KADOKAWAは角川文庫の創刊70周年を記念して、名作の最後の一行と著者名・タイトルを掲載した広告を作成した。掲載されているのは、ドストエフスキー『罪と罰』、芥川龍之介『羅生門・鼻・芋粥』などの100作品。京王線の渋谷駅・新宿駅・吉祥寺駅に4月23~29日まで貼り出される。
この広告はネットで話題となり、「斬新」「これは立ち止まって読んじゃう」と称賛の声が相次ぐ一方で、「余計ネタバレはやめてほしい」という声も出ている。
「この一文だけで最後の場面がわかるということはないと思います」
広告には、
「勇者は、ひどく赤面した」(『走れメロス』、太宰治)
「自由というのは、もはや、不自由の反対語ではないのです」(『家出のすすめ』、寺山修司)
「私の肉体は永久に貴方のものですから……ペッペッ……(『少女地獄』、夢野久作)
など最後の一行と作品名、作者名が掲載されている。小説との新しい出会いになるだけでなく、一度読んだ本を読み返したくなる広告だ。
4月25~26日までは、著者名とタイトルが伏せられたバージョンが東西線・南北線・千代田線・東葉高速線・埼玉高速線の中吊り広告にもなっていた。
同社の担当者は、このユニークな広告について、「冒頭一行を紹介する試みはすでにあるので、それとは異なった切り口のものを目指しました。本そのものに興味を持ってもらえたら嬉しいです」と話している。
また、「ネタバレ」という批判は当たらないという。
「そもそもあくまでも文庫本の『物理的な最終行』を掲載しているだけで、最後の一文を丸ごと掲載しているわけではありません。最後の一文の途中からしか掲載されていないものもあります。この一文だけで最後の場面がわかるということはないと思います。これを読んでどんな本なのか興味を持ってほしいと思います」
確かに最後の一文だけでは物語の内容を推測できないものも多い。しかし『ラブコメ今昔』(有川浩)では、「大好き、と呟くと、俺もだよ、と吉敷は千尋の髪をぐしゃぐしゃかき回した」とあり結末がわかってしまう。ネタバレだと心配する声が出るのも頷ける。
同社は他にも最後の一行を用いたキャンペーンを展開。4月23日から5月31日までの期間限定で、「カドナゾ」というキャンペーンを公式サイトで実施している。100冊分の「終わりの一行」からそれぞれの著者名と作品名を当てるというものだ。
小説の書き出しだけを並べた「kakidashi」も
これまでも小説の書き出しを紹介する試みはあった。紀伊國屋書店では過去に「ほんのまくら」フェアを実施している。小説の最初の一文を印刷したカバーを被せ、書き出しだけで本を選んでもらうというものだ。
それをウェブ上で再現した「kakidashi」というサイトもある。サイトには「これは箱男についての記録である」(『箱男』、安部公房)や「子供より親が大事、と思いたい」(『桜桃』、太宰治)などを始めとしたいくつもの書き出しが並ぶ。気に入った書き出しをクリックするとその作品のページに飛べる仕組みだ。