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“肉まんくん”から“ブッチャー”へ 快進撃を続ける矢本悠馬、年齢不詳のフレッシュさ

2018年04月26日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 現在放送中のNHKの連続テレビ小説『半分、青い。』で、永野芽郁演じるヒロイン・楡野鈴愛の宿敵のライバル(!?)役・西園寺龍之介(通称・ブッチャー)に扮している矢本悠馬。彼は現在、映画やテレビドラマに引っ張りだこの存在なのだ。


参考:【画像】『半分、青い。』矢本悠馬登場シーン


 本作で矢本演じる龍之介は、鈴愛の同級生。小学生時代は、小太りな体型と意地悪な性格で、1970~80年代に大活躍したプロレスラーのアブドーラ・ザ・ブッチャーからとったあだ名「ブッチャー」と呼ばれていた。高校時代は、普通体型に戻ったものの、あだ名はそのまま。ガキ大将的な要素は薄まり、鈴愛や律(佐藤健)のよき理解者であり、ムードメーカーとして強い存在感を示している。


 矢本の一つの特徴として挙げられるのが、年齢不詳的なフレッシュさだ。現在27歳という年齢は、29歳の佐藤ほどではないが、実際の高校生からは10歳近く離れている。矢本は以前筆者が行ったインタビューで「精神年齢的に学生をやるのはエネルギーを使う。油断すると大人がやる学生の芝居になってしまう。まずは鏡の前で制服を着て、コスプレ感を払しょくするために、自分自身の脳を騙すんです」と冗談っぽく語っていたが、ブッチャーのフレッシュさは、じゅうぶん高校生として成立している。


 本作に限らず、現在公開中の映画『ちはやふる -結び-』や、3月まで放送していた連続ドラマ『賭ケグルイ』(MBS・TBS系)、昨年公開の『ポンチョに夜明けの風はらませて』、『君の膵臓をたべたい』、2016年放送のドラマ『仰げば尊し』(TBS系)でも高校生役を演じているが、キャラクター性が強い『賭ケグルイ』は例外として、気弱な面、情熱的な面、クールな面、素朴な面など、作品ごとに多感な思春期ならではの機微を巧みに表現している。


 もちろんこうした高校生役以外にも、大河ドラマ『おんな城主 直虎』(NHK)では、柴咲コウ演じる直虎に仕える家臣・中野直之を演じ、内に秘める思いや葛藤を、繊細かつ力強く演じ切り、青臭くもありつつ大人な戦国武将を好演。多くの賞賛を受けた。また、映画『トリガール!』では、鳥人間コンテストを目指す大学サークルの設計責任者・古沢を演じたが、メガホンをとった英勉監督から「自由」を与えられた矢本は「悪ふざけ」をしまくりながらも、しっかりと作品の世界観を崩すことなく、大きなつめ跡を残した。


 矢本は、自身を「欲にまみれた俳優」と笑いながら語っていたが、その言葉通り、作品のなかで大きなインパクトを与える演技を見せるだけの大胆さがありつつ、過去のどの作品でも、しっかりと物語のなかに溶け込むキャラクター造形をしている。バランスが素晴らしいのだ。『君の膵臓をたべたい』で演じたガム君などは、北村匠海演じる主人公・僕の理解者という関係性を、数少ないセリフとシーンで成立させている。


 こうした大胆かつ順応性の高い演技は、スタッフや共演者たちとの信頼関係があるからこそ成立するものなのではないだろうか。『君の膵臓をたべたい』で共演した北村は、矢本と7つも年が離れているが「過去何度も共演し、気心が知れている自然の空気感が作品に出ている」と2人のシーンをお気に入りに挙げており、『トリガール!』で共演した間宮祥太朗も、過去の共演で信頼関係が出来上がっていることを明かしていた。


 そこには矢本自身の現場での姿勢が大いに影響しているのだろう。矢本は「若い人が多い現場では、自分が一番年下みたいな扱いを受けています。やっぱり年が上の人間は、下の子を緊張させてはダメだと思う」と共演者がリラックスできる環境を作ることを心がけているという。


 まさに矢本の現場での立ち振る舞いに似た面を持つ「ブッチャー」。本作では、鈴愛の半世紀の物語が描かれるということになっており、今後「ブッチャー」はどの程度の年齢まで描かれるかは現時点では明かされていないが、「大人の役をやりたい。大人になりたい!」と懇願していた矢本の大人になった「ブッチャー」もぜひ見てみたいと思わせるほど愛らしいキャラクターだ。


(磯部正和)