2018年04月24日 10:32 弁護士ドットコム
この春入社した新入社員の中には、ちょうど、会社の「新人研修」を受けている人もいるかもしれません。最近では、外部の研修会社に委託するところもあります。あまりにも研修が厳しいものは、「地獄の合宿」「スパルタ研修」として、毎年のようにネット上で話題になっています。
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今年少し話題になったのが、潮風が吹き荒れるロケーションにある合宿所で、集団生活するというものです。およそ1週間程度、携帯・スマートフォンを取り上げられ、スパルタ教官のもとで、いくつかの「試験」に合格しないといけないそうです。
朝6時30分から朝礼がはじまり、みんなの前で「スピーチ」する。さらに、吹き荒れる潮風で体力を奪われながら、社訓のようなものを暗記する。少しでも間違えると不合格です。極めつけは、まともな地図を渡されず、スマホも持たず、夜間30キロも行進するプログラムです。
病院送りになった人もいて、研修後に多くの人がやめていくみたいです。教育とはいえ、こうした「地獄の新人研修」に法的な問題点はないのでしょうか。もし、心を病んだりした場合、損害賠償を求めることはできるのでしょうか。杉浦智彦弁護士に聞きました。
――新人研修の中には、このようにスパルタ式のところがあります。どのようなレベル・内容だと、法的な問題が生じますか?
会社は、従業員に対して、何でも指揮・命令できるわけではありません。業務上必要といえるものでなければなりません。仮に業務上必要でも、不当な動機・目的でおこなわれるものは許されません。それは、研修などの教育訓練でも同じです。
この手の新人研修の場合、新人の教育として不要なことをさせたり、特定の人にだけ見せしめのように厳しい研修をしたりすることは、違法といえます。
――夜間30キロの行進などは違法になりますか?
社訓暗記や夜間行進30キロはたしかに大変ですが、組織の結束を高めたりする意味があるとして、業務上必要と考えられる可能性はあります。ただ、長期間で、実際に心身の不調が発生したにもかかわらず中断しないような場合には、教育的意味が乏しく、違法な研修と判断される可能性が高いでしょう。
また、新人研修の時間も勤務時間に含まれるので、適切な賃金が支払われていないと、時間外労働・残業代の問題も発生します。
――あまりにもひどい状況から逃げ出したら、クビにされても仕方がないのでしょうか?
研修自体違法ならば、逃げ出しても懲戒することはできません。また、研修自体が違法と言い切れない場面でも、研修から逃げ出した程度で解雇するのは過剰ですので、解雇は無効となるでしょう。
――もし、「地獄の合宿」でケガをしたり、心を病んでしまった場合は、労災はおりるのでしょうか。会社に対して損害賠償を求めることはできるのでしょうか?
新人研修も勤務時間なので、ケガをした場合は、労災が認められます。また、長時間の研修で、達成困難ともいえるノルマが課されたような場合は、心理的負担の強い出来事といえるため、心を病んでしまったことについても、労災が認められる場合が多いでしょう。
また、会社に対しても、安全配慮義務違反ということで、損害賠償を求めることができる場合も多いでしょう。
――ケガをしなくても、そんな研修を受けていたら「会社がイヤ」になる可能性もあるだろうと思います。そういう場合はどうでしょうか?
違法な研修がされていたならば、人格権侵害ということで、損害賠償を求める余地はあります。しかし、そうではない場合は、損害がない限り、損害賠償を求めることはできないでしょう。
――「地獄の合宿」はおすすめしない?
企業にとって、人材の定着は課題の一つです。仮に適法であっても、このようなハードな新人研修をおこなっているということが外部に伝わると、会社の評判が下がり、結局良い人材も集まりにくくなるでしょう。
「私たちの時代は、これくらいが通常だった」と言いたくなる気持ちもわかるのですが、将来の会社の発展を考えると、弁護士としては、おすすめできない方法です。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
杉浦 智彦(すぎうら・ともひこ)弁護士
神奈川県弁護士会所属。刑事弁護と中小企業法務を専門的に取り扱う。刑事事件では、特に身柄の早期解放に定評がある。日本弁護士連合会中小企業法律支援センター事務局員としても活躍。
事務所名:弁護士法人横浜パートナー法律事務所
事務所URL:http://www.ypartner.com/