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PPPが「人にやさしく」をカバーしている意味 『けものフレンズ』とデビューアルバムから紐解く

2018年04月25日 18:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 神秘の物質“サンドスター”の影響で動物からヒトの姿へと変身した「フレンズ」と呼ばれるキャラクターたちが、巨大な総合動物園“ジャパリパーク”を舞台に冒険する姿を描いた『けものフレンズ』。TVアニメが2017年冬クール(1月~3月)に放送されるや一気に人気が爆発し、その後ゲーム、コミック、舞台などさまざまなプロジェクトが進行中の『けものフレンズ』に登場するペンギンアイドルユニットのPPP(ペパプ)が、“世界ペンギンの日”にあたる4月25日に、メジャーデビューアルバム『ペパプ・イン・ザ・スカイ!』をリリースする。


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 “Penguins Performance Project(ペンギンズパフォーマンスプロジェクト)”の頭文字を取ってPPPを名乗る彼女たちは、ロイヤルペンギンのプリンセス(CV:佐々木未来)、コウテイペンギンのコウテイ(CV:根本流風)、ジェンツーペンギンのジェーン(CV:田村響華)、イワトビペンギンのイワビー(CV:相羽あいな)、フンボルトペンギンのフルル(CV:築田行子)からなる5人(5羽?)組。アニメでは次回予告のコーナーを担当していたほか、第8話「ぺぱぷらいぶ」では本編にも登場し、アイドルユニットとしての初お披露目ライブを成功させるまでの物語が描かれた。


 加えて彼女たちは、同アニメのオープニングテーマ「ようこそジャパリパークへ」を、どうぶつビスケッツ×PPP名義で歌唱。シンガーソングライターの大石昌良が書き下ろしで提供したこの楽曲は、アニメとの相乗効果や星野源らミュージシャンの「お気に入り」発言によって大きな広がりを見せ、キャスト勢が『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)や『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)といった音楽番組にも出演したので、きっと曲を耳にしたり、パフォーマンスを目にしたりしたことがある人も多いはずだ。ただ、作品を知らない人にとっては、それらの楽曲やパフォーマンスに触れるだけでは、PPPというユニットの本質的な魅力に気づくことは難しいことと思う。そこで本稿では、『ペパプ・イン・ザ・スカイ!』というアルバムを通じて、PPPおよび『けものフレンズ』というコンテンツの奥深さを紐解いていきたい。


 まず、『ペパプ・イン・ザ・スカイ!』の内容について大まかに説明しよう。本作にはPPPがこれまで発表してきたすべての楽曲に加えて、ユニットとしての新曲、メンバー各自のソロ新曲、「ようこそジャパリパークへ」の新規バージョン(PPPと彼女たちのマネージャーであるマーゲイによる歌唱版)、さらにボーナストラックとしてブルーハーツ「人にやさしく」のカバーを加えた全12曲を収録。彼女たちの活動の集大成的な作品となっている。『けものフレンズ』というコンテンツからは、アニメ本編のメインキャラであるサーバル(CV:尾崎由香)にアライグマ(CV:小野早稀)とフェネック(CV:本宮佳奈)が加わったどうぶつビスケッツというユニットもあるが、単独名義でアルバムをリリースするのはPPPが初。これは、PPPがそもそも音楽的な活動を行うアイドルユニットとして結成されたという設定によるところが大きいのだろう。


