬人化」の歴史はかなり古い。人間は古代から現代に至るまで、様々な事物、概念、感覚などを自らの似姿として表現し、現実把握の方法としてきた。まるで遺伝子に「擬人化すべし」と刻まれているかのように。
現代日本のいわゆる「萌え擬人化」を例にとっても、動物を擬人化した『けものフレンズ』、国家を擬人化した『Axis powers ヘタリア』、実在の海軍艦艇を擬人化した『艦隊これくしょん』、さらに「意識高い系用語」を擬人化した『キルドヤ』など枚挙にいとまがない。
一方、書体をモチーフにしたプロダクトもこれまでに存在していた。書体デザインと眼鏡のフレームのデザインに共通項を見出す眼鏡ブランド「TYPE」では、HelveticaやGaramondといった書体からインスピレーションを受けた製品を販売している。
しかしキャッチコピーにある通り、書体を擬人化するという発想は、たしかに業界初の試みだったかもしれない。最近ではデザイン誌『MdN』で「絶対フォント感」特集が組まれたり、フォント愛好家がテレビに登場したりと、その存在が前景化してきた「フォント」。擬人化に対する反応はどんなものだったのだろう?
<擬人化モノはひとつのジャンルとして色々な作品があふれていますが、フォントの擬人化漫画は初めてでしたので、驚きと好意的な意見が多いです。フォントに詳しい方から「フォントのイメージにピッタリ」とご意見頂けたりしたのも嬉しかったです。また、モリサワさんは伝統のある会社ですので、協力という点に驚かれている方もいらっしゃいました。>
■今後はコミックス化も検討
今後はコミックス化やアニメ化などのメディアミックス展開も想定しているのだろうか。
<日々の生活で目にする文字の多くは、目的があってデザインされた「フォント」だと思います。漫画を通して、フォント同士の関係性やあるあるネタ、豆知識を楽しんで頂きつつ、フォントに興味を持っていただけると嬉しいです。>
ヤングエースUPで無料公開中の本編第1話は、次のようなモノローグから始まる。
<毎日どこかで会っていて いつも何気なく触れている>
そう、フォントは私たちの生活にはかつてないほど溢れている。紙の上に、ディスプレイ上に。そしてそんな「毎日」は、少し視点を変えることで楽しくできる。このプロジェクトからそんなメッセージを受け取った。今後の展開にも期待したい。