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FODプロデューサーが語る、配信ドラマ作りの仕掛け 「“胸キュンもの”が溢れるプラットフォーム」

2018年04月27日 12:41  リアルサウンド

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 フジテレビが運営する動画配信サービスFODが業績を伸ばしている。その要因のひとつに挙げられるのが、FODが独自に制作し、現在31本が配信されているオリジナルドラマ。フジテレビの地上波で『のだめカンタービレ』や『最高の離婚』といった大ヒットドラマを手がけ、2016年6月にFODを運営する総合事業局コンテンツ事業センター企画担当部長となり、オリジナルドラマ『花にけだもの』や『彼氏をローンで買いました』などを企画・プロデュースする清水一幸氏に、FODがオリジナルドラマを作る理由についてインタビューを行った。(須永貴子)


■10~20代の女性に受け入れられることを意識したドラマ作り


ーーFODにおけるオリジナルドラマの位置づけを教えてください。


清水一幸(以下、清水):FODはもともと地上波の見逃し配信がメインのプラットフォームでしたが、ここ1~2年は、戦略としてオリジナルドラマを増やしています。「プレミアム会員ドラマ視聴数ランキング」でもオリジナルドラマが占める比重が大きく、これからもユーザーに響くオリジナルドラマを増やしていきたいと考えています。


ーージャンルでいうと、圧倒的に少女マンガ原作のラブコメディが多いですね。


清水:はい。FOD全体のブランディングにもつながっていくことですが、FODは他サービスに比べて、10代~20代の若い女性ユーザーが圧倒的に多いプラットフォームになっているので、頑張ってそこを狙っていきたい。デパートのようになんでもあるプラットフォームも魅力的ですが、現在のFODは、他サービスと差別化するために、強いところをより強くする時期。昨年度は14本ものオリジナルドラマを制作しました。1本あたりの予算は地上波ドラマよりも圧倒的に少ないですが(笑)。どれも、10~20代の女性に受け入れられることを意識しています。


ーーそのユーザー層は、まさにテレビ離れをしていると言われる層に重なります。


清水:もともとフジテレビがその層に強いと言われていたこともあり、そこはメディアが違えど、その層に頑張ってボールを投げていきたいです。特に未成年のユーザーはお小遣いも限られているでしょうから、彼女たちが求める、ここでしか見られないオリジナル作品をちゃんと届けたいと思っています。


■一度実写化された原作に、もう一度チャレンジした『きみはペット』


ーー清水さんが、フジテレビのドラマ班からFODに企画担当部長として異動されてきた時に、お題のようなものは与えられましたか?


清水:「オリジナル作品を作ってくれ」とは言われましたが、異動直後は正直、「何をやればいいのかな」という戸惑いもありました。僕が来る前から、FODは地上波のドラマとは違うドラマづくりの実績はありました。ただ、バジェットも小さいですし、役者さんも未知のメディアに尻込みをしますから、そこを徐々に開拓することから始めました。パイは小さいですが、まだ社内の目が届いていないので、自分の「やりたい」「良い」が通るありがたい状況でした。


ーー作品の多くは少女漫画原作のラブコメディです。膨大なリソースからどうやってドラマ化する作品を選んでいますか?


清水:人からのおすすめや、出版社からの売り込みにももちろん呼応しますが、単行本と雑誌をひたすら読みまくり、結局は勘で決めてます。なぜなら、僕みたいな40代のオジサンが少女漫画に対して「これ面白い!」「キュンキュンする!」「実写化しよう!」というスタンスでは気持ち悪いですから(笑)。配信ドラマのいいところの1つに、過去に一度実写化された原作に、敢えてもう一度チャレンジできることがあると思うんです。FODで言えば『いたずらなKiss』『きみはペット』『南くんの恋人』など。たとえばTBSが過去に作った『きみはペット』を、フジテレビが作るのはおかしいだろうという理由で、地上波は手を出さないと思います。でも、僕らがターゲットにしている若い女性ユーザーのほとんどは、TBSが制作した『きみはペット』をおそらく見たことがない層だと思うので、僕らが作った『きみはペット』が彼女たちにとっては初見になる。ということは、実写化済みの作品も、恥ずかしがらず、遠慮せずに作っていくことは、FODが立てるべき1つのアンテナだと考えています。