 アルバムは彼女たちの代表曲「大空ドリーマー」でスタート。この曲は前述のアニメ第8話「ぺぱぷらいぶ」にて披露された、いわばPPPにとって最初のオリジナル楽曲になるわけだが、ここで早くも『けものフレンズ』のキャラソンらしい特質が露わとなっている。ボカロPとして知られるhalyosyが詞曲共に手がけた本楽曲で描かれるのは、アイドルの夢に向かって初ステージの第一歩を踏み出した彼女たちと、ペンギンの生態を重ねたストーリー。ご存知の通り、ペンギンは鳥類でありながら、空を飛ぶことができない。そんな彼女たちが<空は飛べないけど/夢のツバサがある><いつか大空を制すのだ!>と歌うことは、PPPの“ペンギン”と“アイドル”という両方のキャラクター性を同時に表現するものだ。ほかにも<おしくらまんじゅう/押し愛へし愛>はコウテイペンギンが寒さを凌ぐために身を寄せ合う姿に通じるし、<海は泳げるけど/恋に溺れちゃうの>もまた然り。『けものフレンズ』では、各フレンズの設定やキャラクターデザインが、元となる動物に沿ったものになっているのが特徴だが、それが楽曲面においても反映されているのが『けものフレンズ』のキャラソンであり、今回のPPPのアルバムだと言える。


 そういった本来の動物的生態と作品内でのキャラクター性のマッチングをより如実に表現しているのが各メンバーのソロ曲。ロイヤルペンギンが歌う「夢みるプリンセス」は、伊藤翼によるグルーヴィーなピチカートポップが彼女のお姫様感を強調。ジェンツーペンギンは劇中でも「メンバー随一の正統派アイドル」と語られていたことから、80年代のアイドルソングを彷彿させる「Hello!アイドル」でスウィートな歌声を届けている。イワトビペンギンによる「Rockin’ Hoppin’ Jumpin’」は、これぞ名は体を表すといった趣きの熱血度高めなロックンロールを披露。そしてコウテイペンギンの「200キロの旅」は、繁殖期には海岸から200km離れた場所まで移動するという習性を、<200キロ先の未来だって行けるだろう/大丈夫>と歌う応援ソングへと転化した技ありの一曲だ。


 さらにフンボルトペンギンは本作唯一のバラード「やくそくのうた」を歌唱。<心の中のきみは/いつも笑ってる/だから/わたしはどこにいたって/きっと一人じゃないよ>というある種の喪失感を伴った歌い出しから始まるこの楽曲、劇中ではのんびりした口調のマイペースキャラだったフルルにはあまり似つかわしくないもののようにも思えるが、彼女にまつわるひとつのエピソードを知れば、聴こえ方が変わってくるように思う。それは、東武動物公園で飼育されていた本物のフンボルトペンギン、グレープ君との関わりだ。


 2017年4月、同園と『けものフレンズ』のコラボ企画で園内にフルルのパネルが展示された際、グレープ君はそのパネルの前にずっと張り付くようになり、「二次元に恋したペンギン」として話題となる。その後、コラボが終了してもフルルのパネルのみは設置が継続されたのだが、同年10月にグレープ君は逝去。そのことは当時、各メディアにも取り上げられるニュースとなった。柔らかな歌声で<また会いにいくよ/何度だって>と約束を交わすその内容から、グレープ君のことを想起してしまう人はきっと少なくないだろう。


 ほかにも、群れの中で魚を獲るために最初に海に飛び込む勇気あるペンギンを指す言葉をそのままタイトルに冠した「ファーストペンギン」や、halyosyが再びPPPに詞曲を贈った南極大陸のように雄大なダンスポップ「大陸メッセンジャー」(SiZKが共作曲・編曲で参加)など、ペンギンらしさを軸にプロジェクトの内容やリアルとの関わりも含め、あらゆるレイヤーが重なった本作の楽曲は、まさに『けものフレンズ』発だからこそ実現したもの。元ネタになった動物たちのことを知れば知るほど楽曲自体のおもしろさは増すだろうし、逆にこれらの楽曲を聴くことでコンテンツや動物への興味も深まるだろう。そうすればPPPが今作で「人にやさしく」をカバーしている意味も自ずとわかってくると思うので、ぜひこのアルバムを入り口に「すごーい!」と「たのしー!」で溢れた『けものフレンズ』の世界を冒険してほしい。


■北野 創
音楽ライター。『bounce』編集部を経て、現在はフリーで活動しています。『bounce』『リスアニ!』『音楽ナタリー』などに寄稿。