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アニメ的誇張なしで描く繊細な心理描写が魅力 『リズと青い鳥』から感じる実写的リアリティー

2018年04月24日 16:12  リアルサウンド

リアルサウンド

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 武田綾乃による吹奏楽部が舞台の原作小説をアニメ化した『響け!ユーフォニアム』シリーズ。同シリーズのスピンオフ映画『リズと青い鳥』では、『ユーフォ』で脇役として登場する鎧塚みぞれと傘木希美、2人の少女にスポットが当てられている。


 『リズと青い鳥』の主人公・みぞれは、口数が極端に少なく、感情も表に出しにくいキャラクター。『ユーフォ』でも彼女の見せ場回があったとはいえ、個人的にはどちらかといえば影の薄いタイプという印象だった。そのため鑑賞前は、物静かな彼女が本作で主人公としてどう立ち回るのかが想像しにくく、言ってしまえばみぞれはあまり“主人公らしくない”キャラクターなのだ。


 しかし、上映が始まってすぐに「なるほど、こうきたか」と納得させられた。本作は、“みぞれが主人公として立ち回る”のではなく、あくまでも作品全体が彼女の性格を軸に構成されている。それが顕著に感じられたのは、作品の冒頭部分。みぞれと希美の2人が登場しているにも関わらず、なんと数分間ほとんどセリフのないシーンが続くのだ。モノローグもないまま、校内を歩くみぞれと希美。淡々としつつも美しいシーンだとはいえ、ここまで長時間セリフがないアニメ作品はかなり珍しいだろう。


 というのも、アニメには実写作品における“役者の身体性”が欠如しているため、それを補うためにキャラクターのビジュアルや言動が、時には過剰なまでにデフォルメされるのが一般的だからだ。たとえば、本作のタイトルともなっている劇中に登場する童話『リズと青い鳥』の世界を描くパートでは、少女は全身を使って踊るように感情を表現する。だが、前述した無言シーンを筆頭にみぞれが登場する現実パートでは、そうした誇張された言動がほとんど見られない。みぞれは、ほんの少しの目の動きや髪をかきあげる小さな仕草で心の揺れを表現する。デフォルメされた童話パートとの対比もあって、みぞれパートでは、まるで実写作品を観ているかのようなリアリティーと身体性が感じられた。


 また、みぞれの口数が少なく、物語全体にセリフのない“間”が多数存在することが、作品にもう1つの作用も及ぼしていた。この“間”は、まさに本作や『ユーフォ』の舞台となる吹奏楽部がテーマにしている、音楽的な“間”の表現にも通じているのだ。


 劇中、吹奏楽部顧問である滝昇が「音楽には、楽譜に書ききれない間合いがあります」と語る場面がある。この滝のセリフは、本作全体のテーマも示唆しているのだろう。“楽譜に書ききれない間合い”と“言外の感情表現”は、どこか似ている。「楽譜に書ききれない間合いとは何か」という問いを言葉で説明するのはとても難しい。しかし恐らく、感情を言葉以外の方法で表現するみぞれを見ていれば、「きっと、音楽の間合いもこんな具合のものなのだろう」と肌で感じられるはずだ。そうした意味で、本作における“間”の描き方は、大変音楽的であるともいえる。


 実写映画的で、なおかつ音楽的な側面も持ち合わせている本作に触れ、「アニメはここまで多様化しているのか」と非常に驚かされた。“進化”と言うよりも、“多様化”と言った方がしっくりくるように思える。もちろん、本作は『ユーフォ』シリーズの知識がなくとも存分に楽しめる内容なので、普段アニメ作品にあまりふれないような人にも、アニメ映画の多様性をぜひ体感してほしい。(まにょ)