■配信ドラマの世界では、“自主規制のハードル”を下げて作ることを意識


ーーキャスティングも、徐々に豪華になっています。


清水:たとえばWOWOWでドラマがスタートしたときも、キャスティングは簡単ではなかったと思います。それが、WOWOWのドラマは質が高いという評価がなされると、地上波ではできない硬派な作品を求めて俳優さんが出たいと思うようになった。配信のオリジナルドラマも、作り始めた頃に比べるとどんどん見直されています。「面白いことができる」と思っていただけるのはもちろん、ターゲットを絞っている分、俳優さんのプロモーション的に得だと思ってもらえている部分もあると思います。


ーー『パパ活』にはビッグネームの渡部篤郎さんが主演していますね。


清水:はい。渡部さんは、野島伸司さんの作品に出演したことがなかったので、野島さんの脚本なら出たいとおっしゃっていただいたところから始まりました。


ーー少女漫画原作が多い中、野島伸司さんにオリジナル脚本を依頼した理由を教えてください。


清水:この部署に来て間もない頃、配信だからできるドラマにするために、野島さんに脚本を書いていただきたいと思いました。今の地上波で野島さんの脚本で企画を出したとすると、自主規制もあると思いますが、だいぶ角を削ぎ落とされてしまうと思ったんです。つまり、野島さんの魅力が削がれてしまう。そこで、自主規制的なことはあまり考えず「配信でやってみませんか?」というご相談をさせていただきました。


ーー配信では地上波よりも尖った作品を作ることができますか?


清水:と、思っているだけでした。なぜなら、『パパ活』はその後、そのまま地上波で放送できたので(笑)。かつての地上波ではOKだったことが、今は絶対に「やめよう」となっている。でも、配信の世界では、それがまだ絶対にダメではない。つまり、地上波では自主規制がルールになっていて、自分たちで諦めているだけなのかもしれない。だから、配信の世界では、自主規制のハードルを少し下げて作ってみようと意識しています。もちろんフジテレビの考査も気にしつつですが。


ーー田中圭さんが演じる主人公が、出張先の飲食店で不貞をはたらく『不倫食堂」は、性的表現においても、「不倫はいかん!」という風潮のご時世においても、プチチャレンジをしている作品ですね。


清水:基本的には大人の男性向けの、FODにおいては異色の作品です。でも、なかなか見られない役どころのため、田中圭さんの女性ファンが相当数見ているのです。


■FODは“胸キュンもの”が溢れるプラットフォーム


ーー脚本家、演出家といったクリエイターは、配信ドラマに対してどのようなモチベーションで取り組んでいると感じますか?


清水:昨年度で14本という数になっているので、「FODに持っていけばオリジナルドラマが作れるかもしれない」「地上波よりも面白いものができるかもしれない」という見られ方になってきているのか、配信に対するとっつきにくさが減っているのか、制作会社や、これまでに仕事をした演出家や脚本家からの企画をいただくことが増えました。僕自身、地上波よりも、やりたいと思った企画がスピード感をもって実現できる状況にあります。制作会社だけでなく、弊社の地上波の制作部からも、地上波で莫大な費用をかけてつくるような企画ではないけれど、なるべく旬なタイミングで映像化したいという企画が来ています。


ーーどんな企画がほしいとお考えですか?


清水:少女漫画原作の、胸キュンものです。FODはそういうコンテンツがラインナップされているプラットフォームであることを押していきたいし、売っていきたい。オリジナル作品だとしても、その方向性が見えるものであれば、作っていきたいです。


ーー地上波の視聴率に対し、FODにおいてヒット作の指針はというと?


清水:それが難しいところなんです。地上波と違って視聴率は出ませんし、視聴数が出ても数年前に配信された作品と、その週に配信された作品では比較できない。収益も、プレミアム会員は月額888円(税抜)を支払えばなんでも見られる一方、1話ごとに都度課金するシステムもある。「最近、この作品がハネてるよね」という印象論では語れますが、総合的に一番ハネた作品は◯◯である、という結論付けはできません。


ーーでは、いつかみなさんで「目標達成!」「やったね!」と乾杯することがあるとしたら何が起きたときだと思いますか?


清水:現実的には、会員数が100万人になったときじゃないでしょうか。そこは近々の目標として、実現させたいと思っています。


参考:新木優子らが宇宙人に本音トーク『ラブラブエイリアン』なぜ人気? “ドラマなきドラマ”の魅力


(取材・文=須永貴子)