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“不倫をすること”が目的化されていないーー『あなたには帰る家がある』魔が差してしまう瞬間の現実味

2018年04月27日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 『あなたには帰る家がある』(TBS系)の第1話を観て、実直に作っている作品だなと感じた。ドラマの冒頭で、玉木宏演じる夫が「よその女を抱いて」いる姿と、中谷美紀演じる妻が台所でメンチカツを揚げているところを交互に映す演出も、奇をてらっているという風には見えず、この家で起こっていることが一瞬でわかるものになっていた。その映像に重なる「これはたぶん、だいぶ時間が経った恋の話だ」という中谷のモノローグも小説的にも思える。


参考:中谷美紀がユースケ・サンタマリアに大爆発! 『あな家』が描いた現代女性の叫び


 そんな始まりを観て、これはさぞかし原作に忠実に作っているのだろうと思ったら、そんなことはなく、20年以上も前に書かれた原作を、現代にフィットするように作り変えているのだという。しかも、このドラマでは、100人以上の専業主婦に意見を聞いて、それを活かして作っているそうだ。こういった「誰かに聞きました」というアンケートは、ドラマではそれをどうにか生かそうとして逆に浮いてしまうこともありそうなものだが、この作品に関しては、うまくなじんでいる気がする。


 オレンジページのサイトには、本作の高成麻畝子プロデューサーと『オレンジページ』編集長・鈴木善行氏の対談が掲載されていた。高成氏は、「専業主婦のかたの本音を聞くまでに時間がかかったこと。なかなか心を開いてくれないので、お酒を飲んだりしながら(笑)、じっくり時間をかけてお話を聞きました」と語っている。単に100人の専業主婦に話を聞きましたということを、売りとして使おうとせず、ドラマに、現代のリアリティをとりこもうという姿勢がうかがえた。


 第1話の中身はてんこもりだった。内容としては、専業主婦生活を送っていた真弓(中谷美紀)が、かつて働いていた旅行代理店に再就職することになり、そこで当時との仕事の在り方の違いを実感することになったり、セクハラで困っている若い社員を助けたりもする。一方、夫の秀明(玉木宏)は、住宅販売会社での成績は芳しくなく、家事をすべて行ってくれる真弓の存在を当たり前に思っていて、その上、細かいところばかりを指摘する。夫婦の関係性は冒頭のセリフからもわかるように、冷めたものになっていた。


 真弓と秀明の前に表れるのが、ユースケ・サンタマリア演じる茄子田太郎と木村多江演じる綾子の夫婦で、教師をしている太郎の抑圧的な態度から、「幸せだけれど寂しい」と、ギリギリの状態にあった綾子と、冷めきった夫婦関係と、職場でのやるせなさを感じていた秀明が関係を持ってしまう。


 昨今は不倫ものは定期的に放送されるし、不倫もののドラマであるということが目的化されたような作品もあるが、本作においては、不倫をすることが物語において目的化されておらず、人生において、こんな風にふっと「魔がさして」しまう瞬間ってあるのではないかと思わせる展開で(もちろん、だからこそ悲劇は生まれるのだが)、そんな空気がうまく演出されていたし、役者陣が演じられていたと思う。


 中谷演じる妻も、仕事にブランクがあって情けない気持ちと、家に帰ってからの夫の無関心な態度があわさって、悔しいとか情けないとか、いろんな気持ちが入り混じって、思わず涙を流しながらひとりでご飯を食べるシーンがある。対照的な夫婦の姿を描く場面が、このドラマはいつも巧い。


 本作は、真弓が夫への不満にしても、職場でのセクハラにしても、自分が飲み込むことで解消するような前時代的な女性として描こうとしていないところにも好感が持てる。もちろん、ドラマであるから、これからいろんな出来事を乗り越えて夫婦がまた歩み寄っていくことは予想できる。だが、少なくとも、先日話題となったDomaniの記事(『ワーママのみなさんイラっとしたらごめんなさい!かなりセキララ「ワーパパ」の本音』)のような現代の夫婦の状況(というか、共働きの状況を把握できない夫の身勝手さ)など、今の夫婦にある問題を物語の中に落とし込み、疑問を投げかけながらも、最後には『あなたには帰る家がある』と納得できる結末へと向かっていくのではないだろうか。(西森路代)